産婦人科医かずこ先生の課外授業 11

丸橋 和子
東京民医連・立川相互病院産婦人科
ティーンズセクシャルヘルスプロジェクト・スタッフドクター

以前、妊婦健診で胎児の性別を質問されることに関する苦悩をご紹介しました。「男ですか?女ですか?」という質問以外にも、私たち産婦人科医を悩ませる言葉があります。「赤ちゃんの異常がわかる検査、受けたいんですけど」「親に、障害がある子ならおろせと言われてます」など、何とも返事に困ります。この質問は「異常、障害とは何か?」という問題と「出生前診断」の問題を含んでいます。この秋には「99%の精度でダウン症がわかる新しい検査が導入される」という報道があり、ますますこの手の質問が増えています。この新しい検査に関しては、現在様々な議論がなされています。悩み深い問題で、私自身も簡単に答えが出せませんが、今回は、出生前診断に関する私の思うところを書きたいと思います。いつもより少々専門的用語や難しい内容が多いですがお付き合いください。

先の性別もそうですが、どうも妊婦さんや世間の人達は、生まれる前に赤ちゃんの情報が何でもわかると思っている人が多いようです。そして、100%異常を持たない完全な人間が存在しているとも思っているようです。

まず、100%何の異常もない人間は存在しません。これは、哲学的な意味ではなく、全ての人は何らかの遺伝子異常を持つ、という科学的な意味です。生物学で習ったように、染色体は2本で一対ですから、その一方に異常遺伝子を持つだけでは、劣性遺伝で発症する病気の場合発症しません。ですから、全ての人は何らかの遺伝子異常(遺伝性疾患の遺伝子)を保有しているけれど、発症していないだけということです。ちなみにDNA発見のワトソン博士の全ゲノム解析でも11の疾患遺伝子を持っており、そのうち4つはホモ結合(対立遺伝子が2本とも疾患遺伝子を持っている)であったが発症していなかった、と報告されています。

さて、次に「異常、障害」です。妊娠年齢にかかわらず、どの年齢の妊娠でも先天性の異常のある赤ちゃんはある程度の確率で生じます。平均すると305%と言われています。代表的な先天異常は心奇形、口唇口蓋裂、染色体異常、多指症などです。私達の病院でも、胎児形態異常スクリーニングを行っていますが、全ての異常がわかるわけでもなければ、全て見つけようと思っているわけでもありません。出生直後からケアを開始しなくてはならない異常がある場合、高度な周産期管理が必要であることが多いため、その準備のためにスクリーニングを行っているのです。超音波検査でわかるのは、胎児推定体重、ある程度の形態異常(全てではない)です。機能的な異常、聴力、視力、発達に関する異常は全くわかりません。

 

「赤ちゃんの異常がわかる血液検査」。この文章は、多くの肝心な単語が欠落しています。現在実施されている出生前診断の血液検査は、「赤ちゃんの、染色体異常のうちの21トリソミーの確率と二分脊椎などの神経管閉鎖障害がある可能性がわかる血液検査」であって、わかることは多くの先天異常の中で21トリソミー(21番目の染色体が3本ある:ダウン症候群)に絞りその確率と、ついでに神経管閉鎖障害の可能性があるかどうかということです。そして感度は63067%です。

冒頭に登場した新しい検査「99%の精度でダウン症がわかる検査」。これも、同じような検査ですが、ダウン症がわかるというより染色体の数が違う染色体異常をスクリーニングする検査です。

99%の精度と言われると、検査で陽性に出ると99%赤ちゃんがダウン症であるかのような、つまり診断が確定できるような印象を持ちます。しかし、正確な意味は、検査の精度は「感度」「特異度」であらわされ、この感度、特異度が99%であるという意味です。ある疾患を持つ人が陽性になる割合が「感度」、疾患を持っていない人が陰性になる割合を「特異度」といいます。検査には必ず偽陽性(本当は疾患がないのに検査が陽性)と偽陰性(本当は疾患があるのに検査が陰性)が生じます。なるべく疾患を持つ人を多く検出しようとすると必然的に偽陽性が多くなり、特に頻度の少ない疾患となるとますます偽陽性が多くなります。ダウン症候群の発生頻度は妊婦の年齢により違いますから、もし30歳の人がこの検査で陽性の場合、本当にダウン症候群である確率は計算上は50%、35歳だと75%、40歳で90%ということになります。そして、35歳以下の若年の場合実際のデータはありません(表参照)。

一方で、スクリーニングで陽性に出た妊婦は、羊水検査(確定診断)で染色体異常を否定された後も13%の人は不安感が持続し、この不安感は健康な子供が生まれた後も持続するという報告があります。スクリーニング検査を受ける多くの人は「安心を得たい」から検査を受けます。実際、産婦人科医の中にも、詳しい説明を一切しないまま「高齢妊娠だから染色体異常の血液検査をしましょう」と勧めることもあるそうです(東尾理子さんの時も、そうだったようですね)。医師は、少なくとも、実施前に、どのような検査か正確に伝え(何がわかり、どういう意味をもつのか)、ご夫婦に何のために検査を行うのか、検査が期待していた結果でない場合どうするのか、よく話し合ってもらってから検査を受けるかどうか決めてもらう必要があるのではないでしょうか。

それにしても、なぜダウン症候群がこのように目の敵にされるのか、私にはさっぱりわかりません。ダウン症候群は存在してはいけないのでしょうか。このことについては、また次回書くことにします。

産婦人科医かずこ先生の課外授業 10

丸橋 和子
東京民医連・立川相互病院産婦人科
ティーンズセクシャルヘルスプロジェクト・スタッフドクター

私が所属している、性の健康教育に取り組む「ティーンズセクシャルヘルスプロジェクト」の活動は、今年で10年経ちますが、ここにきて何故か突然注目をあびています。これまで、プロジェクトのホームページはあるものの、むしろクチコミで保護者向けの性教育の依頼がポツリ、ポツリとあっただけなのに、今年に入って6月以降ネット経由で多数依頼がやってきました。都立高校全学年向けの講演会、讀賣新聞多摩版に活動の取り組み掲載、各種団体からの取材、などなど降って湧いた有名人モードに「いったい何が起こっているの??」と困惑しているスタッフ一同です。そして、プロジェクトの取材とは別に、雑誌「an ・ an」からも性感染症と避妊についてコメントを求められ、かずこ先生、とうとう全国デビューしてしまいました! !(ああ、そういえばMedi-Wingも全国発行でしたね…。)

一般的な性の悩み事、相談事にはある程度答えられると自分でも思っていますが、最近自分に死角があったことに気づきました。それは、障がい児(者)の性の問題です。今回は、“障がい児(者)と性”の問題について書きたいと思います。

ある日、プロジェクトホームページを見たという人からメールがありました。

重度障害児養護施設の職員という男性から、職員向けに出張性教育をやってもらえないかという希望での連絡でした。よくお話を確認してみると、入所中の思春期を迎えた子ども達のうち何名か、どのように対応していいかスタッフ間で問題になっているということでした。自分達もちゃんとした性教育を受けているわけではないし、知的障がいや身体障がいがある子どもへの性に関わる対応法がわからない。施設に隣接する、子ども達が通学している特別支援学校に、「子ども達に性教育をやってもらいたい」とお願いしたが断られた。そのままにはしておけないので、自分達が性教育を受けようという話になったようです。

