産婦人科医かずこ先生の課外授業 01

丸橋 和子
東京民医連・立川相互病院産婦人科
ティーンズセクシャルヘルスプロジェクト・スタッフドクター

私が産婦人科医を志したわけ

最近、マスコミなどで産科医不足が注目され、実際、産科に携わる施設も医師も激減していますが、私が産婦人科医を志した時、どちらかというと、産婦人科は少子化に伴いどんどん廃れゆく分野と認識されていた気がします。ですから、当時の私は、今のような崩壊しつつある産科医療を支えようなどと、大それた考えで産婦人科医を始めたのでは当然ありませんでした。今でも、私のメインの仕事は産科ではなく、婦人科、いや、何というか、それ以外の分野とでもいうべき領域だと思っています。

私が大学を卒業し研修を開始した時、将来は外科か麻酔科か産婦人科がいいかなあ、と漠然と考えていました。ところが、まずは内科研修からローテートが始まってみると、大学生時代にあまりにも授業に出ず臨床の面白さを学び損ねていたせいか、あら、循環器も面白そう、消化器も面白そう、リハビリも面白そう…と行く先々で(今の私生活からは考えられないほど)目移りしてしまう始末。2年近く過ぎて、ようやく進路を考える時に、そういえば麻酔科か産婦人科をやりたいと思っていたのにどちらもまだ研修していないことに気づき、当時どちらの科も研修が必須ではなかったのですが、研修に組み入れてもらいました。それまでに産婦人科は内科研修の間に2週間ほど見学させてもらっていたのですが、麻酔科はただの見学ではなく、麻酔科医としての働き振りを実感したかったので、3ヶ月外部研修に出してもらいました。

3ヶ月間の麻酔科研修は、とても楽しかったのですが、なんとなく自分が麻酔器の一部分になってしまいそうな錯覚にも陥りました。患者さんとのコミュニケーションに飢えて、やけに長い術前訪問をやらかしている自分に気づいたとき、やはり、人とコミュニケーションをとりつつ進める診療科に行こうという気持ちが高まり、その中でも大学時代から興味のあった女性の一生をサポートする仕事として産婦人科を選ぶ決心をしました。

私のやっている産婦人科医療

産婦人科が扱う領域は幅広いのですが、大まかに分けると周産期、腫瘍、内分泌、その他になります(専門医試験もこの分類で出題されます)。そこで、私の専門分野(と言うより、好きな分野)はと言うと、性教育(性の健康教育、性感染症やリプロダクティブヘルス・ライツなど)・更年期・骨盤臓器脱(性器脱や尿失禁など)・DV、性被害支援・セクシュアリティーなど数多くあるのに、すべて『その他』の領域です。仕方がないので、自分で「女性の隙間産業」の専門家と思うようにしています。

中でも、私の趣味的専門分野を代表するのが「若者たちに対する性の健康教育」です。私の勤務する病院のホームページを検索してもらうと、“ティーンズセクシャルヘルスプロジェクト”という名前の活動を紹介しています。これは、2003年、婦人科を受診する望まない妊娠や性感染症にかかった多くの若い女性たちを診て、結果だけを扱うのではなく、予防にも取り組もう!と、医師、看護師、助産師、社会福祉士など他職種のスタッフが集まり作った集団です。

元々、学生の時から性教育というものに興味のあった私ですが、仕事の中でも中心的な活動にするきっかけとなったのは、日々診察室で接する患者さんから「正しい知識を伝えることの重大さ」を学んだからでした。

ある女子高生との出会い

私が夜間外来を受け持っていた頃出会ったある患者さんは、まだ当時高校生で、制服のまま診療開始前から待合室で、友達と一緒にお菓子を食べたり、にぎやかにおしゃべりしながら待っている女の子でした。「おりものが臭う」という訴えでやってきた彼女を前に、私は「最近、若い女性にクラミジア感染が増えているらしいので検査しておこう」とクラミジア検査を行い、見事陽性でした。そこでクラミジア治療をしたのですが、まだよくならないといって、再び外来受診してきました。今でこそ常識ですが、クラミジアと淋菌が混合感染する割合が高いことを考慮しなかったので、淋菌の治療が出来ていなかったのです。クラミジアも淋菌も性行為で感染する性感染症ですが、まさか、普通の女子高生が、一度に複数の性感染症になっていると思わなかったのです。そして、淋菌検査を行い陽性に出たため今度は淋菌の治療をして、ようやく症状がよくなりました。性感染症は風俗でかかるもの、遊び人がかかるもの、と思われがちですが、性行為さえあれば、外見や衣装に関わらず性感染症に罹患している可能性があると身にしみたのでした。

