医学生のみなさんへ民医連の奨学金制度をご紹介します

「お世話になりました。」あの日、笑顔でその男性は退院していきました。出会ったときに彼の両方の脚はマヒして動かず、絶え間なく腰の痛みが彼を襲いました。いくつかの病院の入退院を繰り返すうちに心も傷つき視線も物腰も攻撃的。その中にどこか諦めも混じっていたようです。その凍り付いた心を解かしたのは、「手術ができない」との説明を繰り返したこれまでの医師と違って、「どうしたら彼は今より幸せになるのだろうか」という想いで彼の話を根気よく聞き続けた青年医師とコメディカルスタッフの医療チームでした。彼の心が解けていくと同時に医学的にも適切な診断と治療が始まり彼の病状は快方に向かいました。

医学生の皆さんはじめまして。私は全日本民主医療機関連合会(民医連)で、医学生に民医連を紹介する部署の責任者を務めているものです。日常的には福岡市で病院勤務医として仕事をしており、冒頭のエピソードは私の病院で見られた光景です。

私たち民医連は医学生の学ぶ活動を応援するために奨学金制度を設けています。医学はもちろんとして他にも多くのことを学ぶ、あらたな出会いの中で充実した学生生活を送る、医療現場をはじめいろんな社会体験をする、どれも医師を志すみなさんにとってとても大切なことだと思います。そんなみなさんの医学生生活を応援したい。今回はその奨学生になりませんかというお誘いです。

民医連はお金のあるなしなどの理由で差別されることのない無差別平等の医療を目指しています。現在、日本の医療制度は「世界に誇る国民皆保険制度」として理解されていますが、実際は高い保険料を払えずに受診を控え手遅れになる患者さん、窓口での診療費負担が重くて治療を中断せざるを得なくなる患者さんが全国津々浦々にたくさんいます。私たちはそのような事態を改善したいと願い、調査し、改善を求め、そして自らは、差額ベッド料をいただかないことを決め(我が国のほとんどの急性期病院は差額室料を徴収しています)、だれもが医療費の心配をできるだけしないで療養できるように努力しています。

今、医学医療の進歩とともに、疾患を臓器単位で認識する傾向にあった医学の在りようを見直されています。iPS細胞などすばらしい進歩をこれからの医学医療に活かしていく一方で、その人を生物学的側面だけでなく心理的、社会的側面など全人的に見つめる力が必要です。たとえば、一人の高齢者が複数の病気を抱えていろんな不自由を持ちながらもその人らしく生き生きと生活していく、子どもが適切に疾患を予防され心身ともにすこやかに育っていく。そのためには、その人や家族をまるごと診る力が必要です。さらには、その地域社会まるごとの健康を実現していく、WHOの提唱する世界の医療の流れは今そこに向かっています。そこでも、医師にはとても大切な役割が期待されています。

人間は臓器の集まりではないのです。目の前の人を、歩んできた人生も今の生活もこれからの人生もある一人の人間として診る。いろんな職種のプロフェッショナルと力を合わせて患者さんにかかわっていく。今、そういうことができる医師が地域医療の現場で求められています。さまざまな職種の人たちと一緒に地域の中に溶け込んで自らの力を発揮していく、地域住民にとって頼れる存在となる、楽しくてとてもやりがいのある仕事だと思います。

民医連の病院は、それぞれの地域の人々が自分たちの病院を作りたいとお金を持ちよって作られました。私たちはそのとりくみが始まって以来、一貫して自分たちで後継者を育成してきました。もちろん、大学など教育機関とも協力しながらですが、「地域で活躍する医師は地域の中でこそ育つ」、これが私たちの確信であり、初期研修が必修化されるずっと前から続けてきた私たちの医師養成の誇りでもあります。その実践は日本の医師研修を評価する唯一の第三者機関であるJCEP(卒後臨床研修評価機構)からも非常に高い評価を受けています。ぜひ、一人でも多くの医学生の皆さんが、私たちと一緒にまなび成長してほしいと願います。

民医連の奨学生は、奨学生活動を通じて、医学医療のこと、広く社会のことをさまざまな機会で学び、またボランティア活動への参加などを通じて自分の世界を広げています。ほかの大学の医学生と交流する機会がたくさんあることも大きな魅力です。「はじめて震災復興ボランティアに参加して知ったこと感じたことがたくさんあった」「民医連の奨学生になって医療現場のことなどたくさんのことを勉強できた」「いろんな医学生とまじめに話し合っていろんな考えがあるんだなと知った」など・・・みなさんの医学生としての成長、医学生生活の充実にもきっと役に立つことと思います。

そして、奨学生だった医学生の先輩たちは、みなさん医師となり、地域医療の守り手として私たちの病院で活躍しています。絶対に断らない!と救急医療でその地域を支えている人、自分の専門分野でその分野をけん引する活躍をしている人、在宅医療を中心にその地域の主治医として頼りにされている人、子どもの貧困や虐待問題に行政や学校と力を合わせて取り組んでいる人・・・本当にいろんなスタイル、姿で、それぞれの自分の理想の医師像に向かって誠実にがんばっています。

地域医療の現場で、地域の人たちのすぐそばで、「困っている人の役に立ちたい」という思いがある人はぜひ、民医連の奨学生になって、民医連のこと、日本の地域医療のこと、世界の保健医療のことなど大いに学び、わたしたちと一緒にこれからの地域医療のありかたを考え創り出していきましょう。みなさんの参加をこころからお待ちしています。

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