 

この雑誌を読んでいる方は、都立養護学校(現在の特別支援学校)における性教育で大変なバッシングがあり、教員が処罰された事件があったことをおそらくご存じないでしょう。学校内で起こったある性問題をきっかけに、知的障がいがあっても自分の体を知り、自分の体を守ることが出来るよう、体の名称など必要事項を人形や歌で教えていたある都立養護学校で、2003年、子ども達の保護者からはその教育が好評であったにもかかわらず、「常識を逸脱した破廉恥で過激な性教育」として一部の都議会議員から批判され、教育委員会に教材を没収された上、校長および関係教諭が処罰されたというものです。その影響は甚だしく、全国的に活発になりかけていた性教育の取り組みが一気に停滞あるいは後退したのです。

養護施設職員の方の話を聞いて、未だにその影響が根深く、教育機関が教育を放棄するというお粗末な現状が続いていることに全く腹立たしい思いがしました。特別支援学校だけでなく、多くの学校が性教育に及び腰になることで、結果的には子ども達の性的自己決定権を奪っているということに、大人達は気付くべきではないでしょうか。

相談の結果、職員への出張講座ではなく、個別の問題について具体的に相談に乗るということにし、アドバイスしてもらえる専門家をご紹介する、ということにしました。

相談内容は、思春期女子の行動と小学男児のマスターベーションに関するものでした。

性の健康を考える上での基本的なスタンスとして、自分の体は自分のもの、自分のことは自分で決める権利があるという大前提があります。しかし、重度の身体障がいがある場合、介護、介助、安全の確保の関係で、そのことが非常に難しいことでもあると今回知りました。幼児以降、いわゆるプライベートゾーンを人に見せないという説明は、通常の生活をしている私達には簡単にイメージ出来るし、わかりやすい事だと思います。しかし、常に体に触れられる介護、介助を要し、毎日のようにプライベートゾーンを見せる必要のある子ども達にとって、介護・介助と性的な意味合いを持つ接触の区別を認識するのが難しいということ。また、マスターベーションの場合、清潔な操作と、プライベートなことなので人の前ではやらない、という説明は、安全確保の観点から、完全にプライベートスペースを保証することが難しいという問題があります。

報道される性被害の中でも、障がい者施設入所中に被害にあった例もよく聞きます。様々な制限のある中で、自己の性的決定権を伝え、保証していくことの困難さ、自分で自分の身を守ることの困難さをあらためて知りました。

社会システム上の弊害は、社会的弱者に強く現れます。障がいを持つ彼ら彼女らこそ、性被害から身を守り、性の健康を維持するために、個々に応じたキメ細やかな性の健康教育が行われるべきであるのに、最も取り残されている現状。全ての子ども達に性の健康教育を受ける権利を保障する義務が、国や私たち大人には課せられていると感じた経験でした。


産婦人科医かずこ先生の課外授業 09

丸橋 和子
東京民医連・立川相互病院産婦人科
ティーンズセクシャルヘルスプロジェクト・スタッフドクター

当院では分娩を取り扱っているので、もちろん周産期管理のための妊婦健診外来を行っています。これまでご紹介してきたような、マニアックな趣味的診療(更年期、性感染症、DV、性被害、骨盤臓器脱などのウーマンヘルスヘア)を得意とする私も、産婦人科集団の一員として妊婦健診を行います。自分自身の妊娠中や子育て中の小ネタを取り入れながら診療を行っていて、出来れば1回は笑って帰ってもらえるよう努めています。

ところが、超音波検査で胎児や胎盤・羊水の様子の観察を終え診察を終了しようとすると、毎回ほとんど聞かれる「どっちかわかりますか?」の質問には、正直閉口しているのです。「どっち」と言うのは、もちろん“男”か“女”かということです。いえ、観察を終えお腹のエコーゼリーを拭き取った後に聞かれる、というのはまだいいのです。もったいないけど、またゼリーを付け直して再度お腹をみればよいだけのことですから。これをお読みの方は、「毎回聞かれるのがわかってるなら、最初から性別見て教えとけばいいじゃん。かず子先生って学習能力無いんじゃないの?」と思われるでしょうね。では、今日は、かず子先生がどうして毎回性別を聞かれるのがわかっていながら、先に教えてあげないか?について書くことにします。

皆さんがもし妊娠(あるいは妻が妊娠)して、自分の子どもの性別を生まれる前に知りたくなった時、どのようにしますか?

  • ①羊水検査で染色体検査をする
  • ②占いばあさんにお腹の形や妊婦の顔の険しさで占ってもらう
  • ③お腹の外から、子どもに問いかけてみる
  • ④超音波検査で外性器の形をみてもらう

①の羊水検査は、現在は主に染色体同定のために行われており、何らかの理由で胎児の染色体を調べる時に行います。最も多く行われる理由は、最近の妊婦雑誌で「血液検査で赤ちゃんの異常がわかる」などという触れ込みをみて、母体血清マーカー試験を行いその結果染色体を同定する、ということだと思います。このことに関しても言いたいことが山のようにありますが、紙面が足りないので、今回は述べません。子宮を穿刺して羊水を採取するので、合併症として感染、破水、胎児損傷が起こりうる検査で、染色体検査の結果は常染色体のみ知らされ、XX、XYといった性染色体の結果は知らされません。

②の占いばあさんは、しょっちゅうお目にかかります。私も妊娠中、患者さんから「お腹が飛び出してるから男の子ね」と言われましたが、第1子は女でした。まあ、目を閉じて占っても半分は当たりますけどね。

③は、お腹の外から赤ちゃんと触れ合いたい人にはいいかもしれませんね。もし、赤ちゃんが自分の性別を理解していればの話ですが。

④これが、私を悩ます選択肢です。では、人の性別は何をもって決められるのでしょうか?④を選ぶ人は、ペニスが付いていれば男、無ければ女、ということですよね。それならば、IKKOさんは「男」でしょうか?ご本人は「女」と言っています。はるな愛さんはどうですか?すでにペニスをお取りになっているので「女」でしょうか?三輪明宏さんはどうでしょう?もう性別を超越しています。

 

オネエの登場で、性同一性障害が一躍有名になりました。体の性と心の性の不一致ということです。医学的に「性」を語るとき、その人の性別を決定する生物学的要因には次の4つが関係します。

  • ①遺伝子の性
  • ②性腺の性
  • ③ホルモンの性・性器の性
  • ④脳の性

①は性染色体のX、Yのうちどちらをもっているか。典型的な例はXXで女、XYで男ですが、数が違う人もいます。②、③の異常で、染色体と外見上の性が違うこともあります。

②卵巣、精巣のどちらをもつか。ヒトは未分化の段階ではすべて卵巣に分化するように出来ています。Y染色体上のある遺伝子が働いて初めて精巣がつくられます。

③ホルモンの影響が無いと、ヒトは自然の状態では女性型の外見になります。性腺(精巣)から出てくる男性ホルモンの影響で、内・外性器が男性へと分化していきます。ホルモンを受け取る“レセプターが欠損する”という異常があると、精巣があっても外性器が女性のまま(外見が女性でも、内性器である子宮はありません)です。

④脳の中の神経回路に男女差があると知られています。ショウジョウバエの実験では、脳の神経系に働く蛋白の影響で、オス型性行動を起こさせていることがわかっています(この蛋白が働けばメスでもオスの行動をとり、働かなければオスでもメスと同じ行動をとる)。

さて、理解できましたか?私だって、今、教科書を見ながら書いています。

①~④の全てが一致しているかどうかは、生まれてみないとわかりません。おまけに、性を認識する上で重要な次の2点。

自分がどちらの性と認識するか(セックス/ジェンダー・アイデンティティー)?

