身近な医師の姿に触発され、自らも医療の道に
── 医師を志したきっかけを教えてください。
大城:私の父親は歯科医師をしています。地域で親しまれ、患者さんに慕われる姿を幼い頃から見て育ち、父親のことを尊敬していました。信頼されて「先生」と呼ばれる姿は純粋にかっこよく見えました。
その後、具体的に医師になることを考え始めたのは、高校時代に母親が入院したときです。担当の先生があまり患者である母の意志を汲んでくれず、自分だったらもっと相手のことを考えるのに、と感じました。このことがきっかけで医師を目指すようになりました。
── 民医連の病院を研修先に選んだのは何故ですか?
大城:大学の4、5年目から病院見学を始めるのですが、その中で雰囲気がいいなと感じたのが福岡にある民医連の千鳥橋病院でした。民医連の奨学生制度を利用したことも、この病院を研修先にした理由です。千鳥橋病院は内科が中心で、初期研修ではしっかり内科の基礎を学ぶことができました。
また、さまざまな科をローテートしていくうちに、麻酔科でとても素敵な女医さんに出会いました。的確な処置を素早く施すだけではなく、人間的にも尊敬できる方で、父親同様とてもかっこよかったんです。また、麻酔の手技にも面白さを感じ、後期研修では麻酔科を選択しました。
── 後期研修は健和会大手町病院の麻酔科を選択されましたね。
大城:福岡県内の民医連の病院は3つあるのですが、福岡で学びたかったので、健和会大手町病院を選択しました。ここは500床を越える地域の基幹病院で、救急医療などあらゆる医療に対応し、どのような患者さんでも受け入れています。毎日多くの救急車もやってきますが、患者さんが多い分、多くのことが学べる病院です。
── 麻酔科の研修医としてどのようなことを学んでいるのでしょう。
大城:ここで私が担当しているのは手術麻酔です。麻酔は手術麻酔、救急医療・集中治療、癌性疼痛などに対応するペインクリニックなど、大きく3分野に分かれます。研修医はまず手術麻酔からスタートします。
現在は1日に2〜3件の手術に麻酔担当医として携わっています。緊急手術があれば夜に呼び出されることもあります。ただ、それ以外の手術は予め予定が決まっているので、スケジュール管理はしやすい勤務状況です。
麻酔科医は患者さんの命を守る“指揮官”
── 麻酔科医の役割について教えてください。
大城:手術が安全に行えるように、患者さんの全身状態を安定させるのが役目です。患者さんの体に今何が起こっているか、また、これからどんな変化が起こりうるかを、様々なモニターを通して予測して対応し、患者さんの容態を安定させる役割を果たしていきます。そのために正確な知識と確実な技術が必要とされます。
── 救急医療では麻酔科医はどのような役目を果たすのでしょうか。
大城:麻酔科医は呼吸と循環を安定させることに長けているため、また、患者さんの頭もとに居ることが多いため、全体の状況を把握しやすい立場にあります。
例えば、事故による多発外傷など、他科の医師の連携が必要な患者さんの初期診療を行う際は、麻酔科医が全体の指揮官の役割を担います。複数の外傷がある場合、腹腔内などで大量出血を起こしている患部と、足の開放骨折ならどちらを先に処置するか、この処置を行うことで他にどう影響があるかといったことを考える必要があります。
こうした時、麻酔科医は呼吸や循環を安定させる処置をしながら、どの処置や治療を優先させるかを判断し、全体を指揮しているのです。
── 大城さんにとって麻酔科医の魅力とはどのような部分ですか?
大城:麻酔は、その手技や使う薬剤も含めて、すぐに効果が現れます。痛くてつらそうな患者さんが、自分の手技で「先生のおかげで痛みが無くなったよ!」と言ってくれるのが、純粋に嬉しいです。
また、難しい麻酔の手技を覚えていくことも面白いと感じます。麻酔薬は劇薬ですし、難しい手技には責任が伴いますが、私はこうした技術をものにしていくときに充実感を感じます。満足いく麻酔が行えず、歯がゆい思いをすることもありますが、技術は訓練しなければ身につきません。細心の注意を払いながら、より高いレベルに到達できるように努力を続けています。
── 麻酔科医としてはどういったことが大事だと思いますか。
大城:麻酔科医に限りませんが、コミュニケーション力が大事だと思います。麻酔科医が主治医になることはあまりありませんが、手術に際して患者さんの病状を把握することは大事です。術前・術後には診察を行います。患者さんの病態を把握して適切な麻酔を行い、術後ではそれがきちんと効いているかを確認します。
それに加えて、医療関係者とのコミュニケーションもとても重要です。患者さん一人に対し主治医、看護師、栄養士、ソーシャルワーカー等々、多くの人や科が関わります。患者さんの病気は一つとは限らないので、その患者さんに関わる科の医師やメディカルスタッフと話し合い、情報を集約して治療の方向性を決めていくことになります。患者さんについて情報共有ができていなければ重大なエラーを起こしかねません。
患者さんのことをより深く知り、安全な医療を提供していくためのコミュニケーションは欠かせないものです。
外科医に信頼される、確かな技術を持った麻酔科医に
── 民医連の病院の良さはどのようなところだと感じていますか?
大城:医療従事者は誰しも患者さんのことを考え、寄り添い、力になりたいと思っています。中でも民医連は低所得者や住所を持たない人など、医療に対してアクセスの悪い人に優しいと思います。健和会大手町病院にもそうした人たちが日々やってきますし、生活保護申請など、ソーシャルワーカーによるサポートも行われています。
── 2つの民医連の病院で研修を経験しましたが、どうでしたか?
大城:千鳥橋病院は医局事務と医局が同じ部屋だったので、事務の方が研修医の状況を把握してくれていたのが良かったと思います。初期研修の頃は慣れないことも多く、上級医の先生には言いにくいこともあります。そんなときに医局事務の方が相談に乗ってくれ、とても気遣ってくれました。自分のことを見てくれている人がいると、頑張れるものです。おかげで初期研修も乗り切れたと思います。
健和会大手町病院は外傷患者も受け入れており、病態の安定しない患者さんが多いので初期研修はきつそうですが、多くの患者さんを診療することが出来、かなり実力がつくと思います。自分を鍛えたいと言う人には向いているのではないでしょうか。
── 今後はどのような目標を持っていますか?
大城:まずは手術麻酔の分野をきっちり学び、確実に手技を身につけることが目標です。麻酔科医として外科の医師に信頼される存在になりたいです。
子どもも持ちたいので、子育てしながらバリバリ働いて、私が初期研修時に憧れた女医さんや尊敬する父親のような、患者さんにはもちろん、周囲のスタッフから信頼される医師になりたいですね。
Profile
○所属 福岡佐賀民医連 健和会大手町病院 麻酔科所属
○経歴 2011年、宮崎大学医学部卒。
民医連の奨学生であったことから研修先に民医連の病院を選択。
2011年より福岡医療団 千鳥橋病院にて初期研修プログラムに参加。
2013年より健和会 健和会大手町病院の麻酔科後期研修プログラムに参加。