研修医マガジン

小児科医としての理想があるからこそ、自分を信じて進むトランジショナル・イヤー 岡山協立病院 長谷川怜央 医師

岡山協立病院の長谷川怜央医師が笑顔でインタビューに答える様子

理想の小児科医を目指して研鑽を積む長谷川先生。初期研修の2年間を終えたあと、自らの意思でTY研修という道を選択しました。

周囲からのアドバイスや心配の声にも真摯に向き合いながら、なぜ今、成人の疾患を学ぶ時間を設けたのか。自分を信じて納得のいく選択を重ねてきた長谷川先生に、現在の率直な思いをうかがいました。

診察室のパソコンに向かう長谷川怜央医師

周りに相談しやすい環境で、子どもとじっくり向き合う1か月

岡山協立病院では、どのような一日を過ごしているのですか?

朝8時頃に出勤し、8時30分からはじまるカンファレンスに向けて、担当患者さんの情報を収集しています。カルテを見たり、時間があれば回診に行ったりもしますね。その間で判断できそうであれば、検査内容や治療方針を考えます。

日中は外来のほかに救急外来に入ることもありますし、手技の習得にも力を入れたいと思っているので、検査にも積極的に関わっています。病棟業務に割ける時間が限られているので、定時の17時30分までの間に隙間時間を見つけて業務をこなすよう意識していますね。

高松平和病院の小児科では、どのような業務をしているのですか?

クリニックでの外来と病棟の患者さんを診ています。ほかの先生方と協力して業務を進めているので、比較的余裕をもって仕事ができていますね。外来の合間に、患者さんの情報や症例を振り返りながら勉強できるのもあり、とても充実した時間を過ごしています。

マリンライナーでの通勤中に見える瀬戸内海と島々
約1時間の“マリン通”(マリンライナー通勤)で見る景色

実は、初期研修1年目で小児科にローテーションした際、高松平和病院にお世話になりました。病院はアットホームな雰囲気ですし、病院外で子どもと関わる機会が多いので、楽しいです。たとえば、子ども食堂を開いたり、クリニックに来る子どもと登山やキャンプ、サイクリングに行ったりすることもあります。

橋を背景に、クリニックに通う子どもたちとサイクリングを楽しむ様子
クリニックに来る子どもたちとサイクリング

岡山協立病院と高松平和病院はどちらも民医連の病院ですが、違いを感じますか?民医連以外の病院との違いもあれば教えてください。

岡山協立病院と高松平和病院の違いはあまりなく、雰囲気も似ています。一方で、民医連と民医連以外の病院では、医局の雰囲気に違いがあります。民医連の病院は、ほかの先生方やスタッフの方との距離が近く、相談しやすい環境です。

長谷川怜央医師が隣の男性と笑顔で写る記念写真
高松平和病院の原田院長と。
民医連の病院の魅力は、院長やスタッフの方との距離の近さ。

基本的に一つの医局にすべての科の先生がいらっしゃるので、相談しやすいと感じるのかもしれません。ほかの科の先生に相談しやすいのは、研修の質を高めるのはもちろん、安全な医療を提供するためにも大事な観点だと思います。その環境が整っているのが民医連の病院の良さの一つですね。

「ありがとう」の握手に応えられる医師に 

これまで患者さんと向き合ってきて、印象的だったエピソードを教えてください。

今でもはっきり覚えているのは、研修医になりたての頃に担当させていただいた患者さんです。結果的に悪性リンパ腫という診断を受けた方でした。

医師としてかなり専門的な知識が求められる状況だったので、ほとんど上級医の方が対応してくださいました。当時の私にできたことは、毎日回診に行って、患者さんとお話しするくらい。

それでも、治療を受けるために転院する際、私に「ありがとう」と言って握手をしてくださいました。日に日に体調が悪くなっていく患者さんに対して、症状を落ち着かせるための薬の取り方もままならず、私自身がなにかをしてあげられたわけではありません。

「自分が医師としてできたことはあったのだろうか」という無力感を抱いていたのですが、「ありがとう」と言っていただけて嬉しかったですし、救われました。でもそれ以上に、この「『ありがとう』に応えられる医師になりたい」と強く思うきっかけになりました。

そんななか小児科医を選んだのは、もとから目指していたからでしょうか?

もともと子どもが好きなのですが、だからこそ小児科医は選択肢にありませんでした。学生時代に、子どもが好きな人ほど「かわいそう」という気持ちになってしまい、つらくなると聞いていて。

でも、初期研修で小児科にローテーションをして、実際に子どもと向き合ってみると、やっぱりかわいいですし楽しいなと思って、進路の選択肢に入るようになりました。

医療現場では、疾患だけではなくて、生活習慣や社会的背景も踏まえて診察しようとよく言われます。いわゆるSDHの視点ですね。どんな人と出会って、どんな生活を送ってきたかが今に影響するのは、年齢に関係なくどの患者さんにも言えることです。

ただ、とくに子どもは、身体の発達はもちろん、人間性を育む時期にあるからこそ、その一瞬の出会いやかけられる言葉に、人生が大きく左右される可能性があります。そこで自分が医師として、人として関わり、その子の将来を良い方向に変えられるのなら、すごくやりがいのある仕事だと思って、小児科医を目指そうと決めました。

小児科医としての理想像があるからこそ選んだTY研修

身ぶりを交えながらインタビューに答える長谷川怜央医師

なぜTY研修を選んだのでしょうか?

初期研修の2年間だけでは物足りないと感じていて、医師としてもっとじっくり学びたいという思いからTY研修を選びました。TY研修は自由度が高く、いろいろな使い方ができるのですが、私は小児科医を目指すと決めたうえで、もう1年、成人の疾患を学ぶことを目的にしています。

というのも、小児科を目指すことは初期研修中に決めていましたが、単に子どもを診る小児科医ではなくて、成人の疾患の知識もある医師でありたいと思っていて。幅広く基礎知識を身につけて小児科医に進むには、初期研修の2年間では学び足りませんでした。

いつ頃TY研修を選ぼうと決めたのですか?