どちらの性を好きになるか(セクシャル・オリエンテーション:性指向)?

体の性、心の性、性指向。「性」って多種多様な組み合わせがあるとお解りいただけるでしょうか。セクシャルマイノリティーと言われる同性愛指向でも、人口の5%を占めます。決して、テレビに出ている人だけの特別な世界ではないのです(もちろん、病気・異常ではないので治療する必要なし)。

というわけで、「どっちかわかりますか?」の質問に、短い診察時間内でこんなにたくさん答えられないので、出来れば性別には触れて欲しくないと願っているのです(何より、産科医としては胎児の健康状態の方が重要なのであって、性別はどちらでもよい)。聞かれたら「うーん、見た目は○○かもね。でも、大きくなってみないと脳みその性別はわかんないからね~」と答えています。「それはそうですね」と言ってくれる妊婦さんが増えたのは、オネエマン達の功績でしょうね。

産婦人科医かずこ先生の課外授業 08

丸橋 和子
東京民医連・立川相互病院産婦人科
ティーンズセクシャルヘルスプロジェクト・スタッフドクター

この連載を始めてから2年以上たちました。読者感想で楽しみにしているというお言葉を頂戴することもあり、ありがたい限りです。ところで、今さらですが、最初原稿依頼を受けた時の言葉を思い出しました。「医療の話だけではなく、病院の外での活動や家庭などいろいろな内容について書いてもらいたい」。どうやら医師としての私だけではなく、「○○に住んでいる丸橋さん」だったり「○○ちゃんのお母さん」としての私の姿も期待されていたのではないか、とようやく気付きました。遅すぎました??

女性医師が仕事以外のこと、特に家庭のことを書くとなると、いつも「いかに仕事と家庭の両立が大変か」という話を期待されます。私の場合、職場も家庭(夫というより夫の両親)も協力的ですので、仕事と家庭の両立は疲れますが困難ではありません。むしろ、妻と一緒に子育てしたいのに、「男性」というだけで職場の理解がえられず、子育てに参加困難な男性医師の話を聞きたくなるのは私だけでしょうか?民医連にも「イクメン医師を!!」で、今回私がお話しするのは、「我が家の男の子の性教育??」についてです。

我が家には思春期真っ只中の娘と思春期前夜の息子がいます。PTAに講演に伺うとお母さん方から「女の子のことは自分の経験があるからわかるけど、男の子の性教育ってどうすればいいの?」という疑問、心配をお聞きします。女の子の性教育を自分の経験だけで行うことは、実は弊害もいっぱいあると思っているのですが、その話はまたの機会にします。

「男の子の性教育」。皆さんなら、自分の子どもが男の子なら何を教えますか?男の子は男の子同士でいろいろ話するだろうから、放っておいても大丈夫?それとも、彼女が出来た頃に「妊娠だけは気をつけなさいよ」なんて言ってみます?

我が家の男の子への性教育もどきは1~2歳頃から始まりました。お姉ちゃんの時もそうでしたが、その頃どうやら「男の人(お父さん)と女の人(お母さん)は体のつくりがちょっと違う」と気づくようです。そこで、男の人にはペニスがあること、女の人にはペニスがないこと、そのかわり女の人にはだーい好きなおっぱいがあることを教えました。そのことを保育園の連絡帳に書いたところ、保母さん達が○○先生は女の人?男の人?と次々確認し、若くてきれいな先生はみんな女の人だったのに、担任の年配先生だけ“男の人”と言われた、と残念がっていました。

3歳ごろには、ペニスのことを教えたついでに、ペニスは清潔にしておかなくてはいけないことを教えようと思いました。世の中の少年・青年雑誌には「包茎の男は女にもてない!」と包茎手術の広告がたくさん載っています。私達女は、ペニスの大きさや形で相手を選んでいるわけではなく、その持ち主のハートの方が大切だと思っているのですから、将来そのような宣伝文句に踊らされないよう、“必要時にむける”ペニスになってもらおう。そのため、炎症を起こして包皮が癒着をおこさないよう、毎日お風呂でちょっとむいてきれいにする、ということを教えました。最初は私が“ちょっとむく”ということを不慣れながらやっていたのですが(もちろん私にとっても初めての体験)、ある日ちょっとむくつもりが、完全にむけてしまい包皮が戻らなくなってしまいました。相当痛かったらしく夫が帰宅して直してくれるまでパンツもはけないまま数時間を過ごしました。一歩間違えるとトラウマになってしまうところでしたが、幸い心に傷もつかず、決して人任せにせず(というより私には触らせず)自分で上手にペニスのお手入れが出来るようになりました。今はもう、一緒に入浴しませんから確認できませんが、今でもちゃんとお手入れ出来ていると思います。

お姉ちゃんが小学校中学年になったころ、『性の絵本』(大月書店)を買ってお姉ちゃんに説明している横で息子も一緒に聞いていました。5冊組の絵本で、自分で気になる本を読んでいるようでした。そこで、彼が小学生になってから、そろそろ自分の体の変化のことについて先に知っておいてもよいかなと思い、『ちんちんがやってきた』(学苑社)という本を買ってリビングにぽいっと置いておきました。この本は男の子を持ったお母さん向けの本ですが、漫画の挿絵もあったためこれまた勝手に自主勉強してくれました。彼は時々、自分で仕入れた知識を夜一緒に寝るときなどに、「朝、起きた時に大きくなってる時があるんだよ、これって勃起っていうんでしょ0!」と自慢げに披露してくれ、エサまき方式の性教育もありだな0と思いました。

私が夫のいびきから避難して子ども部屋で寝ることが多かったので、仕事や当直で不在にしている時間が長い割にゆっくり息子と話しする時間が多かったのかもしれません。何気なく発する性に関連する言葉を、アンテナをはって待ち構えていると、時々「その言葉、待ってました」というのが引っかかります。

「将来は胸の大きな女の子を彼女にする」(彼の名誉のため言っておくと、まだおっぱい好きの幼少期の話)…母「胸だけじゃなくて、心の優しい人を見つけてね」

「ここ(ペニス)をこすると気持ちいいんだよ」…母「気持ちいいことだけど、汚い手で触ったり、人前でしたり、人にしてもらうことじゃないんだよ。将来、女の人を自分が気持ちよくなるためだけに利用しようと思わないでね」