数年後、高校を卒業した彼女が再びやってきました。今度は「妊娠したかも」ということです。診察の結果、双子を妊娠していました。「妊娠なんてありえない!しかも、双子なんて無理!絶対産めない!」と、泣く泣く中絶することになりました。その後彼女は、自ら避妊用のピルを希望しました。忘れずに薬を取りに来て、しかも、コンドームが破損したから緊急避妊用のピルもほしいと臨時受診までする念の入れよう。

避妊と性感染症の予防のために、避妊用のピルとコンドームの併用が勧められています。また、完璧な避妊に一歩でも近づけるために、複数の避妊法を組み合わせる“ダブルメソッド”という考え方からからも、「コンドームとピル」という方法は理想的です。しかし、実際にこれを実行している人はとても少数です。なぜ彼女は、こんなに自分の性の健康に真剣に取り組めるようになったのか、他の多くの女性が積極的に自分の健康を守るためにはどうしたらいいのか知りたくて「どうして、こんなにまじめに考えられるようになったの?他の人に何を伝えたら取り組んでもらえるのかな…?」と尋ねたところ、「痛い目にあわなきゃわかんないですよ…」とだけ教えてくれました。

彼女が、自分の健康を自分で守ることが出来るようになるために、どれだけ大きな傷を心と体に受けたことでしょう。全ての女性が、彼女と同じように傷つかない限り自分の健康を守れないとしたら、とても悲しいことです。確かに痛い目にあわないと分からないこともあるかもしれないけれど、でも、少しでも傷つく前に身を守る手助けが出来れば。そのためには、まず、正しい知識を多くの若者に伝えなくてはという思いを強くしました。

性の健康教育を開始して

このようにして、正しい性の知識を多くの若者に広めよう、とティーンズセクシャルヘルスプロジェクトの活動を開始したのですが、具体的には、高校やPTA、学校、養護教諭の先生方への出張講座をはじめ、当院の新入職員へ性の健康講座を開いたりして、顔を見ながらの啓蒙活動。そして、インターネットを使った情報伝達も試みていますが、これは日々の業務に追われてなかなか更新できずにいます。目下、携帯端末対応可能となるように調整中です。

その他、人工妊娠中絶を受けた女性やそのパートナーからアンケートを取り、実際に今後の避妊法などを相談する時に役立てたり、望まない妊娠をしてしまうカップルにみられる問題点を探ったりするのに役立てています。

これらの活動を通じて、『正しい知識を知ったからといって実行に移せるわけではない』ということも学びました。性教育は単に知識を伝えるだけで終わりではなかったのです。

次回は活動を通じて知ったり、考えたりしたことをご紹介したいと思います。

医師研修を考える 河野恆輔先生

講師:河野恆輔先生

専門医と総合医の役割についてどう考えるか

僕の医者のイメージは『手』がいっぱいあることだと思っています。つまり、一人の患者さんを診るときに知識も豊富に必要だし、『手』もいっぱい持っている方が良いと考えています。

その手は、循環器かもしれないし消化器かもしれない、総合診療かもしれないし感染症といった手かもしれないですが、いろんな手で患者さんをケアすることが大切だと思います。つまり、専門医だって総合的に診ないといけないし、総合医も専門性のある深い知識が一定は必要です。手技的にも必要かもしれません。

