民医連の初期研修

民医連は、初期研修を通じてプライマリケアを地域で実践できる基本的診療能力を身に付け、さらに後期研修や専門研修を通じて、専門領域の研鑽を深め、国民の期待に応えうるハートフルな医師づくりを地域の人々と共に実践しています。

目次
【1】私たちの医師研修の理念
【2】民医連の初期研修の実際

1.スーパーローテート研修
2.往診・外来研修を含む4つのフィールド
3.通年で行う救急研修
4.総合診療方式による導入期研修
5.地域での研修の重視
6.カンファレンスの重視

【3】民医連の後期研修の実際

医師としての自立と地域医療の担い手としての成長を促す期間・認定医や専門医をめざす時期

【4】民医連の医師研修の特徴
【5】身分的・経済的に保障された研修
【6】最後に

【1】私たちの医師研修の理念

全日本民主医療機関連合会(民医連)は、1953年の創立以来、半世紀にわたり働くものの医療機関として、何よりも地域の人々の声を大切にし、地域でなくてはならない医療機関として発展してきました。「差額ベッド代を取らない医療機関」として新聞報道されたように、常に無差別平等の医療を実践してきました。

現在では約150の病院、500を越える診療所、26,000床以上のベッド数を擁し、日本でも有数の医療団体となっています。そこでは3,000人を越える医師が診療に従事しています。私たちは1960年代から研修医を受け入れ育ててきましたが、2004年の新医師臨床研修制度を受けて、さらに卒後臨床研修の整備を進め、現在56の病院が厚生労働省の基幹型臨床研修病院の指定を受けています。

地域でのteaching hospital” このことを大切に、私たちはこの50年間で、地域の人々と力を合わせて、約4,000人の研修医を地域に送り出しています。

民医連の初期研修目標:人権を守る基本的、総合的な診療能力(主治医能力)を獲得する
1.患者の全人的な理解と患者・家族と医療の目標を共有する信頼関係が構築できる
2.総合性を重視した、基本的な医学知識・技能の修得する
3.常に一人ひとりの患者の問題解決を多職種と共同してチームで指向する視点を身につける

以下、全国の民医連の研修病院で行われている初期研修について説明します。各施設によって多少の違いはありますが、同じこころで研修が行われていると理解してください。

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【2】民医連の初期研修の実際

1.小児科・産婦人科・精神科を含むスーパーローテート研修方式を継続し、プライマリケアの実践に必要な総合的な診療能力の獲得を目指します。

2.病棟研修、救急研修を柱に、往診・内科外来を含む幅広いフィールドで研修をすすめます。

3.救急研修は、ローテート研修のほかに、原則的に2年間を通じて救急外来研修や当直研修を行い、あらゆる疾患の初期初療が行えるようにします。

■病棟研修
研修スタイルは総合診療方式あるいはそれに準じた内科研修でEBMと行動科学的な教育技法を重視しています。屋根瓦方式の指導体制を採用し、図(屋根瓦方式の模式図)のように先輩研修医、研修指導医、病棟の責任医師などが重層的に研修に関わります。

指導医は担当患者さんの治療方針などの相談をはじめとして、カルテのチェックや患者・家族面接への同席などその研修医の成長に全般的に役割を発揮します。

先輩研修医は2~4年目の医師で病棟の中では日常的に研修医のそばにいて、カルテの書き方や指示の出し方、処置のやり方などを研修する上で「最も聞きやすい相談相手」になります。

病棟の責任医師は研修医の定期的な振り返り(形成的評価)を看護(師)長などともに行います。

■往診・外来研修
導入期研修終了後、ローテート研修の一定期間を使って、週1単位程度実施します。生活の場で患者を診ていくことを重視し、安定した慢性疾患のマネージメントを中心にした外来研修の中で、医療面接・身体診察・検査・処方などを行い、継続して患者を診ていくことの重要性を学びます。また、介護・福祉制度への理解や在宅ケアを行う上での他施設との連携を肌で感じる往診などの在宅医療研修はプライマリケアの診療能力を獲得する上で重要なものと考えています。