など、我が家の息子は少しユニークな発達特性をもっているので、一般的な母と息子の会話とは多少違うかもしれませんが、こんな感じで我が家の男の子の性教育(というか母と息子のじゃれあい)を行ってきました。これから、思春期に入ってもこんな感じでやっていけるのか、それともまた別の方式になるのかわかりませんが、コミニュケーションをなんとかとりつつ親が伝えたいことを発信していきたいなあと思っています。

産婦人科医かずこ先生の課外授業 07

丸橋 和子
東京民医連・立川相互病院産婦人科
ティーンズセクシャルヘルスプロジェクト・スタッフドクター

今年の夏は暑かったですね。巷ではグリーンカーテンが大流行。私も、節電対策&心の癒しの庭弄りのためにグリーンカーテンを作りました。でも・・・。ゴーヤの種を植えたのに、何故か「かぼちゃ」になっちゃいました。空中かぼちゃ、すでに収穫を終え、秋のハロウィーン時期が待ち遠しく待機中です。

地べたを這って育つかぼちゃも、支え一つで天高く育ちました。かぼちゃって「やればできる子」だったんですね。

さて、ここ数回の「課外授業」は産婦人科医としての医学的なお話しというよりも、心のケアのお話しが続きました。今回は、少しだけ医学的な領域に戻ってお話しをします。当院で取り組んでいる母乳育児支援の取組みについてです。

当院では母乳育児支援の為、これまで様々な取組みを行ってきました。特に2007年からは、WHO/UNICEFの共同声明である「母乳育児成功のための10か条」を実践している病院を公式に認定する『赤ちゃんにやさしい病院』と認定してもらうことも含めた活動を、「赤ちゃんにやさしい病院」推進委員会を中心とした病院全体の取組みとして頑張っています。

産科と小児科だけの取組みではなく、病院全体のものとするため、新入職員オリエンテーションで、"なぜ、今母乳なのか"当院ではどのような支援を行っているのか"職員一人ひとりが関われることは何なのか"などを考える時間をつくっています。中には「母乳」「赤ちゃんにやさしい」という言葉じりをとらえ、「母乳だけにこだわるのはどうかと思う」「お母さんには厳しいのではないか」、という反応や、これまで出産経験のある職員からは「母乳をあげたくても出なかったことを責められているようで辛い」という反応が返ってくることがあります。

そのような声に対しては、人工乳は、栄養、免疫、衛生面ではるかに母乳に及ばないこと。また、多くの女性が我が子に母乳を飲ませたいと思っているのに、周囲の配慮や医療者のケアが足りないばかりに「おっぱいが出ない」「足りない」と思わされていていること。「赤ちゃんにやさしい」とは、「母乳で育てたい」という女性とその恵みを享受する赤ちゃんの双方を支援する取組みであり、母子を取り巻く環境を整えることでもあると説明しています。もちろん、医学的な理由で赤ちゃんに母乳をあげられないお母さんもいます。その場合は、より密接に母子を支援し、母親としての自信が持てるようにサポートします。

産婦人科医療のガイドラインにも、この「母乳育児成功のための10か条」が記載されており、出生直後異常のない児は、なるべくお母さんのそばでケアをすることとなっています。当院では、出生時異常のない赤ちゃんは、母の同意の元、カンガルーケアを行っています。スタッフが安全を確保しつつ、生まれてすぐ母の胸の上に直に赤ちゃんをのせます。最初「おぎゃー」と泣いた赤ちゃんは、胸の上に乗せられると、泣くのをやめて穏やかに過ごします。中には、母乳の匂いに惹かれるように体をもぞもぞと動かし、乳首の近くに行こうとすることもあります。そして、赤ちゃんの観察のため、お母さんから体を引き離されると、殆どの赤ちゃんが「離さないでー」とでもいうように激しく泣いて抵抗します。

産後のお母さんはなるべく、24時間、赤ちゃんと同室、同床で過ごします。赤ちゃんが欲しがる時に欲しいだけ母乳をあげるためです。休めずにかわいそう、という声が聞こえてきそうですが、赤ちゃんが寝ている時はお母さんも一緒に寝てもらったり、寝ながらおっぱいを飲ませる「添い乳」を練習してもらったりして、なるべく、お母さんも楽に過ごせるようアドバイスをします。数日間は、母乳の分泌も少ないのですが、根気よく赤ちゃんが吸い続けることで、徐々に母乳分泌が増えていきます。この、最初の数日を乗り切ると、母子共に楽になる事が多いのです。この時期を例えるならば、皆さんは、最初に自転車を練習したことを覚えているでしょうか?始めからすいすいと乗りこなしたり、片手運転や手放し運転が出来たわけではありませんよね。補助輪を使ったり、後ろから支えてもらったり、何度か転びながら練習してやっと乗れるようになったと思います。同じように、母乳育児成功のためには、少しの努力と周囲の支えが必要です。辛いことを取り除くだけが支援ではありません。

しかし、中には、様々な要因で思ったように母乳栄養が進まないことがあります。小児科医が必要と判断した場合は人工乳を一時的に補充することがありますが、母乳栄養の支援をやめるわけではありません。少しずつ前に進めるよう、入院中だけで不十分な場合は、授乳外来で支援を継続します。

また、お母さんが赤ちゃんとじっくり向き会える、時間と心の余裕も必要です。いつでも気兼ねなく母乳をあげられる環境も大切です。当院は経済的困難を抱える方の入院助産制度を利用しての分娩を受け入れています。統計によると、ここ数年間の取組みで退院時及び1ヶ月健診での完全母乳率は徐々に上がっており、約9割の方が完全母乳栄養です。一方、入院助産利用者は、退院時には非利用者と同様に9割が完全母乳ですが、1ヶ月健診では7割以下に低下しています。入院助産を利用している人は、経済的困難に加え、若年、シングルの人が多い傾向にあります。支える人の少なさ、経済状況が、ゆっくりと母と子が向き合うための「心」と「時間」の余裕を奪っているのかもしれません。母子を取り巻く社会が優しくないと、母乳育児は困難です。私達は、母乳育児支援をきっかけに地域社会に働きかけ、弱者にやさしい社会になるよう取り組んでいきたいと思っています。

産婦人科医かずこ先生の課外授業 06

丸橋 和子
東京民医連・立川相互病院産婦人科
ティーンズセクシャルヘルスプロジェクト・スタッフドクター

最初に、3月11日に生じた東日本大震災で、多くの貴重な命が失われたことに哀悼の意を表しますと共に、大切なご家族を亡くされたり、住居などの貴重な財産や職場が失われたりし、今も甚大な被害に直面し続けている被災者の方々に、心よりお見舞い申し上げます。

