社会の役に立つ仕事に就きたい
── 最初に中村先生が医師を目指されたきっかけはなんだったんでしょうか。
中村:もともとは心理学に興味があり、臨床心理士になるか、医師になるかで考えたときに医師のほうができることの幅が大きかったので医学部を目指すことにしたのが高3の夏でした。行きたかった心理学の講座が閉じてしまったことも要因だったように思います。
あとはなんとなくですけど、社会の役に立ちそうな仕事に就きたい、と思ったとき、「医師」っていうのがすごくわかりやすいイメージだったので。
── では、先生が勤医協中央病院で研修を始められたきっかけはなんだったんでしょうか。
中村:医学生になると精神科を学ぶには自分がまだまだ人間として未熟であると痛感し、あっさり進路変更をしました。将来のイメージとして、のんびり診療所でおじいちゃん、おばあちゃんとおしゃべりに興じるというのが理想だったので、「総合診療」に興味をもちました。その時の同級生に今の勤医協中央病院を勧められて見学にいったのが最初です。
それまでも様々な病院の見学に行きましたが、中央病院が一番研修の先生がいきいきとしていたこと、コメディカルの方との距離の近さを感じたことなどが決め手になりました。
── 実際に研修されてみて、患者さんと触れ合う、身近にちゃんと感じられる研修はできているという感じですか。
中村:初期研修中は曲がりなりにも無我夢中なので、あんまり実感がないです。自分の無力さに悔しい思いをすることのほうが多かったです。また、本当に成長できているのか、不安になることもしばしばでした。
ただ、「自分が困っていること」を自分よりも察してくれる同期がいたり、お互い忙しいのに労ってくれるスタッフがいたり、自分の数倍忙しいのにささいな悩みも聞いてくれる先輩医師や指導の先生がいたり、人に恵まれている環境でした。また、何よりも患者さんから人として、プロとして、学ばなければいけないことを沢山おしえていただきました。
更には研修の終わりに文章にしてフィードバックをいただけることや、最後の総括を全員で行うことにより自分の中での振り返りがしやすかったと思います。
限られた時間をいかに有意義なものにするか
── 患者さんと接する中で大切にしていること、身についた自信等はありますか。
中村:自分の中で大事にしている言葉が二つあります。
一つは『患者さんにとって医師との出会いは「一期一会」である』ということ。何かの本に書かれていたと思うのですがこれが深く心に残っていて、特に外来にでるようになってからは「限られた時間をいかに有意義なものにするか」を意識しているつもりです。
もう一つは『誠意を尽くすしかない』というものです。これは私が外科に入りたてのころに指導の先生から頂いた言葉です。どんなに力不足を嘆いても一朝一夕でその力が補えるわけではなく、その時自分にできる最善のことをやるしかありません。悔しい思いをした時には同じ思いをしないように、できることをすこしずつ増やしていけたらと思っています。
始めの頃は定着しなかった患者さんがだんだん増えてきたり、外来を卒業された患者様やご家族の方から診察室以外で声をかけていただけたときなんかは本当に嬉しくて、自分への自信にもつながっています。
── 先生が目指す医師像や夢などがあれば、お伺いしたいのですが。
中村:自分が乳腺外科を目指したきっかけは、釧路での外科研修でした。当時は釧路に乳腺の専門医や女性外科医はいませんでした。研修先の病院のスタッフがそれに気づき、女性だけの乳癌検診プロジェクトを立ち上げたところ、これが大盛況でした。
このプロジェクトでどちらかというとマイナスイメージだった女性外科医が一気に魅力的になり、現在も続ける原動力になっています。私を育ててくれたのは地域と、そのニーズを聞き取ることができたスタッフのみなさんだと思っています。今後は、自分が患者さんや地域に寄り添うのはもちろんですが、同じ志を持ったスタッフも育て、守って行けるような医師になれたらいいなと思います。
── これから医師を目指される方が、たくさんいらっしゃいますが、そういう方たちに中村先生が歩んできた経験から何か一言メッセージやアドバイスがあるとすれば、どういった言葉になりますでしょうか。
中村:今回は先輩医師として?かなり背伸びして書きましたが、自分自身まだまだ迷ってばかりです。医師になったって悩み事はつきないことにようやく慣れてきたので、焦らずに行きたいと思います。
この職業は、頑張れば頑張った分だけ、いろいろな方を幸せにできる、とてもやりがいのある仕事だと思います。ただ、一人ではなかなか達成することは難しいので、たくさんの人と手を取り合って前に進んでいって欲しいと思います。いつか同僚として、いっしょに働くことができる日を楽しみにしています。
Profile
○所属 北海道民医連 勤医協中央病院 乳腺外科
○経歴 筑波大学 2006年卒
○資格 外科専門医、日本内科学会認定内科医、マンモグラフィー検診精度管理中央委員会読影医、日本乳癌学会認定医