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"おしゃれに憲法を語ろう" 『いつでも元気』新年号に、東京民医連・大泉生協病院の岡部敏彦医師と弁護士・太田啓子さんの対談が掲載されています

『いつでも元気』(2015年1月号)に、

東京民医連・大泉生協病院の岡部敏彦医師と、

弁護士の太田啓子さんの対談が掲載されています。

全日本民医連のHPから全文紹介します。

特集1/おしゃれに憲法を語ろう/9条・25条が輝く社会にしよう/弁護士・太田啓子さん×医師・岡部敏彦さん

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岡部敏彦さん

東京民医連・大泉生協病院の内科医師。4人の父親。東京保健生協で「憲法プライドプロジェクト」にとりくむ。

太田啓子さん

弁護士。2児の母。神奈川県在住。2013年から「憲法カフェ」をはじめ、マスコミに注目される。「明日の自由を守る若手弁護士の会」メンバー。昨年8月号の巻頭エッセイにも登場。

 「戦争する国づくり」の政治に対抗するために何ができるのか。「憲法カフェ」を始めた弁護士の太田啓子さんと、「憲法プライドプロジェクト」を発足させた医師の岡部敏彦さんが語り合いました。

3・11がきっかけで

岡部 憲法カフェを始めて、もうすぐ二年になるそうですね。

太田 「喫茶店で、ケーキでも食べながら憲法を知ろう」と始めました。この憲法の出前講座は、病院や公民館などでもやっています。今は参加したお母さんが「自分も伝えなきゃ」と場所を開拓してくれたりしていますが、最初は一人で始めたんです。

岡部 すごいですね。

太田 政治にそんなに積極的に関わろうとはしてこなかったのですが、きっかけは福島第一原発事故です。当時、長男が二歳。直後に次男も授かりました。その頃、放射能の影響が心配で、地元で同じように不安を持つお母さんたちの勉強会に参加したんです。いっしょに学んだり、保育園の土の線量測定をしたりする中でネットワークも広がり、「原発や放射能だけの解決はない。政治ってみんなつながっている」と実感するようになりました。

そんなとき、二〇一二年末の総選挙があった。改憲草案を出している自民党が「大勝」して「本当に憲法が変えられる!」と思って、憲法カフェを始めました。原発問題などを通して知り合った人たちに声をかけたのですが、お座敷がかからず、一回目は二〇一三年四月でした。元市議さん宅をお借りして、お母さんたちが一〇人参加してくれて、レジュメの上を赤ちゃんがハイハイして(笑)。そこから口コミで広がっていきました。

女性ファッション誌『VERY』(二〇一四年三月号)にも取り上げられ、編集部が「知憲」という言葉をつくって紹介してくれました。「護憲・改憲を考える前にまずは憲法を知ろう」と。それ以来、マスコミの取材も増えましたね。

岡部 私もいろいろと記事を見ましたよ。「おしゃれでかっこよく憲法を語ろう」と言っているのがいい。

「憲法居酒屋もいいね」

岡部 お父さんたちは、参加しているんですか。

太田 私が企画する場合は子どもが小さいので、どうしても子どもを保育所に預けられる平日の昼間になってしまう。すると参加者も、子どもが小さいお母さんが多くなります。「誰でも来ていいよ」ではあまり人は来ない。ターゲットをしぼって、ターゲットの参加しやすい時間帯の設定や企画の持ち方が大事だと思います。

私は同世代の女性の気持ちはわかるので、とにかくおしゃれにやりたい。

「明日の自由を守る若手弁護士の会」のメンバーが、「夜にやればサラリーマン風の人が来る」と言っていました。知り合いのお父さんも「居酒屋は?」と言っていたので、お父さん弁護士を講師に居酒屋でもやったらどうでしょう。

岡部 憲法居酒屋。ハードル下がったね。

太田 憲法焼き鳥。憲法焼き肉もいいですね。

憲法を守ってきた「誇り」

岡部 僕は東京保健生協で、憲法プライドプロジェクト(KPP)というのをやっています。うちの法人でも若者の中に憲法を守るグループをつくろうという話になったのですが、はじめは「憲法推進委員会」という名前で。ちょっとカタイので、若い職員たちと話し合って、今の名前になりました。

僕は子どもが四人いるんです。一番上の子は「父ちゃんの言うことも正しいと思うけど、世の中は公平に見なきゃ」と言っています。

太田 健全! かわいいですね。

岡部 真ん中の二人は小学生。その子たちの運動会に行くと「○○小プライド」と書かれた横断幕があったんです。「エグザイルプライド」という歌も流れていて(笑)、そこから名前を借りました。

「プライド」と言うと国のプライドを守るために「慰安婦」を否定したり、愛国心を教育するというイメージがあるじゃないですか。でも僕たちは「六〇年あまり憲法を守り続けてきた誇り」という意味を込めたかった。おじいさんやおばあさんにも「いいね!」と好評です。

Tシャツも作ったんですよ。若い人に着てもらいたくて作ったのですが、おじいさん、おばあさんたちから飛ぶように売れていく(笑)。でも、青年もお年寄りも同じTシャツを着る一体感がいい。

「私と憲法」というお題でメッセージを書いたボードをもって写真を撮り、それをスライドショーのようにして動画で流すとりくみもやっています。生協のイベントで流したり、動画サイトでも見られるようにしています。かっこいい音楽とともに一人ひとりが勇気をもってメッセージを発信するのが楽しい。ふだん政治的な活動をしていなくても、心の中で改憲に対する危機感を持っている人はたくさんいる。人前に出て話すことのない人が声を出すきっかけにもなります。

