start my doctor life

患者や家族の力になりたい

― 大野 草太 ―

奈良民医連/平和会 吉田病院/2010年より耳原総合病院にて初期研修、
2012年より吉田病院において精神科後期研修プログラムに取り組む。

患者さんにじっくり向き合うため熟考を重ねられる
精神科の道を選択

両親ともに医師であり、私も自然と同じ職業を選ぶことになりました。初期研修では大阪の耳原総合病院にお世話になり、さまざまな科をローテートしていきましたが、研修を進めるうちに自分の進むべき道が見えてきました。私はたくさんの患者さんを短時間で診ていくよりも、一人の患者さんに対して熟考し、どのような対処をすればいいのか慎重に見極め、治療を進めていく方が向いていると気づいたのです。それが後期研修医で精神科のプログラムを選んだ理由です。

治療について熟考する時間が取れることが最大の理由でした。後期研修では民医連の病院の中で精神科のローテート先である吉田病院を選択。現在2年目を迎えています。吉田病院は病院の雰囲気が自分にしっくりきて働きやすく、医師とコ・メディカルとの垣根が低いことも魅力だと思います。

看護師との相互協力なくしては
患者さんにより良い治療はできない

現在は外来の患者さんを診察しながら4つある病棟のうち、精神科救急病棟を受け持っています。ここは集中的な治療で早期退院を目指す病棟であり、3カ月で退院することを目指した治療を行っています。精神科に来て感じたことですが、ここでは看護師の役割が医師と同等かそれ以上に重いのです。医師が病棟で診察を行うのは週に一度。それ以外の日々は毎日患者さんに接している看護師が患者さんの状態をはじめ、変化があれば教えてくれます。医師はそうした報告を受けて必要な指示を出していくことも少なくありません。

つまり、医師と看護師がうまく関係を築くことができなければ患者の細かい様子が把握できないといった問題も起こり得ます。医師と看護師がそれぞれ患者さんについて意見を出し合いより良い治療の方向性を探っていくのはここの精神科ならではと言えるかもしれません。精神科の看護は力仕事が多いので男性も多いのですが、それも一般的な総合病院などとは違う点でしょう。しかし立場の違いなく治療についてさまざまに話し合えるこの環境が、私は気に入っています。

上から押し付けるのではなく大事なのは後押しをする気持ち

精神科の医師としてどう振る舞うか、考えさせられたエピソードがあります。ある患者さんは父親との関係が悪いことが問題で、入院に関しても患者は症状が不安定となり、父親からはスタッフに苦情が入るような状況でした。お互いの訴えにさらされ、振り回される状態になってしまった我々にもマイナスの感情が増殖していってしまい、スタッフが主治医に、主治医が患者に嫌な気持ちを向けていくといった具合に、いつしか負のスパイラルができてしまいました。

そういった状態に陥って、私は誰に対しても医師としての立場で指示的でありすぎたことを反省し、患者だけではなく自分を含めすべての人たちの情緒を捉えて対応しなければ、と気付かされたのです。病棟は家であり、そこにいる人たちは家族のようなものです。医師は上から目線で指示を出すのではなく、患者さんや困っている家族に対して少し後押しをするぐらいの気持ちで接することが大切なのだと痛感しました。

幸い患者さんは退院し、家族とも関係を修復されたと聞いて安心していますが、私にとって学ぶべきことが多い一件であり、その後の診療については広い視野を持って取り組むようになりました。

家族へのねぎらいや働きかけも精神科の医師として
重要な役目

後期研修も2年目に入りましたが、今のテーマは患者だけではなく、家族へも目を向けることです。精神科の治療では患者さん本人よりも家族としゃべることが多くなります。大変な思いをしているのは家族も同様。しかし家族が患者の症状の原因になっている例もあり、そうした場合の接し方も重要です。

医師として指示をするという形ではなく、家族を気遣いつつ、いかにあるべき方向へと導くかといった力が問われていると思います。しかしいろんな家族と会って話し、少しずつ関係を作っていく過程は楽しい時間でもあります。また、クリスマスや夏祭りなど、病棟ごとのイベントでは病棟からオファーを受けて医師が歌や踊りといった出し物を披露します。患者さんのストレスを軽減することはもちろん、看護師との絆も深まり病棟に一体感が出る瞬間です。

民医連には弱者に寄り添う姿勢ありきのスタッフが多く、私も初期研修ではそうした医師にたくさん出会い、仕事の物差しとしてきました。また、民医連で働くということは臨床の現場から体制に疑問を投げかけていくということでもあります。そうした民医連の姿勢や本質を伝えていける医師として成長していきたいと思っています。

Message ― メッセージ ―

患者さんと触れ合うことで
成長のステップを見つけていきたい。

― 大野 草太 ―

Profile

2010年3月岡山県の川崎医科大学医学部卒業。同年4月より大阪の耳原総合病院にて初期研修を開始。各科をローテートした後、精神科を志向し2012年4から奈良民医連吉田病院に所属し、後期研修を開始。
◯趣味:月に一度の登山
◯医学生へ一言:初期研修では2年間のローテートがあります。その中で自分は何が得意で何がそうでないかといったことを考え、得意な分野に注力することで自分に合った後期研修を選ぶことができると思います。