■救急研修
主に1次から2次救急を中心にした救急研修を行います。救急車や当直帯の患者対応の見学から開始し、その後、研修指導医と一緒に診察する研修期間があり、6ヶ月前後で指導医のバックアップ体制の下、ファーストコールで患者さんを診るようになります。救急車のみならず、walk inでも実に多彩で多くの患者さんが訪れる救急外来での診療を経験とBLS/ACLS研修などを通じて、救急診療能力を高めます。

4.導入期研修は、基本的に総合診療方式に準じた内科研修を行います。

■導入期研修
医師になりたての研修医のストレスは大きなものがあります。この時期にハードトレーニングを強いると、研修に対するモチベーションが維持できずにドロップアウトしてしまう研修医も出てきます。私たちはまずは医師の生活に慣れること、「医師の身体」になることが重要だと考えています。

研修当初の3~6ヶ月を「導入期研修」と位置づけて、医師患者関係を築く上での基礎をここで作ります。看護師研修を含めた他のスタッフ体験から始まり、施設によっては患者体験や地域訪問なども行います。その上で3~5人程度の患者さんの受け持ちからスタートし、毎日の診察やカルテ記載、指示出し、病状説明への参加、カンファレンスの準備、簡単な処置など、病棟での基本的な医師の仕事を研修します。この時期の研修を通じて、チーム医療や地域の人々からの期待、病める人の実態などを体感し、「良い医師になろう」というモチベーションを高めていきます。

5.地域住民とのかかわりを重視し、地域保健研修(施設によっては離島研修)のほかに、健康講座の講師、検診活動など地域に出かけていく研修を行います。

■地域研修
民医連の医療の原点ともいえる住民密着型の医療活動を展開する診療所での診療に参加する中で、慢性疾患管理、保健予防活動、在宅医療、介護事業など総合的な主治医機能を経験します。このほか、共同組織、行政や地域の施設との連携など、地域の医療福祉ネットワークの実際を経験したり、地域住民との懇談会に参加して病院や自分たちへの期待・要望を肌で感じたり、健康講座の講師や検診にかかわることも大切な研修と考えています

6.医師同士のみならず、多職種で行われるカンファレンスを重視し、コンサルテーション、プレゼンテーション、コミュニケーション能力を磨きます。

チーム医療の実践を重視する立場から、医師同士のカンファレンスのほかに、多職種参加型のカンファレンスや臨床倫理カンファレンスを重視します。

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【3】民医連の後期研修の実際(シニアレジデントコース)について

私たちは基本的に初期研修の2年間に加え、3年目以降のシニアレジデント研修が一貫性を持って行われることが大変重要だと思っています。プライマリケアの基本的能力を獲得するためには2年間の研修だけでは不十分であり、実は3年目以降の研修が大切です。

この時期は、単に診療能力を向上させたり、専門医を修得するためだけの期間ではありません。専門分野の研修と平行して、医療安全・NST(栄養管理)・感染対策・緩和ケア・褥瘡・嚥下チームなど横断的な診療に主体的に参加し、チーム医療のマネージメント能力を向上させたり、研修教育に携わることなどを積み上げることで、プライマリケアの研修の質を高めるとともに、医師としての自立と地域医療の担い手としての成長を促す期間と捉えています。

後期研修では、主に総合内科や総合診療、家庭医療を指向する医師のコースと、内科の専門分野や他の専門科を志望する医師の研修コースの2つを準備し、「一定の専門領域を持った総合診療医・家庭医」と「総合的基礎力やmindを備えた専門医」の育成を目指します。この期間、各学会の認定医や専門医資格の修得も併せて行います。