当院を含めた民医連の多くの職員が、全国から被災地医療支援に参加しました。現地で被害の状況を直接見聞きした人はもちろんですが、支援に行かなかった人の中にも、多くの報道や映像で被害の状況を知るだけで、なんだか落ち着かなくなったり、落ち込んだり、何かしら心に変調をきたした人がいるかもしれません。特に、被害を受けた人を直接支援した人には、見聞きしたことが頭から離れない、抑うつ感、食欲低下、眠れないなどの障害が生じる可能性があります。実際に被災しなくても、被害を受けた人をケアする中で支援者が被害者と同じような心の傷を受けることを「二次受傷」といいます。医療関係、警察など、日頃から「受傷」や「死」に直面する機会が多い職業の人でも、誰もが起こりうるもので、二次受傷が生じた支援者は自分の傷に気づき、治療する必要があります。

前回と前々回、わが子を失った親や性被害を受けた女性との関わりをご紹介しました。その中で、彼女たちに対する周囲の無理解な言動(命があっただけでもまし、いつまでも悲しんでないで、早く忘れて、あなたにも落ち度があるなど)がさらに心の傷を深めることがあることをお話ししました。このような、周囲からの不適切な言動により、被害を受けた方がさらに傷つくことを「二次被害」と言い、私達医療従事者は、無意識のうちに患者さんに対して「二次被害」を受けさせないよう注意しなければなりません。しかし、同時に、自分自身が支援する中で心が傷つく可能性があることも知っておく必要があることを、今回お話ししたいと思います。

私たちは、性の健康教育の中で、性被害を受けた人を支援する取り組みについて学んできました。救急外来や日常の診療の中で、自分からは言い出せないでいるけれども、実は性に関わる被害を受けて受診している患者さんに、知らないうちに遭遇していることがあります。そのような方たちに遭遇したときに、「何かあるのかな?」というアンテナを張り巡らせると共に、その時、私達医療従事者が実際にやるべきこと、やってはいけないことを学ぶ勉強会を行う機会がありました。その際、参加者の中に、『ここで語られている被害を受けた人の心理が自分に当てはまる』と気づいた職員がいました。封印していた過去を思い出し、傷ついていた自分を思い出したのです。被害を受けた人の中には、自分の傷と直面しないで済むように、被害や事件そのものを記憶の彼方に封じ込め、普段はそのようなことがあったことも忘れていることがあります。その時の傷は、時間がたったからといって風化も治癒もせず、いわば”瞬間冷凍”され、受傷した時のままでいるのです。彼女は、その後、性被害を受けた患者さんと接しているうちに、自分自身に様々なPTSDの症状が出現しました。被害を受けた人の傷が自分自身に影響して生じた「二次受傷」です。そして、自分自身を癒す作業に取り組み、時間をかけて回復していきました。

人は、誰でも過去に心の傷を受けたことがあると思います。現在、なにか苦手だとか、嫌いと思っていることは、過去の傷に関連しているのかもしれません。あるいは、現在目指している進路は、無意識のうちに過去の傷ついた自分を癒したくて選んだ選択の可能性もあります。例えば、「小さい頃、学校や家庭で自分を認めてもらえなかった」「身内あるいは自分自身が病気になった時の医療従事者の態度がいやだった」など、自分に本来してもらいたかったことを誰かに行うことで自分自身を癒そうとすることがあります。そのこと自体は決して悪いことではありません。問題は、自分がして欲しかったことをして”あげる”態度をとり、支援する相手の主体性を奪ったり、思い通りの反応を得られなかった時に相手に対し拒否的な態度をとってしまう可能性があることです。また、自分のことをよく知らずにいることで、自分の能力、耐性の限界を超え、先ほどの例のように「二次受傷」を生じたり、バーンアウト(燃え尽き症候群)を引き起こすことがあります。

患者さんの立場に立った医療を行うことや、患者さんに寄り添う態度は、私達医療者としてとても大切な姿勢だと思います。しかし、その時に、患者さんのことを知ろうとする前に、自分自身を見つめることも忘れないでください。患者さんのつらい気持ちや、いろいろな被害を受けて傷ついた感情に接する時、自分自身をよく知り、自分が傷ついた時にはそのことを自覚し、自分を癒す作業も大切です。どうか、小さなことで良いので、自分を癒す方法を複数見つけてください。私も、最近は生ごみを肥料にするべく庭の土をほじくり返したり、その肥料を使って、小さな庭にいつか実のなる木を植えたいなあと想像してみたり、あるいは奮発してコンサートに出かけてみたり、と、ちょっとした心の癒しに励んでいます。

これから、医療従事者になろうとする方々も、趣味や楽しめることを今のうちにいっぱい探し、そして、自分がなぜこの道に進もうと思ったのか心の奥底に眠っているかもしれない自分を探してみてはいかがですか?

─参考資料

・災害時の「こころのケア」の手引き 東京都福祉保健局
・ガイドブック「災害 支援者ガイド」 全国CTR標準化委員会

産婦人科医かずこ先生の課外授業 05

丸橋 和子
東京民医連・立川相互病院産婦人科
ティーンズセクシャルヘルスプロジェクト・スタッフドクター

前回は産科ならではの“誕生”に関わる患者さんたちとの出会いや、“母”としての生き方の危機に遭遇した人たちとのかかわりをご紹介しました。今回は、出産以外の場で“女性”としてのアイデンティティーを障害されかねない経験をした人達との関わりをご紹介します。

Bさんは、ある朝、彼の家から帰宅中、自宅の玄関まで来た時に背後から見知らぬ男に襲われレイプされました。彼女は、自分の力で警察に届ける勇気を持っていたので、自分で警察に被害届をだし、警察官に連れられて被害の状況を診察するために当院を受診しました。

私達は、性の健康教育を学ぶ中で、性被害を受けた人達への支援で最も重要なのは、本人の自己決定能力を最大限尊重することと学んできたので、Bさんには、これから行う予定の内容を伝え、診察の希望の有無を確認し、誰かと一緒に診察を受けたいか、診察の際はカーテンは必要かなど、一つ一つの小さな事柄でも、自分で選択、決定できることを伝えながら診察を進めていきました。

私たち産婦人科医は、性被害者の診療にあたり、診察の記録を残し、希望があれば緊急避妊ピルを処方したり、感染症の検査を行ったりします。性被害者への支援の中で産婦人科医が担える部分は、実はあまり多くはありません。多くの性被害を受けた方々は、その後、様々な精神的苦痛に悩まされることがしばしばみられるからです。その苦痛は被害直後から生じることもあるし、何年も経ってから生じることもあります。共通して言えることは、被害を受けた人は、産婦人科の診察と同時に、専門的な精神的ケアーを開始するべきだということです。

性被害の対応が進んだ国では、性被害を受けた女性が24時間受診できるセンターがあり、被害者が施設を回るのではなく、警察、医療機関、支援関係者がセンターに集まってきて、同時に様々な支援、援助が開始されるというシステムが存在します。日本でも、民間団体の一部が警察などと協力してこのようなシステムを作りつつありますが、まだまだ試験的段階にすぎません。ここ東京でもそのようなシステムは存在しないので、この時もBさんの精神的被害がとても心配でした。今は大丈夫でも、後から辛くなることもあるので、その時には私達に伝えてもらってかまわないことを伝え、次回の外来を予約しました。

