講師:今村 祐子先生

:今村 祐子先生

研修医第1号として、上戸町病院の研修プログラム作りにも貢献

上戸町病院が臨床研修病院となった2009年、その一期生となった今村医師。指導を受ける身ではありながら、同時にどういう研修をすれば必要な知識や技術が身につくのか、自分がなりたい医師にどうやったら近づけるのか、指導医とともに一緒に考え、意見を出しながら上戸町病院の研修を作りあげてきた存在でもある。

―まず、今村先生はどのような理由で医師を目指し、上戸町病院での初期研修を選ばれたのでしょうか?

今村:なぜ医師を目指したのかははっきり覚えていませんが、小学生の時に父に「医師を目指したらどうか」と言われたことがきっかけだったかもしれません。なんとなく社会の役に立つ職業につこうと思っていて「ああ、確かにいいかも」と思った程度でした。その後、親族の死なども経験して医学部を目指しました。高校生のときに考えていた医師のイメージは町医者やかかりつけ医で、高度先端医療を行う医師になりたいとは思っていませんでした。大学入学後に上戸町病院の見学をして、プライマリ・ケアの現場を見たときに、直感的にこんなところで働きたいと思いました。それに「差額ベッドを取らない無差別平等の医療」というものに感動したのを覚えています。

―今村先生はこの上戸町病院の研修医第1号ということですが。

今村:上戸町病院自体は、1982年の開院当初から卒後研修を受け入れて、医師養成を行ってきました。2009年に基幹型臨床研修病院の指定を受け、そこに私ともう一人の医師が最初の研修医としてやってきたのです。ですから、第1号ではありましたが、医師を育てる環境はあったと思います。ただし、プログラムなどは私の世代が最初ですから、すべて手探りで研修をしながら作られていきましたね。

―当時のご苦労などはありますか?

今村:当院のプログラムは「たすきがけ研修」という、九州沖縄地協の協力病院をローテイトし、研修する方法を取っています。中小病院はすべての診療科が揃っているわけではないので、中小の民医連の病院では同様のスタイルのところが多いのではないかと思います。私の場合は鹿児島生協病院に半年、その他の協力施設も合わせると1年ほどは外部研修でした。外部研修中には「医師をやめたい、こんな仕事続けられない」と思う時期があったり、自分の力量が目標まで到達しているのかと悩むこともありました。引っ越しも多く、新たな環境に慣れるのに大変で、ストレスも抱えていました。振り返ると当時は外部研修に出たら出っぱなしで、当院の指導医と定期的に面談をしているわけではありませんでした。研修医がどのように成長しているか、困っていることや悩みはないかといったことを把握する体制が、十分にあるとは言い切れなかったと思います。現在はそれを見直し、協力病院で研修を行っている期間も面談などをしっかり行うようになりました。

―家庭医療の道はすんなり選ばれたのでしょうか?

今村:実のところ、最初にイメージしていた“かかりつけ医”になるには、どういうことを学べばいいのか、学生時代も、初期研修に入ってもよくわかっていなかったんです。3年目に入って、家庭医療の分野こそ目指してきたかかりつけ医そのものだと気づき、自分が何を学べば家庭医療専門医になれるのかを考え、専門研修プログラムを作ってもらいました。もう一人の研修医とともに「こういう領域を学べたらいいのでは」などと、積極的に意見を出してプログラムに反映してもらったんです。また、当時の上戸町病院には家庭医療を教える指導医がいなかったので、藤沼康樹先生(生協浮間診療所)をお招きして、講演やケースカンファレンスをやっていただきました。そのカンファレンスのときの藤沼先生のフィードバックが非常に面白く、後期研修医だけでなく上級医も家庭医療に目覚めたのが印象的でした。

―どういうことを学べたのでしょうか?

診療をする上で、疾患以外にも家族や地域にもさまざまな問題があります。患者の希望は何か、家族はどうしたいのか、経済的なことはどうするのかといった、疾患以外のことで私たちが悩んでいることはたくさんあります。家庭医療とは、そのような問題を把握し、患者さんの希望を反映しながら、より良い医療を提供する方法を教えてくれる学問なんだとういことに気づけたんです。それに、これまで民医連が実践してきた医療内容に非常に近いとも感じました。このことが病院全体でも家庭医、(総合診療医)を育てていこうという転機になったと思います。総合診療の基本的なスキルは初期研修医の指導にも活かせると考えていて、今では家庭医療を学びにいった指導医が持ち帰ったカンファレンスやビデオレビューなどさまざまな教育手法を使って、初期研修医と後期研修医の指導を行っています。

総合診療と小さい病院の良さを活かした研修がメリット

上戸町病院における研修の基本方針は、小病院の特性を活かし、病院をあげて総合的な力を持った研修医を育てるというもの。今村医師も加わって決めたこの理念と基本方針には、どのような思いが込められているのだろうか。

―上戸町病院の研修の基本方針が印象的ですね。病院全体で研修医を育てようという内容が謳われています。

今村:研修の理念と方針はこれ以前にもあったのですが、どこにでもあるというか、あまり上戸町病院らしくない内容だったんです。そこで、2年前に研修委員会でワークショップを行ってアイデアを出しあい、改訂しました。これで何のために研修医を育てるのか、どういう研修医を育てたいのかという、目指すところがはっきりしたと思います。

―こうした理念の元、どういう人材を育てていくのが理想でしょうか?