最終的に決めたのは、初期研修2年目の夏頃です。実は小児科医になるか総合診療科医になるかを決めかねていました。小児科医になるならTY研修を取ろうと決めたのが、初期研修1年目の終わり頃です。

総合診療科医を目指すなら、そのまま成人の疾患を診ることになるので、TY研修は取らなくてもいいかなと思っていました。総合診療科の専攻医になるなら岡山協立病院に残るつもりで、就職活動をする必要がなかったので、どちらにするかをゆっくり考えて決めました。

同期と違う進路に進むことに不安はありませんでしたか?

じっくり考えて、きちんと目的をもって選んだ道だったので、不安はありませんでした。でも「1年間をTY研修に使っても良いの?」と周りからは心配されましたね。

あとは率直に「1年間成人の疾患を学んで小児科医になったところで、今後どの程度活かせるかがわからない。意味がないかもしれないのでは?」という意見をいただいたこともありました。

ただ、10年、20年と経験を積んだベテランの先生方に「専攻医になるのが1年遅くなったとしても、10年経てば実力は同じになる」というようなアドバイスをいただいて。「自分の知識や経験を増やすために1年間を使うのは、医師としての幅を広げるためにも価値がある」とも言っていただけたのが心強かったです。

今後は、この1年を取り返すくらいの勢いで進めば良いですし、TY研修で過ごすからこそ学べることは、40年の医師人生において、きっとアドバンテージになると考えています。

TY研修で4か月を過ごしてみていかがですか?

長谷川先生:取って良かったと感じています。岡山協立病院の初期研修は、主体的に取り組めるようなカリキュラムなので、患者さんに対して主治医のような関わり方ができます。とはいえ、あくまでも研修医なので、任せていただく業務は限定的でした。

その点、TY研修では外来を持ったり、より深く医療に携わったりしているので、これまでは見えていなかった医療現場のリアルを知ることができます。あとは、初期研修では断片的な理解にとどまっていた疾患や病態を、より包括的に捉えて、俯瞰する力が身についている実感があります。

「今のベスト」を信じ、主治医として患者さんと向き合う日々

診察室でキーボードに手を置く岡山協立病院の長谷川怜央医師

TY研修で医師として仕事をするようになると、研修医よりも裁量権が大きくなったかと思います。違いを感じますか?

感じますね。研修医のときは、検査や治療方針について、すべて指導医や上級医の方に確認をとって対応していました。チーム体制としても、研修医の担当患者さんの情報を上級医がすべて把握するように組まれていました。

今はTY研修中の医師として、主治医になれますし、一部の手技を除いて基本的には一人で処置できます。とくに研修医と診療にあたるときは、私に決定権がある状況になるので、自分で決めて動く重みを感じます。

未来の長谷川先生は、TY研修を選んだことをどう感じると思いますか?

今回のことに限らず、初期研修の病院選びや今後の進路など、大きな決断をする際は、自分で最低限のことを調べたり準備したりして、ある程度の根拠をもとに判断します。なので、未来の自分が振り返っても、TY研修を選んだことに後悔はしないのではないでしょうか。なにより、最終的に自分が目指したい小児科医になれるのであれば、どんな道を選んでも良いと思っていて。

自分がいちばん近道だと思って選んだ道が、必ずしも近いとは限らないですよね。やってみて問題なければそのまま進めば良いですし、違和感があって途中で道を変えたとしても、目指す姿が変わっていないのであれば、その選択も間違いではないと思います。

少なくとも今の段階では、自分の思い描く理想を叶えるためには、TY研修がベストだと考えているので、自信をもって進んでいます。

TY研修を取るか悩んでいる方に向けて、アドバイスをお願いします。

私自身まだTY研修中なので、正直なところ「TY研修は絶対に取るのが正解」「この1年をTY研修にあてても、今後の医師人生に大きなマイナスはない」とまでは言えません。

ただ、一つ言えるとすれば、目的をもって取るなら、価値のある1年になると思います。初期研修の2年間で学べる内容と、TY研修の1年間で学べる内容はまったく違います。研修医として過ごした2年間が、TY研修で過ごしたこの4か月に匹敵するほど、濃い時間を過ごしていますね。

TY研修終了後の進路を教えてください。

TY研修は1年と決めているので、来年度は地元の神奈川で、小児科の専門医を目指す予定です。その後のキャリアは模索中なので、3年間の専攻医研修の間にじっくり考えたいと思っています。小児科のサブスペシャルティ領域で専門性を磨きつつも、総合的な視野を大切にしたいですね。

あとは、小児科に来る子どもと一緒に遊びに行ったりスポーツをしたりして、健康作りをサポートできたらと思っています。今の子どもは、私の幼少期よりも遊ぶ環境が限られている印象です。だからこそ、体を動かして楽しめるような機会を作ることが、医師としての喜びであり、人としての夢でもあります。

PROFILE
長谷川怜央

長谷川怜央

はせがわ れお

岡山協立病院 (卒後3年目)

出身大学 岡山大学医学部

TY研修では、初期研修時に入職した岡山協立病院に在籍。
総合診療科の医師として、内科の専攻医と同じように外来や救急外来を担当するほか、主治医として担当患者を受け持つ。
1年間のTY研修のうち、1か月を高松平和病院の小児科医として過ごす。

岡山協立病院にて初期研修修了
趣味:サッカー、登山、ギター
好きな言葉:「やればできる!」

掲載日:2026年10月14日 /更新日:2026年9月24日

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