産婦人科かずこ先生の課外授業 フィールドワーク編

丸橋 和子
東京民医連・立川相互病院産婦人科
ティーンズセクシャルヘルスプロジェクト・スタッフドクター


前号のメディウイング「かずこ先生の課外授業」では、出生前診断にともなう問題点をとりあげました。今回は課外授業の特別編、実際にダウン症の方やそのご家族がどのような想いをかかえておられるのか、専門医はどのように考えているのか、医学生たちがフィールドワークに出かけてきました。

出生前診断が何のために使われるのか?
ダウン症の子どもたちを軽い気持ちで排除する方向にはいかないでほしい

たっちっちの会(ダウン症児とその家族の会、東京都立川市)お母さんインタビュー
インタビュアー :岡真奈美 東京女子医科大学 医学部6年

一つ目の訪問先は、かずこ先生から紹介された親子の集まり「たっちっちの会」。ダウン症児をもつ山口明子さん、佐藤幸恵さん、斉藤亜由美さんの3人のお母さんたちにインタビューしました。

岡:
たっちっちの会の設立の目的や経過、活動内容について教えてください。
山口:
2007年の4月に立ちあげました。最初は4人くらいで集まってお茶をするような会だったんです。集まった目的は不安からかな。4人で立ち上げたら、あっという間にどんどんふえていって、もう7年目で60人以上に。
佐藤:
活動内容はリトミック教室とか誕生会、クリスマス会とか。
岡:
みなさんは、生まれる前にダウン症とわかっていましたか?出産の前後のことについて教えてください。
山口:
私の場合は普通に妊娠して、喜んで、何の疑いもなくただ産んだらダウン症だとわかって、どうしようという感じ。ダウン症については、顔が似通っているとか、知的に少し遅れているのかなといったくらいの知識しかなく、最初はショック。何ヶ月かはどうしようと。生まれたばかりなのに、一生のことを考えてわぁ~となっちゃう時も。でも、日々育っていくから、子育てに夢中になって、あまり私の場合は深く考えずにきたかな。
斉藤:
私は保育学校を出ているので、ダウン症の子どもについてはちょっと知っていましたが、実際に接してみると、みんな個性が違っていて。同じような顔や性格で、同じように育っていくと思っていたのが、健常な子がそうなように、全く違うんだよね。
岡:
相談相手とか、医療機関のサポートとか、たっちっちの会のできる前はどうでした?
斉藤:
うちは心臓の病気があり、NICUに入っていて、看護婦さんとか先生とかに相談とか、話を聞いてもらったり。悲しくなった時とか、悩んだときとか、看護婦さんたちが話を聞いてくれて立ち直れた。
佐藤:
いろいろと先のことを考えると何をどうしていいかわからなくて、ネットで調べると、明るい話も暗い話もあって、でも生の声をきけなくて困っていたところにたっちっちの会と出会うことができた。最初に思っていたほど暗い子育てでなく、むしろ明るい事のほうが多かった。普通の子たちとくらべると落ち込むこともたびたびなんだけど、それ以上に子育てが楽しいんです。自分の子どもを通じて、ダウン症に対して、今までもっていた、こういうことができない、知的にも遅れているというそういうところも霞んでしまうくらい。
斉藤:
子どもたちは人懐こすぎて、度が過ぎて、嫌がられて逆に落ち込むこともあるんです。でも本当に性格は明るくていい子たちで、素直で、無垢で。普通の子を育てるよりたぶん親は楽なんじゃないかな。切り替えも早い。わ~と泣いてもすぐ笑っているし。
岡:
逆に苦労するところは?普通のお子さんよりは、ダウン症の子のほうが大変といったところは?
佐藤:
病気かな。長引く所。免疫も弱くて。幼稚園とか入れたい人も、保育園とか、障害児枠みたいなものが少ないのでほんとうに苦労したよね。幼稚園も1人先生をつける余裕が無いからという理由で断られたり、保育園も障害児枠があるから、いくら働いていても、先に入っている子がいたらその保育園には入れない。普通の子といっしょに育ててくださいといってもそれは駄目ですと断られてしまう。私は働いていますが、生まれてすぐ訓練がはじまり、病院通いもいろいろなところが弱かったりするから眼科、整形外科、定期検診などの通院と訓練の時間を考えると…。すごい理解のある職場か援助の手がないと。それで仕事を断念されているお母さんたちもいる。
岡:
社会への見方とかは変わりましたか?
山口:
最初はもっともっと分けられてしまうと思っていたんだけど、けっこうダウン症について世間が知っていてくれるかなと。そんなにすごくいやな思いを私はしたことはないかな。人の目がやっぱり気になる時はある。
