研修医WEBマガジン やる気の源 ― 井上 裕次郎 ―

どうしたら患者さんが望む理想の医師になれるのか?

私には学生時代にずっと考えていたある命題が存在しました。それは「どうしたら自分が目指す理想の医師像に近づけるか」でした。人によって理想の医師のイメージは当然異なります。私の場合はもともと自分の身近な人間を守りたくて医師を目指しました。年齢を重ねるにつれ、医師の仕事が社会的な意義が大きい仕事であると気づき、命題が「どうしたら患者さんが望む理想の医師になれるのか?」ということに変化してきました。そして医師となり2年間の研修の中で多くのことを学びました。
自分は医師に向いてないと心底落ち込んだ経験

その中で1番自分が嫌になった話をしましょう。1年目の冬の平日の夕方、緊急で入院した患者さんの担当になり、お話を聞くために病室に伺いました。その患者さんは高齢で、リウマチの既往があり、大腿部に難治性の化膿性関節炎があるのですが、手術で膿を取りだすことは体力的に難しいと考えられて、発熱と解熱を繰り返し入退院している方でした。前回の退院もほんの1ヶ月位前でしかも半年近くも入院していました。

担当となり、2週間ほどたったとき、突然、患者さんから担当医を変えてくれと涙ながらに言われました。その理由は私の患者さんに対する態度がよくないということでした。問診の際に患者さんが右腕をぜんぜん動かさなかったので麻痺があるのですかと聞いたのですが、患者さんは右手にリウマチがあり、私がリウマチを知らないと勘違いされ、すごくショックだったそうです。

また、夕方、回診した際に片目が赤いからすぐに眼科の先生に診てもらいたいと訴えられ、緊急性はないので無理ですと答えたことが冷たいなどを指摘されました。確かに誤解の部分もあったかもしれませんが、私の発言内容はもとより、言い方や態度が良くなかったというのが根底にあったと後悔しています。悪意が無かったとしても、自分の行為や発言が患者さんを深く傷つけてしまっていたことがショックでした。本当に自分は医師に向いてないと心底落ち込み、そのまま主治医を変えてもらおうと考えました。
患者さんと向き合う

しかし、指導医から担当医を続ける機会をいただき、看護師さんと回診するという条件で担当医を続けることになりました。時間を重ねるにつけ、少しずつ誤解も解け、丁寧な態度で慎重に受け答えをするよう心がけることで、内科の研修期間が終わるころにはすっかり信頼関係が築け、患者さんと家族からいつ回診に来てくれるのかと言ってもらえるようになりました。自分が医師に向いているかはわかりませんが、恐れずに再び患者さんと向き合いたいと思えるようになりました。

このようにもう一度やり直せたのは一緒に付き添ってくれた看護師さんたちと、未熟な自分のため、患者さんに頭を下げてくれた指導医のおかげです。
患者さんとの関係から学ぶべき大事なもの

先に挙げた「患者さんが望む理想の医師になる」ためには、身につけることは本当にたくさんあります。今回のことは患者さんとの関係から学ぶべき大事なものだったと感じています。日々の仕事での患者さんとのやり取りの中でこちらがやる気を失いかけることもあります。しかし、そんな時に再びやる気を起こさせてくれるのもまた患者さんであることも1つの真理だと思います。
Message ― メッセージ ―

「患者さんが望む理想の医師になる」ためには、
身につけることは本当にたくさんあります。

― 井上 裕次郎 ―
Profile

○所属 東京民医連・みさと健和病院、2年目、初期研修医
○経歴 近畿大学2012年卒、2012年4月初期研修
○趣味・特技 サッカー観戦 華道(小原流、准教授)

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