次に来た時、彼女はやはり辛い状況に追い込まれていました。事件後、被害を知ったBさんの彼が「気分転換に映画に行こう」と誘ってくれ、映画に行ったけれど、場内が暗くなった途端、事件の時の恐怖心がフラッシュバックしてきて過呼吸を起こし救急搬送された、との事でした。精神科を紹介することも出来る旨を伝え、本人の希望もあったため、信頼できる女性精神科医を紹介しました。

数回、精神科クリニックに通ったそうですが、その後は通院も途絶えたと報告を受け、心配していたある日、全く別の用件で、当院の産婦人科外来を受診してくれました。まだ、完全に心の傷が癒えていたわけではありませんが、少なくとも、自分の体のトラブルを診てもらうという、前向きな姿勢が伺われ、そのお手伝いの相手に私達を選んでくれたということは、Bさんが被害を受けた時の私達の対応は、少なくとも彼女をさらに傷つけるものにはならなかったのだと安堵しました。

というのも、セカンドレイプと言って、性被害を受けた人が医療者、警察、周囲の人間からさらに精神的苦痛となる対応をされる2次被害が存在するからです。「本人にも隙があった」「そんな時間に外をほっつき歩いていたからだ」「挑発するような服装、行動だったから」などという、本人の行動に原因があったとする考え。「本気で嫌であったら、死んでも拒否したはずだ」「本当はよくても『いや』なふりをする」「深刻な被害ならそんなふうに平然としていられないはずだ」といった間違った迷信。それらに基づいた言動を「セカンドレイプ」といいます。まだまだ、世の中にはそのような考え方が蔓延していて被害者を苦しめることが多くあります。昨年、ある大学の飲み会で生じた集団強姦事件がマスコミで報じられたことをご記憶の方もいらっしゃるでしょう。その反応の中にも被害を受けた女性を誹謗中傷する声がみられたり、加害者の中に有能な(?)スポーツ選手が含まれていたため、罪を軽くするよう要望する声がみられたり、まさに全国的なセカンドレイプが行われていました。

数年前に性被害の経験をカミングアウトされた本がベストセラーになったり、各地の有志が性被害を含む暴力を受けた女性を支援するつながりを作ったりしつつありますが、それでも、性が絡む被害を、被害者が他の犯罪被害と同じように伝えることが難しい世の中です。その分、誰かに助けを求める機会がなく、また、自分の“女性としての存在”を強く傷つけられる経験を癒すことが出来ないままになっている人が大勢います。

そのような中で、Bさんを支援し、自分の力を取り戻す手助けが出来たのであれば、とてもうれしいし、産婦人科医になって良かったとも思います。

産婦人科医かずこ先生の課外授業 04

丸橋 和子
東京民医連・立川相互病院産婦人科
ティーンズセクシャルヘルスプロジェクト・スタッフドクター

今回は、産科ならではの“誕生”に関わる患者さんたちとの出会いや、“母”としての生き方の危機に遭遇した人たちとのかかわりを紹介したいと思います。

あるご夫婦は、まだ本格的な陣痛になっていないいわゆる“前駆陣痛”の時期から3日間を陣痛室で過ごしました。「お腹を切ってくれ」と懇願されても、「大丈夫、あなたは下から産める!」と連日励まし続け、ようやく出産にこぎつけ、「先生が励ましてくれたお陰!」と大変喜び感謝して下さいましたが、夫殿は、陣痛室から銭湯に通う(しかもパジャマ持参)、という当院始まって以来の伝説を残しました。

また、3日とは言わないまでも、丸1日以上妻に付き添い、お産を乗り越え、我が子に出会った瞬間号泣した夫殿。あるいは、産まれてすぐに実施しているカンガルーケアー(産まれて間もない赤ちゃんを、すぐにお母さんの胸に抱いてもらい、赤ちゃんを安心させたり、自然におっぱいに吸い付けたりするよう援助するケアー)を「自分もやりたい」と、分娩室で早速上半身裸になり赤ちゃんを抱っこしていた新米パパ。お母さんの腰をさすったり励ましたりしながら自分の兄弟の誕生を応援してくれ、無事、赤ちゃんが誕生したのをみて嬉しくて泣いてしまった小さなお兄ちゃん、お姉ちゃん。医療者にとって「出産」というものは、母子が安全に経過しているか常に気が抜けず、緊張の連続のイベントですから、必ずしものんびり喜びに浸っていられるわけではないのですが、赤ちゃんの誕生そのものよりも、無事イベントを乗り越え、新しい家族の誕生を迎えるご家族の様々な姿をみて感動させられることもしばしばです。

生命の誕生という喜びの場面に関わる一方で、“母”“女性”としてのアイデンティティーが傷害されかねない事態に関わることもあります。

Aさんは、最初のお産で、妊娠9ヶ月の時に帰省先で死産を経験されていました。次のお産は私たちの病院ですることにしてくださり、慎重に管理していたつもりですが、10ヶ月に入ってまたしても子宮内胎児死亡。前日には赤ちゃんの元気な姿をエコーで確認していたのに、翌日お腹の中の動きが少ないと感じて、すぐに受診してくださったのですが、すでに赤ちゃんの心臓は停止していました。「間に合わなかった」というAさんの言葉が胸に響きました。少しでも赤ちゃんから何かメッセージを残してくれていないかと、解剖をお願いし、同意してくれました。小さな赤ちゃんの解剖は本当に辛かった。持ち望んだ命が自分のお腹の中で失われ、もう泣くことのない我が子を悲しみの中で分娩し、その腕に動かない赤ちゃんを抱くときのお母さんの辛さは、想像を絶するものがあります。しかも、2回も続けて起きるなんて…。

今でこそ、グリーフケアーといって、大切な人を失った人へのケアーが重要視され、我が子を失った親をサポートするグループも登場しています。今でも時々あるようですが、亡くなった赤ちゃんを見せるとお母さんがショックを受けるからといって赤ちゃんに会わせなかったり、このことは早く忘れるように伝えたり、泣いてばかりいないよう伝えたり、と医療者や家族、周囲の人達の無理解な言動が、子どもを亡くした親を更に苦しめることがあります。私たちは、現在、ご両親が少しでも事実を受け止め、悲しみを乗り越えられるよう、亡くなった赤ちゃんの形見を残したり、お産の後、ご両親と赤ちゃんが一晩一緒に過ごせるように環境を整えたり、サポートグループを紹介したりしています。

当時は、まだネット社会も十分発達しておらず、そのようなサポートグループを紹介することは出来ませんでしたが、それでも、ご両親の悲しみを少しでも癒す手助けが出来るよう、自分達の出来ることはやったつもりです。しかし、悲しみを乗り越えるには時間が必要です。Aさんの心の痛みがどこまで回復したか気になりつつも、私たち産婦人科スタッフとのおつき合いは次第になくなりました。