1)内科系・総合診療・家庭医療をめざす医師

総合診療方式の外来・病棟・在宅研修をはじめ地域の第一線の中小病院・診療所での研修を重視しています。

プライマリケアや総合診療、家庭医療を自分の専門として指向している方にとってみれば、地域の小規模病院や診療所、福祉事業体、地域住民との様々な共同の取り組みなど、民医連のフィールドは研修の宝庫だといえます。こうしたフィールドで研修を積んだ医師が増えることが今後の医師研修を更に充実したものに発展させていく保証だと私たちは考えています。これまでの実践の積み重ねの上に、プライマリケア連合学会の認定する家庭医プログラムの半数が私たち民医連のプログラムとなっています。

総合診療医認定制度が検討されていますが、中小病院をフィールドに活躍する医師については、一定のサブスペシャリティを修得することをさらに目指します。

2)内科の専門分野や他の専門科をめざす医師

専門科を志望する医師は、初期研修で不足した分野の研修を補い、横断的な診療にも参加しつつ、各専門分野の研修に入っていきます。また、1)のコースを終了し、さらに専門的な研修(プライマリケアや総合診療、家庭医療を含む)を希望する医師もこのコースに入ることができます。民医連の研修病院は概ね総合病院規模の医療内容を持っているので、各専門科では他の施設と比較しても遜色のない専門医療を行っています。そこで一定の期間研修を積んで認定医や専門医をめざします。

3)さらに専門性を深めるために

また、その地域に必要な医療技術を獲得するために、各専門科グループでよく検討して、いわゆる一流といわれる専門施設への外部研修も行っています。各大学病院、国立病院、都立病院、榊原記念病院、虎の門病院、国立がんセンター、癌研病院、三井記念病院、など98年から2000年の2年間では200名が168カ所で研修をしています。

私たちは医師が専門的な力量を付けていくことは患者さんの期待に応える意味でとても大切な課題だと考えています。日常的には様々な患者さんに対応しながら、専門的な力が必要な場面ではその力を存分に患者さんのために発揮できる医師であることが大切です。専門だけに没頭することなく、総合性と専門性をバランスよく発揮できる姿勢があればこそ、質の高い初期・後期研修と、患者さんにとって満足のいく医療を提供できるのだと自負しています。

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【4】民医連の医師研修の特徴

民医連の医師研修の特徴は以下のキーワードで表現することが出来ます

☆多くの患者さんを通じて豊富な疾患・病態が体験できる研修

地域の第一線医療機関の特徴であるcommon diseaseを中心とした豊富な症例の病棟患者を2年間で100~200例前後受け持ち、多くの救急患者を診察することになります。これを通して厚生労働省が「臨床研修の到達目標」でかかげている研修目標を達成できます。

☆安全性・倫理性を重視した研修

研修医にとっても医療事故を起こすことなく安全・安心の医療を重視することは、大変大切な課題です。そのためには経験不足の研修医が単独診療をしないことが原則です。しかし、医師の研修は「on job training」と言われるように見ているだけでは進歩しません。研修医が自分で体験し自分で考えることを行いながら、それでいて安全性を保証するスタイルが屋根瓦方式に代表される重層的な指導体制と他のスタッフの医師研修への参加だと考えています。また、患者さんの命と健康、そして人権を守る立場から、初期研修において臨床倫理を深く学ぶことを重視しています。臨床倫理カンファレンスの参加などを通じて、鋭い人権感覚を持った医師へと成長していきます。

☆熱意と責任を持つ指導体制

臨床研修推進財団がおこなう指導医養成講習会や、医学教育学会・プライマリケア学会など主催の指導医セミナーにも多数参加しています。また、民医連内の幾つかの研修施設が単独あるいは共同して一流の外部講師を招いて独自の指導医セミナーを随時開催しています。医学教育学会に民医連から多くの演題発表があることもその熱心さを物語っています。

指導医養成で最も大切なのは、最新の行動科学的な教育技法を学ぶことは勿論ですが、熱意と責任性を持って研修指導に当たるというその心根をどう育成するかということだと私たちは考えています。そのためには病院組織全体で研修に取り組む姿勢やその地域で医師を育てようという雰囲気をつくることが重要です。
私たち民医連は約50年間に渡って本格的に医師研修に取り組んできた歴史を持っています。国から何も保障がない時代から、患者さんの立場に立てる医師づくりこそが日本の医療の発展の保証であるという視点を堅持して取り組んできました。私たちのFDは今後も絶えることなく続いていきます。