杓子定規に「私はここまでしかやらない」とか「他をやっているからこの分野はここまでしか知らなくていい」ということではないと思います。

若いときにこそ幅広く経験することが大切

特に若いうちはいろんな分野に突っ込んでいくという事が大事で、若いうちに裾野を広げて積み上げていけば高い山を築けるかもしれないけど、逆にその範囲を狭めてしまえば小さな石を積み上げたような不安定なものになってしまうかもしれません。だから専門医とか総合医を区別することはそこまで重要ではないと思っています。

一般的な病院で働く医師にとっては、どこのレベルでの専門性・総合性なのかは常に意識しながら、いろいろな科を「侵襲」というか突っ込んでいくことが特に若いうちは大事だと思います。僕の場合は循環器の中の「不整脈」という、民医連的には非常に狭い世界で番を張ろうとしているので、そう考えると、そういう医者がいることが民医連にとってある意味良いこともあると思います。

そういうことがバランス感覚としてどうなのか?という意見もありますが、そんな医者もいないと面白くないし、逆に民医連でも専門医療ができると広くとらえた方がいいかと思っています。そこが民医連の良いところだと思います。

総合性、やさしさ、科学が大事 技術があるから科学も活かせる

専門的な技術はツールの1つではないかと考えています。ツールが増えれば増えるほどたたかいに勝てるようになります。同時に、総合性や民医連的なやさしい気持ちを持つことが必要で、それは制限する必要はないと思っています。

特に、科学は制限する必要はなくて、それは『良い科学』とか『悪い科学』というのはなくて、科学は科学で答えは1つしかないですよね。だけど、今の世の中で1つかと言われると分からないことが多いです。それでも、この患者さんについてはこの治療が正しい治療だということで落ち着くはずです。倫理的や社会的背景から見るとどうか、ということはよく言われます。

科学を突きつめれば1つに落ち着くはずだけど、実際は見えない部分が多い。技術があるとそういう判断ができるようになります。だから、民医連だからどうこうということではなく、技術は無条件でもっている方がいいと思います。技術があればある程患者さんに適切な医療を提供できる可能性が広がります。 仏像で例えると、医療というのは「薬師如来」のようなもので、持っている薬壺を開けるとすべての病気が治ると思われています。でも、実際はそんなことはないです。

実際の医療というのはそんなにかっこいいものではなく、もっと無骨であり失敗も繰り返しながら初めから正しいことができないということが医療の重要なポイントだと思います。僕は、医療は「千手観音」だと思っています。かっこいい千手観音を見つけようとすると意外と少なくて、手が体の周りにいっぱいあって見た目はイマイチですよね。いろいろな物を持っているけど1つの手が1つの事しかできない。医者というのはそういうものだと思っています。

病院も内科や外科があるという意味でもそうだし、いろいろな手で患者さんをどうやって助けるかということを苦悩する姿こそ医者の姿だと思っています。

長野中央病院・総合診療科(研修病棟)での専門医の活躍

長野中央病院の総合診療科は研修のために専門科が手伝いながら、病院の限界なんかも示して研修しています。うちの病院が目指している総合診療は非常に高いレベルなので、専門医に対しても高いレベルを求められます。だから僕(循環器専門医として)もある意味楽しいし辛い場面なんかもあったりするけど、とても幸せです。

つまり、循環器専門医としてカテーテルやアブレーションだけをやっている人生だったら、医者として原点を振り返ることはなかったと思います。研修を中心的に担う若い医師が、医師としての原点を振り返させてくれるというすごいことを経験していて、若い医師たちと付き合うことがもう一つの人生だと感じています。

一般病院の専門医と民医連の専門医の違いは何か

率直に言うと、その違いはないようにしたいと思っています。民医連だからここまで、ということはないようにしたい。専門医としてやるならトップ狙うとまでいかなくても標準までは到達できるようにしたいです。だから民医連外に研修に行くこともいいと思います。

長野県民医連は専門研修を保証しているので外部に出ていろいろな経験をしてくることが、患者さんにとっても良い医療につながると思います。僕自身、今でも研修には出ているけど、その都度少しずつでも上手くなったと実感しています。また、民医連の専門医は一般病院の専門医と患者さんの見方は違うかもしれないけど、技術のレベルに差があってはいけないと思います。