今村:やはり地域の患者さんやその家族のさまざまな困ったことに対応できる医師ですね。介護の問題や経済的な問題など、患者さんにかかわる困り事はたくさんありますが、その人の幸せな暮らしのために働ける医師を育てたいのです。そのために必要な「人を総合的にみる力」を初期研修のうちに身につけて欲しいと思っています。将来何科の医師になっても、活かせるものだとも考えています。

―指導ではどのようなことを心がけていますか?例えば人をみる方法などについては。

今村:患者さんについては指導医が主治医、研修医が担当医になり、入院患者については毎日カルテチェックをして指導をします。病気の診断や治療についてディスカッションするのは当然ですが、時には本人の病い体験(本人の病いに対する解釈・期待・感情・影響)、仕事や経済状況、家族の状況、家族の考えはどうなのかということも方針を決定する上で重要になってきますので、それらを研修医が把握できているかなどもチェックします。また問題解決する力を身につけることも重要だと思っています。研修医には「先生は答えを教えてくれない」と言われますが、すぐに答えを教えていては自分で調べる力が身につきませんし頭に残りませんから。質問されたら「ここを調べてみれば」とヒントだけを与えて、自力で解決できるように方向づけします。医学的な情報は日々変わるので、生涯学習する力も身につけてほしいと思っています。

―上戸町病院は大きな病院ではありませんが、小さい病院だからこその良さはありますか?

今村:当院は104床と規模は小さい病院ですが、小さいからこそのメリットがあります。スタッフが少ないので研修医の顔をすぐ覚えてくれますし、ちゃんと名前を呼んで接してくれます。そして医師が医師を育てるだけではなく、他の職種のスタッフも教育に関わってくれるのは小病院ならでは。初期研修の最初は他部門研修を行いますが、例えば看護師はどうやって体位交換していてそれがどれほど大変なのか、薬剤師の業務とはどんなものか、医師から教わるより実際にやっている看護師や薬剤師から学ぶ方が良いし、医師がどう指示すればスタッフが働きやすいのかを知ることができます。検査技師からグラム染色やエコーを直接教えていただいたり、地域連携室では退院した患者さんの家を訪問したりして、患者さんの自宅での生活状況を知るような機会も持たせています。研修は基本的には指導医が責任を負いますが、現場で働くさまざまな人たちも研修医を教えるチームの一員なのです。また、研修医の人数が多くないので、一人に対して十分に指導の時間を確保できることも良いところですね。研修医一人ひとりの個別性を尊重し、本人の考えを聞きながら指導するよう心がけています。

上戸町病院の研修理念と基本方針

【研修理念】

患者さんとその家族の幸せなくらしのために、将来の専門にかかわらず患者さんに責任をもち、学び続ける姿勢と総合診療の基本的な能力をあわせもった医師を、小病院の特性を生かして育成します。

【基本方針】
  • わたしたちは病院をあげて、職員全員で研修医を育てます
  • わたしたちは研修医の主体性を重視します
  • わたしたちは研修の場としてさまざまなフィールドを提供します
  • わたしたちは教育の質の向上と、教育のための時間の確保に努めます

総合診療をもっと広く認知させていくことが今後の課題

新専門医制度で新たに加わる総合診療医は、家庭医療専門医とほぼ同一の位置づけとなり、今後この分野をいかに広めていくかが課題とも言える。専門性が高い割にまだ認知度が低いという総合診療医について、広く伝えていくことにも意欲的だ。

―総合診療の分野は今後ますます重要になっていくはずですが、医師の数もまだ少ないですね。

今村:総合診療医は何でもできるけれど何もできない、と言われたりしますが、総合診療医の専門性を、医療従事者や地域住民に伝えていかなければならないと思いますね。例えば高齢者は複数の疾患を抱え、疾患ごとに病院や診療所にかかり、薬をもらっていたりします。でも、誰かが全体をみていないと、ある疾患の治療が別の疾患には悪い影響を与えていたり、薬が重複したりしているかもしれません。さらに「この症状は何科の先生に相談すべきなのか?」「認知症が進んできて介護の問題が出てきたけど、誰に相談したらいいのか?」と、本人も家族もどの医師に相談すればいいのか困ってしまうでしょう。そういう場合は、誰かが複数の疾患や生活のことまで全体をマネジメントするとうまくいくことが多く、それが総合診療医の役割だと思います。地域や家族など、病気の周辺の問題も複雑化してきていて、総合診療医の専門性は以前よりも求められています。しかし、患者を丸ごとみることに、専門性が求められるということはまだまだ認識されていません。そこをもっと広めていきたいですね。いろんな病院にかかっていた患者さんを、かかりつけの主治医として総合的にみていくと、「これで安心できる」「最後までみて欲しい」と言われることがあり良かったなと感じます。どうすれば患者さんが幸せに暮らしていけるのかを考え、お手伝いするのは一番のやりがいですし、それを多くの医師にも感じてもらえたらと思いますね。

総合診療医紹介ビデオ/日本プライマリ・ケア連合学会

Profile

  • 今村 祐子(いまむら ゆうこ)
  • 上戸町病院 総合診療科
  • 九州・沖縄地協 医学生委員会責任者
  • 2009年長崎大学卒。上戸町病院が臨床研修病院となった年の研修医一期生。研修プログラムを作りにも積極的に関わってきた。初期・後期研修を経て、現在は総合診療科の医師として地域医療に当たりつつ、研修医の指導も行っている。