その数年後、再びAさんが外来にやってきました。妊娠しているとのこと。いろいろ心配でなかなか受診できなかったらしく、妊娠3ヶ月目に入っていました。私は彼女の気持ちが十分理解できました。望んだ妊娠ではあったでしょうが、また、あの辛い経験をするかもしれないと思うと、きっと病院を受診することを何度もためらったでしょうし、何より、辛い思いをよみがえらせるこの病院に足を踏み入れることそのものが、辛かったのではないでしょうか。それでも、Aさんがこの病院を選んで受診してくれたことに深く感謝しました。そして、診察してみるとなんと双子。子宮の中に二人並んで元気な心臓の拍動を見せている姿を、ご本人と一緒にエコーで確認しました。「あの子達が、帰って来てくれたんだ!」と涙を流される姿に、私も本当にそうかもしれないと思えました。

前回の解剖では大きなヒントをもらえなかったため、原因不明の子宮内胎児死亡がこれまでに2回あることと、双胎妊娠であるという大変なハイリスク妊娠と判断して、高次医療機関で周産期管理をお願いしました。転院先の病院から、妊娠途中から入院管理を行い、10ヶ月に入ったと同時に帝王切開で無事出産したと報告を受けました。その知らせに、本当にほっとし、ようやく生きて我が子を腕に抱く夢が叶えられたAさんの喜びを想像すると涙が出る思いでした。Aさんは、退院後、わざわざ私たちに赤ちゃんをみせに来てくれました。一人は先天性の病気があり、何度か入院して手術が必要とのことでしたが、命があるだけでも嬉しい、と話してくれました。

子どもを失うということは、母として「なぜ子どもを守ってやれなかったのか」と自分を責めたり、或いは理解のない周囲からも責められることもあったと思います。Aさんも、私たちには何もおっしゃらなかったけれど、随分「母としての自分」を責め、自信を失った日々もあっただろうことは想像に難くありません。3回目の妊娠の時に私たちの病院を再び訪れて下さった時、彼女を支えるお手伝いが少しは出来ていたのではないかなと思えましたし、産婦人科医をやっていて良かったと思いました。

そして、生命の誕生の現場以外でも、「女性」としての自分の存在を大きく脅かされる経験をする女性がいます。次回は、そのような女性とのかかわりをご紹介します。

産婦人科医かずこ先生の課外授業 03

丸橋 和子
東京民医連・立川相互病院産婦人科
ティーンズセクシャルヘルスプロジェクト・スタッフドクター

子育てを始めて十数年。元々、他人にも自分にも甘い私でしたが、子育てを経験して一層拍車がかかってきました。昨年秋から、約10年ぶりに研修指導をやっています。初期研修の指導医はちょくちょくやりましたが、今回は専門医なので責任重大です。正直、性の健康教育でお母さん方にお話している方が何倍も楽でした。

どの科も人手不足と思いますが、当産婦人科も一般的に世間で言われているように人手不足です。昨年末から常勤医師が1名産休に入ることになり、当直体制が大ピンチ。このままでは、アラフォー女性医師3名で産科も婦人科も守らなければならず、崩壊する姿(家庭か産婦人科か病院のいずれかが)が目の前にちらついていた昨年夏、救世主が舞い降りる知らせがやってきました。他の科を担っていた優秀な若手医師が、諸事情で産婦人科医を目指してくれることになったのです。

救世主のH先生は医師になって7年目の女性医師で、どの科にいても常に全力投球・全力疾走、真面目で優秀。生活は地味で質素。大学時代はボート部に所属し、たった一人の女性部員として男性諸君に混じって日々筋トレに励んでいたという肉体派でもあります。一方私はといえば、いつまでも寝ていられるのが唯一の自慢の軟弱派(口が悪いことも長所といってくれる口が悪い同僚もいますが…)。技術職でもある産婦人科は、指導医と研修医はいわばマエストロ(師匠)と弟子の関係。こうして、奇妙な師弟関係が始まりましたが、この間、研修指導と子育ては結構似ているものだと実感しています。

H先生はとにかく、学ぶことに貪欲です(時に強欲)。早く一人前になるために、毎日早朝から夜遅くまで残ってお産をとりまくり、全ての処置に顔を出し、他の処置に入っていて何かイベントを見損ねてしまおうものなら、まるでハレー彗星を見損ねたといわんばかりに悔しがります(そんな、76年も待たなくても、次のチャンスはいくらでもあるのに…)。当直に入るようになると、「1件でも多く経験を積みたい」と飛び込みの救急外来を受けたがります。そんなH先生のオーラは院内や或いは救急隊に届いてしまうのか、近くの婦人科にかかりつけの患者さんまで何の因果か内科を通じて婦人科急性腹症となってH先生の前にたどり着いてしまうのです。そんな時、H先生はエコー片手に嬉々として走り回り、本当にうれしそうです。さすがに40歳を過ぎたおばちゃま(もちろん私のこと)になると、月に5~6回当直をし、お産も救急外来も引き受けるのは正直きついのですが、うれしそうに患者さんを診ているH先生を見ると、わが子が喜ぶ姿見たさに頑張ってしまう親心が芽生えてしまうのです。

子育ての基本は、まず、親が手本を見せ、次に一人でやらせ、後ろからそれを見守る。小さな失敗には目をつぶり、大きく道を踏み外しそうになった時のみ手を差し伸べる、かと思います。寝返りがうてた、つかまり立ちが出来た、初めて「ママ~」と呼んでくれた。それらヒトとして小さな発達を、ある時は転んでも大丈夫なように周りの危険物を取り除いたり、後ろに立ったりしながら一喜一憂する親と同様に、私はH先生の産婦人科医としての成長を見守っているつもりです。ああ、それなのに「さすが~」「すごいね~」と褒め称えているにもかかわらず、H先生は「気持ちがこもってない」だとか「本気とは思えない」などと、素直に私の称賛の嵐を受け取りません。親の心、子知らずです。

 

子育てでは、小さな失敗は何度でも経験させればよいと思います。医師の場合は相手が患者さんですので、命に関わったり、経過に関わる失敗は許しませんが、それ以外のことは、やはりヒトとして成長するのと同様に、自分で考え、経験し、修正していくしかありません。その見極めのためには、どこで何をしているか常に見張っていないといけないのですが、そこは生きのいいH先生のこと、追いかけるのは大変です。その姿は、やたらと元気なピレネー犬(山岳救助などに活躍する1mを越える超大型犬。ちなみに私は身長150cm)を散歩させようと思っているのに、ずるずると引きずられている飼い主の姿を彷彿とさせます。飼い主がいない間に隣の家からえさをもらってきて、自慢げに飼い主の前で尻尾をふって喜んでいる…などとならないように、私が帰る時にはこのピレネーちゃんには「ハウス」しておいてもらわなければなりませんでしたが、最近の進歩は目覚しく、かなり安心して一人でいろいろなことをやってもらえるようになりました。

それでも、時々、あっと驚くことが起こります。「癌が心配です」といってやってきた患者さんに、問診でちゃんと子宮全摘歴を確認しておきながら「それはご心配ですね。子宮癌検診をやっておきましょう」と一生懸命子宮を探そうとしてみたり、子宮摘出手術で摘出した子宮を展開せずにホルマリン固定し、病理医に一緒に謝りに行ったり(*ホルマリンに触れている表面から距離があると組織が固定されないため、筋層の展開が必要)、子宮筋腫核出術で取り出したソラマメ大の多数の筋腫を、他にもたくさん大きなビンがあるにもかかわらずなぜか小さなビンにぎゅうぎゅう詰めにして提出し、病理医に(以下同文)(*ホルマリン固定は酸化還元反応を利用するので、固定対象物に対して十分な量のホルマリンが必要)。

