後 編

講師:臺野 巧先生

今回は、2017年から始まる新専門医制度のことや、
研修の中でどのような力をつける必要があるのかを聞いてみました。

1回目の対談では、初期研修の選び方から生涯学習の大切さまでお話を聞きました。
今回は、2017年から始まる新専門医制度のことや、研修の中でどのような力をつける必要があるのかを聞いてみました。

内科専門医と総合診療専門医の違い

斎藤 2017年から新専門医制度が始まりますが、そのことについてお聞きしたいと思います。内科と総合診療を選択するのはあまり違いがないように思えるのですが、いかがでしょうか?

臺野 すごく良い質問ですね。2017年から始まる、新内科専門医と総合診療専門医の違いについてですが、扱う病気に関しては似通っているかもしれませんね。新内科専門医と総合診療専門医のプログラムの細かいところについては、議論している最中なので、あまり明確に提示はされていないのですが、新内科専門医については、内科の疾患に関して、かなり幅広く診ることを求められます。

総合診療専門医については、今の家庭医療専門医を土台にして議論が進んでいますのでそれを前提に話をします(参考・「家庭医療専門医の認定に関する細則」)。家庭医療専門医は、ポートフォリオと呼ばれるレポートの提出が必要ですが、その項目を見ると、実は疾患に関する項目はそれほど多くありません。確かに幅広い疾患の知識も大事ですが、家庭医療専門医に求められる能力とは、「地域コミュニティをケアする能力」とか、「患者さんとラポールを形成する能力」、「EBMを用いて問題を解決する能力」や「生物心理社会モデルを用いて問題を解決する能力」施設外や他職種と連携をやったポートフォリオを出しなさいというような非常にユニークなところを専門的に求めています。地域医療をやる上でこれらの視点がないと上手く出来ないところです。

総合診療医の役割

斎藤 光里さん

斎藤 総合診療専門医は診断までを行うのでしょうか。それとも、治療もしっかり行うのでしょうか。

臺野 総合診療専門医は、セッティングによって仕事の内容が変わります。例えば、当院は450床あり、それなりに各専門科も揃っている病院ですが、総合診療医は振り分けだけをやっているわけではなくて、病床を持って診療にあたっています。症例も肺炎から尿路感染症、ショック状態の患者さんもおり、きちんと入院で治療を行なっています。それでは、呼吸器内科の先生は何をしているかというと肺がんや間質性肺炎など複雑な症例を診ています。一般の市中肺炎や高齢者の誤嚥性肺炎などは総合診療医が診ています。 振り分けだけやっているのは、大学病院など特殊な病院だけだと思います。

今の医療の問題点として、臓器別専門の先生が、専門に集中できていないということがあります。臓器別専門の先生が本来は、プライマリ・ケアレベルで治せるような病気まで抱え込んでいるために、その専門性を充分に発揮できていない問題があります。それは、ジェネラリストがあまりにも少ない、もしくは病院にいないという課題があります。もっと効率のよい日本の医療体系をつくるには、総合診療医がもっと増えて、多くの部分を総合診療の医師がカバーして臓器別専門の医師が専門に特化し、専門的技術を活かせる医療体制にしたほうが効率がよいと私たちは考えています。実際に、臓器別専門医でもそのことを言っている先生も結構います。

例えば土屋了介先生(外科医、元国立がんセンター中央病院長)は、外科医はそれなりにいるけど、外科医一人あたりの手術症例が少なくなってしまったり、外科以外の仕事に追われてしまったりしているとおっしゃっています。臓器別専門医と総合診療医が上手くコラボレーションできるといいと思います。そういう意味では勤医協中央病院は、それなりに総合診療医がいるので普通の病院よりは、上手くいっている方だと思います。しかし、まだ不十分で、各科の患者さんが肺炎や尿路感染症になっても普通に診てくれるので助かっています。そこは課題です。

臺野 逆に質問してもいいですか?総合診療に興味を持ってくれて嬉しいのですが、学生さんの総合診療や家庭医療に対してどのようなイメージをお持ちなのでしょうか?