☆研修医自らがつくる自分たちの研修

民医連の研修病院には「研修医会」という組織があります。ここでは日頃の自分たちの研修について率直な意見交換をしたり、指導医の前では言いづらい不安や不満などもおおいにはき出し合います。また定期的な学習会や研修管理委員会への研修改善の提案なども行います。このような研修医が自ら自分たちの研修を改善する試みは、今後の日本の医師研修のスタンダードとなる、優れた取り組みだと考えています。

☆対等なチーム医療での研修

多職種参加の症例検討会などに代表されるように、医師と他のスタッフが対等な関係で患者さんに関わっていることは民医連が大切にしている特徴です。その中で研修医は謙虚で真摯な姿勢と、他のスタッフと力を合わせることの大切さを学びます。また民医連の研修病院は大学とは異なり単一の医局です。様々な科の医師が日常的に顔をあわせます。他科との連携が良く垣根が低いため相談するのも容易です。カルテ開示や医療倫理、医師研修の課題などについて全科の医師で話し合います。

また、民医連では指導医からの評価だけではなく、看護師や薬剤師、放射線技師、事務など他のスタッフからも研修の評価を受けます。あくまでも「育てる立場」での厳しい指摘も飛び交いますが、対等なスタッフ関係という民医連の特徴があるからこそ出来る安全性の保証です。

☆地域住民とともにつくる研修

民医連は医療生協の組合員や、「友の会」の会員など地域住民の方々とともに地域の健康づくりに日々取り組んでいます。これら地域の方々が医師研修に積極的に関わっているのも民医連の初期研修の大きな特徴です。

この方たちの協力で模擬患者(SP)を育成して実際の医師研修に活かしていたり、研修管理委員会に参加して患者サイド・住民サイドからの研修評価をしたり、地域での健康増進活動に研修医を参加させたりと形態は様々ですが、「地域住民の視点で医師を育てる」という昨今の医師研修に関する世論の動向を十分に意識した研修だと考えています。

☆全国ネットの多彩な研修

民医連は全国津々浦々にあり多彩な活動を行っています。山村あり離島あり、そして公害や職業病、被爆者医療、平和問題、反核医師の活動などにも積極的に取り組んでいます。その他救急医療に力点を置いているところもあれば、総合診療や家庭医療を担う医師を育てようと必死に取り組んでいるところもあります。どれも全て民医連です。そんな多彩なフィールドが研修の土俵になります。

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【5】身分的・経済的に保障された研修

研修医も正式な職員です。給与、賞与、有給休暇、健康保険、各種手当などもきちんと保障されています。また研修医宿舎も準備しています。
※詳しくは各病院のホームページをご覧ください。

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【6】最後に

不況やリストラの嵐が吹き荒れる中、患者さんの自己負担はますます増える一方で、病気になっても医療機関にかかれない人が巷に渦巻いています。さらに、超高齢者社会の到来の中で、地域の多くの病院で、専門しかみれない医師でなく、「総合的な力量を持った専門医」や「サブスペシャリティを兼ね備えた総合診療医」がいっそう求められる時代となっています。

現代のキャリアパスに欠けている視点として、「人間の能力が本当に伸びるのは自分のキャリアのためではなく、他者のために働くときだ」との指摘があります。貧困と格差が広がるこんな世の中でどんな医師になるのか、一生懸命研修して得た力を何のために誰のために生かすのかを改めて問われる時代だと思います。

医学生・研修医の皆さん、私たちは皆さんの参加を待っています。是非私たちの病院・診療所に見に来て下さい。病気や障害をもつ人びとの苦しみや生き方に共感し、地域のなかで学び成長する、そんな医師になってみませんか。

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