そんなこんなで奇妙な師弟関係は半年を越え、もう、私の許から卒業してもいいんじゃないかと思いますが、まだまだ卒業しないつもりらしいので、私のピレネー犬に引っ張られる生活はこれからも続きそうです。でも、本人曰く、近いうちに私を背中に乗せて走り回ってくれるそうなので(私は金太郎か?!)、その日を楽しみにもうしばらく研修指導に励みたいと思います。

産婦人科医かずこ先生の課外授業 02

丸橋 和子
東京民医連・立川相互病院産婦人科
ティーンズセクシャルヘルスプロジェクト・スタッフドクター

前回は、私が趣味的活動“ティーンズセクシャルヘルスプロジェクト”を開始するまでのお話をさせていただきました。

今回はさらにマニアックに、活動を通じて知ったり、感じたりしたことをお話したいと思います。

皆さん方もよく『啓蒙活動』と言う言葉を使う機会があるのではないでしょうか。特に、患者さんたちに病気について広く知ってもらいたい時、私たちがとるべき行動の一つとして、この言葉が浮かぶと思います。『啓蒙』とは「人々に新しい知識を与え、教え導くこと」と辞書にあります。私たちの活動も、当初「これから先、性感染症や望まない妊娠で心や体が傷つく前に、少しでも正しい知識を知ってもらいたい。性の正しい知識を知ることで、性感染症や望まない妊娠が防げるのではないか」と思って始めたわけですが、活動を進めていくうちに、そう単純な話ではないことに気づいてきました。

私たちの活動の一つとして、人工妊娠中絶術を受けた女性やそのパートナーにアンケートを取っています。なぜ、今回妊娠したかという問に対して、ほぼ100%の人が「避妊していなかったから」と答えていましたが、避妊しなかった理由は様々です。

多いのは「安全日だと思っていたから」「膣外射精をしていたから」という答え。

このアンケートでは、安全日やコンドームに関する知識を問う質問もあるのですが、正しい知識を持っている人は半分以下です。間違った安全日を信じ、膣外射精が避妊法ではないと知らない人に対しては私たちの活動が役立ちそうです。

月経周期と排卵との関係、排卵後数日経つと妊娠しづらくなる。しかし、女性の体はデリケートで排卵周期は常に変化し得るもので安全日は存在ないこと。したがって妊娠を希望しない時には、常に確かな避妊方法が必要で、膣外射精では妊娠を防げないこと。これら正しい知識を伝えていくことで、望まない妊娠を防ぐことにつながるかもしれません。

一方、こんな答えもあります。「友だちが大丈夫だったから」「自分は妊娠しないと思っていたから」。

こう考えている人に対するアプローチは深刻です。自分や相手の体のことなのにどこか遠くの他人事のようです。性行為が年に1回であろうと365回であろうと、月経が規則的であろうが、なかろうが、性行為さえあれば誰だって妊娠する可能性があります。自分や彼女が妊娠して初めて、「うそー!ありえなーい」と現実をつきつけられるのでしょう。

前回ご紹介した、私の活動のきっかけとなった患者さんの「痛い目に会わなきゃ分かんないですよ」という言葉は、常に他人事意識の彼女、彼らに向けて発せられた言葉と言えます。自分の体は自分のもの、自分の体に責任を持つということを伝えるのは、とても難しいことですが、それでも私たちは根気強く伝え続けるしかないと思っています。

「自分は妊娠してもいいと思っていた(が、相手におろせと言われた)(相手と連絡が取れなくなった)」

こう答えている女性も結構います。出来ちゃった結婚という言葉がすでに時代遅れに感じる昨今、妊娠してから結婚するという順番にすでに違和感を感じませんが、相手のことを「いずれ一緒に子育てする相手」と一方だけが思っている時が少なからずあるようです。

望まない妊娠を前に逃げだす男性もいますが、女性はそうはいきません。自分自身は望んでいた妊娠なのに、「望まない中絶」という結果になる時の女性の傷の深さを思わずにはいられません。また、男性側の立場として、「まだ、そこまで考えていなかった」ということもあるかもしれません。結果としてパートナーの体を傷つけることになった男性の後悔の言葉がアンケートにみられることもあります。お互いのコミュニケーションの不足が招いた悲劇といえるでしょう。

そして、数は多くはないものの、さらに問題が深刻だと思うのは、「避妊してといえなかった(女性)」「自分が快感を得られないから(男性)」という答えです。

避妊の多くをコンドームに頼っている日本では、避妊できるかどうかは「男性側のコンドーム使用の意思」にかかっています。それなのに、男性は女性ほど避妊の意識が高いとは言えません。「つけて、と言われた時だけつける」男性に対し、女性は自分の体を守るために、毎回「つけてほしい」と意思表示しなければならないのですが、お互いの関係性が対等でない場合、その意思表示すら出来ないこともあります。また、意思表示しても自分の快感を優先し女性の意思を無視する男性がいるのも事実です。

アンケートでこのように答えていた女性がいました。

「何度も、避妊の必要性や中絶の怖さを伝えてきて、その時だけはコンドームを使ってくれる時もありました。でも、無理やりされたり、自分にわからないようにこっそり途中ではずしたりもされました。経口避妊薬も使おうと思った時もありましたが、彼の反対でやめたことを今ではとても後悔しています。どんなにいいところがあっても、もっと早く彼との関係を見直しておけばよかった…」

このような力関係の強さに乗じて、避妊に協力しない、性行為を強要する。このような関係性にあるカップルは立派にDVが存在しているといえます。DVは婚姻関係にある人たちでのことを言いますが、婚姻関係にないカップル間のDVを日本では『デートDV』といいます。

カップルの間に一方的な力関係の差があり、弱い立場の人間の意思表示が出来なかったり、あるいは無視される関係性においては、いくら正しい知識が身についていても、それを実行に移すことは出来ないことを私たちは知りました。

それ以降、性の健康教育の講演の中で、性感染症や避妊に関する正しい知識を伝えるだけではなく、「いくら知識があっても、お互いの存在を大切することが出来なければ、知識を生かすことが出来ません。性は、奪うものでも差し上げるものでもありません。自分も相手も幸せな関係を築けますように」と、伝えるようにしています。

以上のような話をPTAや養護教諭の先生方、地域の方々にお話をする機会が増えてきました。幸い、出席してくださった方々からは好評を得ています。が、自分の子どもにはなかなか直接自分の口からは伝えられないので「是非、先生に話してほしい」と要望されてしまいます。

これは嬉しい半面、我が家だってそう自慢できるような性教育をしているわけではない気もするし、複雑な心境です。少なくとも、「こんな話ならうちの子に聞かせたいな」と評価してくださっていると思い、子育てをするお母さん方から合格点を頂いたと少し安心しています。

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