斎藤 札幌医科大学は、総合診療に力を入れていて、それに関する授業も多いこともあり、総合診療や家庭医療の大切さを理解し、関心を持っている学生はいます。また、医師だから専門外のことも診られるようになりたいと思う学生も総合診療に興味を持っています。

逆に、総合診療を曖昧な捉え方をしている学生もいます。全部診るのは難しいと思っていたり、専門治療を突き詰めて行うことが出来ず、中途半端な科だと思い込んでいる方もいるようです。また、患者さんに向けても「特定の疾患の専門家」だと言えないイメージを持っている学生もまだまだいます。

昔に比べ総合診療に興味を持っている方は増えていると思いますが、まずは臓器別の専門性を身につけてから、将来的には、開業してから幅広く診たいという学生も多いようです。

臺野 ありがとうございます。勉強になりました。総合診療医がちょっとずつ浸透しているのは嬉しいです。新専門医制度では、19番目の専門領域として認められているので、学生の皆さんは胸を張って総合診療医を名乗ってもらえ、患者さんにも認知してもらえるように努力するのが私たちの役割だと改めて認識しました。

サブスペシャリティをとるには

斎藤 新専門医制度では、サブスペシャリティも取得できるようなのですが、例えば産婦人科の専門医を取得後、小児科をサブスペシャリティとして取得することもできるのでしょうか。

臺野 巧 医師

臺野 まず新専門医制度は基本となる領域(基本領域)とサブスペシャリティ領域があり、基本領域には19の専門科があります。小児科専門医も産婦人科専門医も基本領域になりますので両方の取得は難しいかもしれません。この基本領域を取得した後、サブスペシャリティ領域を取得することになりますが、それぞれ制限があります。

例えば、内視鏡のサブスペシャリティを取得したいとしたら、内科専門医からは取得できるかもしれませんが、耳鼻科専門医からは取得できないかもしれない。ただ、基本領域からサブスペシャリティを取得する条件の議論はこれからなのでまだ分かりません。

新制度への移行措置

斎藤 私の一つ上の世代から新専門医制度がスタートするのですが、すでに専門研修をされている世代の先生の皆さんはどうなるのでしょうか。

臺野 今までもっている資格について移行措置がとられると言われています。学会によっても異なると思いますが、例えば、内科専門医を持っている先生は、新内科専門医に移行できるとなっています。

今、内科認定医という資格があるのですが、認定医の資格は今後無くなります。認定医を持っている先生は移行措置の対象になっていて昨年から移行の対応が始まっています。

齋藤さんは初期研修を終えて、専門研修として基本領域のプログラムを選ぶことになります。総合診療医に関心があるようなので、ぜひ総合診療専門医のプログラムを選んでほしいなと思います。

栃窪先生と小野先生は現行の旧制度で専門医を取得できますので、現行制度できちんと専門資格をとっておけば移行は比較的容易にできると言われています。旧制度で資格をとらなければ新制度で専門医を取得することになります。

北海道民医連が目指す専門医とは

斎藤 北海道民医連ではどのような専門医を養成するのでしょうか?議論がされていたら教えて下さい。

臺野 まさに今、議論している最中です。今年度中に各科の研修カリキュラムの骨組みが提示されるので1年間かけてプログラムをつくることになります。北海道民医連では、日本のどの地域でも活躍できる医師を養成しようと総合診療医のプログラムの検討を進めています。例えば、僻地でも家庭医としてきちんと診療ができ、大きめの病院でも総合診療医としてやれるようなイメージです。

例えば、大きめの病院の場合、ただ患者さんを診ているだけではなく、科をまたがるような仕事をしないといけません。私たちの病院では褥瘡チームに総合診療医が入っています。このように診療はもちろんのこと褥瘡や感染対策などの院内の委員会、さらには医師研修にもきちんと貢献できる医師を育てています。その病院や診療所のセッティングに応じてフレキシブルに活躍できる医師を育てたいと思っています。

斎藤 栃窪先生は、心臓外科医を目指しているとのことですが、そのような連携や総合性を持った心臓外科医を目指されているのですね。

栃窪 藍 医師

栃窪 はい、それを目標に研修しています。初期研修を始めた時は2年を終えたら大学に戻って専門研修をしようと考えていました。ところが、初期研修の2年間で、ジェネラルな考え方がとても大事だと思うようになり、「専門外の病気は診られなくていいじゃん」とはならないと感じるようになりました。

臺野 来年の栃窪先生の後期研修プログラムを見ていると、腎臓内科や糖尿病の疾患について研修してから外科の研修に入る予定ですよね。たしかに当院の臓器別専門医の先生はかなり幅広く診られます。それは、昔からそのような教育をしていたという事もありますし、2002年から総合診療病棟を教育病棟して立ち上げて研修を行なってきていますので、総合診療病棟で育った先生方が各専門科で頑張っているということもあります。他の病院ではあまり見られない財産です。

斎藤 初期研修で診断能力も身に付けながら、地域を見る力や多職種と連携する能力を身につけるのは、患者さんの安心につながりますね。

臺野 どうしてそれが出来たかというと、私より先輩の北海道勤医協の先生は、専門研修に進む前に診療所での研修を経験していました。「ニコニコ路線」と言って、診療所で2年間の経験を積むので、日常診療で遭遇する頻度の高い疾患は基本的に経験していました。 専門研修では専門的な研修を行う一方で幅広い視点をどのように維持していくのかが課題になってくると思います。