佐藤:
学校の就学の問題にしても、国の方針、市の方針で決められてしまうので、それとたたかうのに疲れてきてしまう。融通がきかないんですよね。
リトミック教室は子どもたちの賑やかな声でいっぱい
斉藤:
そうですね。だいぶむかしよりはサポートは増えているとは思うんですが…。いつも前向きにはいれないんだよね。
岡:
出生前診断が話題になっていますが、それについてお母さんたちはどう思われますか?
佐藤:
検査を受ける受けないというよりは、診断が何のために使われるのかそこが問題なんじゃないかな。診断が出て、生まれてくるということを受け入れられるのかな?受け入れてその子を育てるための準備のためにそれが使われるならきっといいことだろうな…。それが排除する方向にいくのは本当に怖いかな、許せないと。やみくもに高齢出産だからやってみませんかといった、そういう方向にはいかないでほしい。
斉藤:
ダウン症を排除するための検査ではないかという報道もあって、そういうことだったんだってびっくりして、そんなんだったら絶対反対なんだけども、ハンディを持つ子を受け入れる、考える時間を与えられるということだったらいいんじゃないかな。
岡:
今から産むとすると検査を受けますか?また、もし検査を受けていたらと考えたらどうですか?
山口:
私は受けないと思う。どうせ診断がでても産むと思うし、人によると思うんですけど、私は流産の経験もあり、妊娠イコール産むということなので診断は必要ないと。お金もかかるという問題もあるし、たぶんしないと思う。
斉藤:
もしわかったとしても、そこでまた悩むだろうし、そこでも産まないという結論はでないと思ったから受けるのはやめようと。
山口:
難しい。知っていてもたぶん受けなかった。妊婦の時に知っていると不健康な気がしちゃう。でも人それぞれで、わかっていたほうが準備できるとも考えられるけど、私は知っているほうがいやかな。
佐藤:
受けていたらと考えると、ちょっとぞっとすることもあり、産まないことも考えるよね。楽しく過ごす子どもたちを見てはいても、私には育てられないと思うかもしれないし…。
山口:
でもどうしても欲しいという思いだよね。きっと。私たちは不妊治療をしてもなかなかできなかったけれど、それが苦労なくできちゃって、診断がでちゃったら、やっぱり軽くそうなる…。
佐藤:
妊娠しました、診断がでました、障がいというひとくくりで育てるのはむつかしいんだ、じゃあ堕ろしましょうという方向になりがちだから。もう少し、ダウン症とはこういうこともできるんだよとか、書道家とか、大学まで行く子が出てきたり…。こんなに明るくて育てやすいんだよいうことがわかってもらえるといいかな。
岡:
でも、なかなかそんなに明るくはなれないようにも思いますが…。
山口:
そうだよね、難しいかな。
岡:
心臓の病気とか、生まれてすぐに対処しないといけないことについてはわかったほうがいいのかもしれないという意見については?
斉藤:
そうだよね、病気に関しては…。設備のある病院で産むとか…。
山口:
たしかにね。言われても準備できることは心の準備ぐらいしか。それも難しいかも。
岡:
ダウン症の子どもについてよく知ってほしいとか、これから妊娠して検査を受けられる方に伝えたいこととかはありますか?
佐藤:
軽く排除する方向にはいかないでほしい。
山口:
障がいをもった子どもだったら育てたくないと思う人のところにいっちゃってもかわいそうだし…。私たちはその気持がわからないけど、自分の子どもでも愛せない人もいるから。そこに人の命だからとむりやりおしつけることはできないよね…。最後は自分の判断。誰も責められない。
岡:
はじめからその検査を禁止してしまえば早い話ではないかと思ってしまうのですが、それはそうでもないということですか?
山口:
なんで検査出来るようになってしまったんだろう。発達しすぎよね。
佐藤:
検査できるのはわかっているし、禁止したところで実際には…。反対はできないとおもう。なぜかというとその家の事情というのがやっぱりあって、子どもが多すぎてこれ以上手のかかる子はもてないとかの事情もあるだろうし、上にものすごく重度の子がいるからとか、お兄ちゃんがいて二人目がダウン症で、三人目もダウン症の子だということだとお兄ちゃんがかわいそうとか、だから完全に禁止することはないかなとも思う。そういう人たちを助けるという意味でも。
岡:
そうした見方もあるんですね。本日はありがとうございました。