太田 しかけ方次第ですよね。

岡部 「一〇〇〇人のトライブ(一族)」って構想もある。これもエグザイルからです。一〇〇〇人で何か大きいことをやりたい。何をするかは決めていません。国会周辺にかっこよく一〇〇〇人集まってデモができないか、と夢想しています。

弱い人の方向を向いた仕事を

岡部 太田さんのような弁護士は、たくさんいるんですか。

太田 私のまわりにはたくさんいますが、弁護士三万五〇〇〇人の全員が憲法のことで立ち上がっているかというと、そこまではいっていないと思います。

私も、弁護士の専門性をどう社会にいかすのかということを考えるようになったのは3・11以降のことです。私自身、現在進行形で被ばく者ですからね。

岡部 福島は雇用も厳しいし、農業をやるにもたいへん。でも、関東にいる人も被ばく者だと思います。「福島の人たちの方がもっとたいへんなんだから」とがまんして、声に出せないお母さんたちがたくさんいます。

太田 そうなんですよ。私も「この程度で」と思ってしまうことも…。

岡部 僕たち医師や弁護士がどこを向くかというと、そういう困難を抱えている人たちの方向を向いて仕事をする。

太田 ひずみは弱いところに現れますよね。強い人はお金があるから乗り越えられる。政治も医療も本来、弱い人たちのためになければならないと思います。

困難を抱える人に寄り添って

岡部 僕は健康の専門家だから、生存権や健康権も大事にしたい。

自民党政権も民主党政権も、社会保障を削ってきた。東京都練馬区でも短期保険証や資格証明書の発行が増えています。

国保料を払いたくても払えない人が増えている。だから病院で待っていても、本当に困った人は来ることができない。医療は今、お金の払えない人にとって「ぜいたく」になってしまって、受診をがまんしてしまう人が多いんです。しかも「助けて」となかなか口に出せない。

太田 「自分の責任だから」とがまんしている人もいますね。権利の主張の仕方も教わっていないから。

岡部 病院に来てくれれば、医師は病気の原因が何か、話してあげられる。生活習慣が悪いのか、過労がいけないのか。医療ソーシャルワーカーは、活用できる制度を紹介して、その人を応援できる。でも、そもそも来られない人がいる。

だから民医連は、地域の困難を抱える人たちのところに自ら出て行こう、というとりくみをしています。地域の困っている人に寄り添う。それが「いのちの無差別・平等」を掲げる民医連医師の役割だし真骨頂。僕のつとめる大泉生協病院は、経済的に困難な人の医療費を減免する無料低額診療事業もやっています。

二五条の「健康で文化的な最低限度の生活」とあわせて、一三条の幸福追求権も大事。人が幸せに豊かに生きることの意味を多くの人と議論して深めたい。医師は重症の方はもちろん、貧困や抑圧に苦しむ人にも多く出会う職業だから。

市民の代表者を政治の場に

太田 私は二四条の改憲にも危機感を持っています。自民党の改憲草案は、家族の助け合いを義務にしていますね。公的扶助を縮小して「貧乏人は貧乏人同士助け合え」という方向へ持っていくつもりなのだと思います。「もう国は助けないから、自己責任でやれ」という世界観がすけて見える。二五条とも関連しますね。

さらに現行憲法一三条は「個人」を尊重するよう定めていますが、自民党の改憲草案では「個人」が「人」に変わっている。

憲法に「個人」と書かれているのは、人はそれぞれ違って当然だし、独立した人格として尊重されなければならないから。金子みすずさんの「みんな違ってみんないい」です。それなのに「個」をはずすのは、よほど改憲草案は「個人」というキーワードが嫌いなんでしょうね。「みんな違っていいんだ」というメッセージの逆、「みんなと同じにしろ」という同調圧力を強めたいんでしょうか。それだと、全体の「常識」からはずれる「個人」がいづらく、排除されかねない。たとえば「貧しいのは、あなたが『個人の生き方』を選んだ結果じゃないの?」というように、ますます自己責任が強調されるような空気を懸念します。自民党の改憲の動きに「おかしい」という声を、いろんな分野からあげてほしい。

岡部 専門家が地域住民と協力して、世の中をよくするチームをつくる。そんなとりくみをやれたらいいですね。

太田 そのチームから代表を政治の場に送り出すこともやりたい。今の政治の意思決定をする人の多数派ってめぐまれていて、社会的弱者のことなんかわからない、接点のない人が多いから。

岡部 市民の中から代表者を送り出せる時代も遠くないですよね。

太田 そう、遠くない。実際に3・11がきっかけで地方議会の議員になろうとしているお母さんを知っていますよ。

「九条・二五条カフェ」みたいなこともしてみたい。病院をお借りしてできませんか。異業種の方といっしょにコラボして、憲法のことを考える企画ってあまりしたことがないんです。先生と「異業種コラボ」ができたらきっと面白い。

岡部 じゃあ僕は健康の専門家でお父さん。太田さんは幸せの専門家でお母さん。

太田 法律の専門家でいいです(笑)。企画書出しますよ。ぜひやりましょう。

写真・五味明憲/撮影場所・サカノウエカフェ(東京都文京区)

掲載日:2015年1月5日/更新日:2023年3月27日

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