今後は、北海道勤医協の研修到達目標の設定を明確に打ち出してしていきたいと思っていますし、アピールしていきたいと思っています。そのための議論を1年かけて行なっていきたいと思います。総合診療医のプログラムはもちろんのこと、内科の専門研修のプログラムづくりにも関わっていきますので、どんな内科専門医を育てていくのかも考えたいと思っています。内科学会は、内科専門医は内科疾患をジェネラルに診ると言っていますが、内科専門医にもある程度地域を見る目は必要だと私は思っています。

大きな病院だけで研修を積むのではなくて、1年間程度は地方の中規模病院で経験を積むことが必要だと思っています。その方が、疾患も地域も幅広く診られる内科専門医を育てることになると思います。他と同じプログラムを作ってもおもしろくないですしね。

学生時代にしかできない経験が大切

斎藤 「良い医師」をめざす全国の医学生に向けて、経験しておいた方がよいことや勉強した方がことなどメッセージはありますか?

小野 敦彦 医師

小野 最初は目標を持って医学部に入学したと思います。自分の中にある“ぶっとい芯”を心の中に持ち続けて、貫き通していくことが大事じゃないかと思います。ブレないように頑張って下さい。

栃窪 私は遊んだほうがよいと思っています。医学の世界は意外と閉鎖的な部分もありますので、旅行やアルバイトなどを通じて、医学とは全く違う世界の空気を吸う経験をした方がよいと思います。医学部は実学の学校なので社会に出てからの常識はあまり教えてくれません。色んな経験を積み、社会を学ぶという意味で遊んだほうがよいと思います。

斎藤 私自身は家庭教師や塾の講師のアルバイトだけではなくて、飲食店や体を使うような大変なアルバイトを経験したことは良かったと思っています。また、東日本大震災の支援ボランティアにも行き、貴重な経験を通じて多くのことを学びました。時間がたくさんある学生時代にしかできないことを経たくさん験できたらよいですよね。あと、部活も先輩や後輩など仲間との関係を通じて社会性を学ぶ場にもなりましたので部活に入ることもお勧めします。

臺野 学生生活はたくさん楽しんでほしいと思います。私もすごく楽しい学生生活を送ることが出来たのでよい思い出になっています。私は大学寮で6年間過ごして、寮長の仕事をしました。寮を新しく立て替える時期だったので、大学と交渉などもしました。あと、学生会もやっていました。もともと、学生会がなかったのですが、当時学生の意見を取りまとめて代弁する学生自治会とサークル協議会があったのですが、大学は自治会を認めていませんでした。

一方、サークル協議会はサークルに入っていない学生の意見を取りまとめて代弁することはできないという歪んだ状況でしたので、自治会とサークル協議会を統合して学生会という新しい組織を立ち上げる仕事をしていました。

また、4年生の時には大学祭実行委員長も経験しました。そういう事を通して色んな人と会って話したり、交渉したりしたことが、今になって活きています。どんどん、色んなことにチャレンジしたら良いと思います。

あと、学年が上がっていくと大学病院で臨床現場を体験する臨床実習を行うのですが、大学病院は一般の医療の中でも高度化した特殊な医療です。大学病院だけを経験して判断するより、色んな医療現場を経験すれば視野を広げられますのでぜひチャレンジしてみてほしいです。

斎藤 今日は本当にありがとうございました。

一同 ありがとうございました。

‣家庭医療専門医の認定に関する細則(抜粋)
PDF(ファイルサイズ:0.54M)

※日本プライマリ・ケア連合学会より

前編「総合診療医を目指す医学生」


Profile

  • 臺野 巧(だいの たくみ)
  • 勤医協中央病院・総合診療センター長
  • 初期研修プログラムディレクター
  • 家庭医療後期研修プログラムディレクター
  • 1993年札幌医科大学卒
  • 趣味は、マラソン、旅行、音楽

研修医&医学生

  • 小野敦彦(おの あつひこ)
  • 勤医協中央病院1年目初期研修医
  • 進路は悩み中
  • 2014年秋田大学卒
  • 趣味は、ボクシング、筋トレ、バンド
  

  • 栃窪藍(とちくぼ あい)
  • 勤医協中央病院2年目初期研修医
  • 心臓外科志望
  • 2013年山形大学卒
  • 趣味はピアノ演奏

  • 斎藤光里(さいとう ひかり)
  • 札幌医科大学5年
  • 総合医志望
  • 趣味は、ダンス部、旅行(カナダ、イタリア、タイ、フィリピン、ドバイ)