写真は左後ろからインタビュアーの岡真奈美さん、山口明子さん、
佐藤幸恵さん、斉藤亜由美さん。佐藤裕太くん(右)と斉藤克幸くん(左)。



インタビューを終えて

リトミック教室に参加して、お子さんたちの明るさと元気に圧倒されました。ダウン症といっても、性格も能力も千差万別で一括りにできるものではないことを実感しました。

インタビューでは、多くのことを知り、考えさせられました。

ダウン症について事前に知識があったり普段から接したりしていたにもかかわらず、我が子がダウン症だと診断された時に大きな衝撃を受け、深く悩んだという話をきいて、母親としての葛藤が伝わってきました。また、最初は暗く落ち込んでも、その子を育てるうちに、明るくて人懐っこい素直なダウン症の子の良さも感じるようになるというお話が印象的でした。つまり、どんなにダウン症について知識があっても、出生前診断を受けて陽性だと告知されれば、だれでも衝撃を受け、悩み、不安になるのではないかと思うのです。その一方で、育ててみないと分からない幸せもたくさんあるのだろうなと感じました。

また、出生前診断がダウン症を排除するために行われることがあってほしくないという言葉も、ダウン症児のお母さんから伺うと重みがありました。

どうしてもダウン症の子は育てられないという事情がある家族を救うために出生前診断を使うことには理解を示している方もいらっしゃったことは驚きました。育てられない家族のもとに生まれてもその子が可哀想だというお話には納得しました。

生命は多様であり、幸せのかたちも様々だということを受容し認めあえる社会になったらいいと思いました。



専門医の見方
─児童精神科医・川﨑葉子医師(むさしの小児クリニック)を訪ねて

インタビュアー
安東 沙和(あんどう さわ)
大分大学 医学部医学科6年

医師として、ダウン症の子どもたちとどのように関わったらいいのか。二つ目の訪問先として、かずこ先生からは、子どもの成長・発達を見守る専門医・川﨑葉子医師(児童精神科医)を紹介され、むさしの小児発達クリニック(東京都小金井市)を訪れました。

質問1

安東:
母体血を用いた新しい出生前診断が話題になっています。出生前診断の結果によっては産まないという選択をされる方もいらっしゃると思いますが、どう考えればよいでしょうか?
川﨑:
出生前診断だけでなく、医学・科学が進歩したなーと思っています。ただそれが人の幸せとかQOLの向上につながるかどうかは別の次元の問題、自分には出生前診断の是非は今は判断できません。生まないという方がおいでになっても、生むというご両親がおいでになってもよいのでは。発達障がい、あるいはとても重い障がいをもっておられるお子さんを一生懸命育て、家族の絆が深まるご家庭もあれば、軽いと考えられている障がいであっても、家族が大きくそのことに振りまわされ深刻になる場合もあります。生んだ方がいいのか、生まない方がいいのか、結論を出すのはその家族です。
 母体血を用いた新しい出生前検査については、慎重な対応を求めている学会の見解については妥当だと思います。ただ、検査すべきでない、と他人が踏み込んで良いとも思えないです。昨今、育つ力も育てる力も全体的に弱くなってきているのでは、と思える中で、安易な産み分けのツールとしての検査には反対だという思いで検査に反対の声があるのだということもよく理解できます。

質問2

安東:
障がいのある子どもやその家族をとりまく社会のあり方について、先生の思いを聞かせてください。また、医師には何が出来るとお考えでしょうか?
川﨑:
私たちの仕事は、出生前検査を受けようと受けまいと、ハンディを持って生まれてきた子どもたちが「健康」に生きていくためにできるだけのサポートをすることです。そのお子さんだけでなく、ご家族が穏やかに、あるいはうまく過ごせること、お兄妹、ご家族、広くとれば支援者までが「いいなあ」と感じる時間が多くなるようなサポートが目標です。療育通園、子ども家庭支援センター、特別支援教育、障害枠就労等々、30年前を思い起こすと今昔の感です。ただこれは私感ですが、育児サービスが拡充されて親が子どもに向き合うことが減ったように思え、気がかりです。


感想

 今回、川﨑先生への取材にあたり、出生前診断について初めて深く考えました。最近、テレビや新聞で出生前診断に関する報道が増えてきましたが、インタビューをするまでは他人事のように感じていました。

 出生前診断を受けることができるようになり、その結果により子どもを産まないという選択をするケースについて、様々な意見があります。川﨑先生にお話を伺うまでは、命に優劣をつけていることになるのではないかと私自身は否定的な考えを持っていました。しかし、約30年間児童精神科医としてたくさんの子どもさんとそのご家族に向き合ってきた先生のお言葉から、一人の子どもを育てることの大変さや、その家族全体の幸せを作り守っていくことの難しさを感じました。そして、障がいをもって生まれた子どもやその家族を全力でサポートし、安心して育ち育てやすい環境づくりの助けを、医療や教育の面から行っていくことが大切だということを学びました。

 取材を終えた今では、この問題に対しひとつの正解を求めるのではなく、問題に直面した妊婦さんやその家族が出したそれぞれの結論に敬意を払うことが必要ではないかと思っています。


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