患者の見方が違うというのは、患者さんにとって民医連の多くの医師が「かかりつけ医」だからです。頑張るのも諦めるのも「自分の患者」と思うからで、他の病院に紹介したら亡くなってしまうかもしれない患者さんを頑張って治療して自宅に帰してあげるというところは民医連のいいところだと思います。

亡くなる患者さんも、ずっと診てきて家族の辛い思いも理解して最後に看取ることで納得もしてもらえると思うので、専門医もそういう観点を見失ってはいけないです。最終的に患者さんにとってどうなのかを考えられるのが民医連のいいところだと思います。

大事なことは設計主義に陥らないこと

例えば、癌の手術は癌センターがトップで、次が大学で、市中病院や民医連は場末、みたいな考え方は全然違うと思います。逆に民医連だから出来ることもあります。例えば、手術後のフォローアップも考えてみるなどいいことはたくさんあると思います。

だけど、技術は純粋なので絶対にサボってはいけません。常に自分の技術はどのレベルなのか、社会的にみてどうなのかということを認識していないといけないです。技術的なものは、楽しくて楽しくてしょうがないと思えるくらいまで頑張ってやることが大事だと思います。

患者さんの治療に差があってはいけないはずです。この患者さんに対しては最適な医療は1つであるはずだけど、実際は寝たきりや身寄りがないなどいろいろなバイアスがかかるからそうはならない。民医連はバイアスを一番避けることができるし、そうなりたいと思っています。家族に対しても気兼ねなく話ができるのが民医連のいいところですよね。

大きい病院になればなるほどバイアスはかかってくるので、民医連は医者としてもモラルが担保されていると思います。

最後に医学生へのメッセージをお願いします。

何が正しいのかを考えられるのが学生のいいところだと思います。民医連だから、他の病院だからどうこうということではなく、純粋に平等に物事を見られるのは学生の間だけだと思いますのでとにかく学生時代にいろいろと勉強してもらいたいです。そして、もちろん民医連で一緒に働きたいと思っていますが、民医連に就職するかどうか別としても、不当な圧力に屈しないようにしてほしいです。

民医連といっても決して医療レベルが低いわけでもなく、専門医として十分に活躍できると思います。また、研修とか将来臨床医になるという点でみても、民医連はとても良い医者を輩出していると思います。その研修を一緒に創れるというロマンが民医連にはあるので、是非一緒に創っていきたいと思います。

Profile
河野恆輔(こうの つねすけ)
1991年信州大学卒
専門:循環器
長野中央病院内科統括部長
長野県民医連医師医療委員長

医師研修を考える 尾形 和泰先生

講師:尾形 和泰先生

研修目標の新しい考え方 Milestone
-2015年度 新入医師オリエンテーション資料-

全日本民医連研修委員会・イコリスは、民医連における初期研修・後期研修とその後の医師養成の中で、これまでの評価手法に替わりうる手法のひとつとして、ACGMEのマイルストーン(ACGME Milestones)に着目、その翻訳作業を進めてきました。

同時に、この手法を活かしながら研修医と上級医による評価作業や、指導医への普及、指導医・研修医のワークショップにおける活用など、実際の場面でどう活用できるか実践にも踏み出しています。

マイルストーンの普及を積極的にすすめている尾形センター長が、2015年4月に民医連での初期研修を開始した研修医に対しておこなったレクチャーとワークショップ資料を紹介します。

マイルストーンの翻訳やその実際の活用方法についてのお問い合せは、こちらから。

Profile
尾形 和泰(おがた かずひろ)
北海道美瑛町生まれ
旭川医大89年卒
勤医協中央病院・一条通病院・北区病院で内科研修後、札幌病院眼科、芦別診療所副所長・所長、釧路協立病院・帯広病院で腎臓内科、2002年から勤医協中央病院・総合診療病棟医長、2011年から札幌病院副院長日本プライマリ・ケア連合学会認定指導医、専門は腎臓
指導医講習会(自治体病院協議会・北海道医師会・旭川医大・ニポポ)
全日本民主医療機関連合会医師研修委員長
全日本民主医療機関連合会医師臨床研修センター(イコリス)センター長

医師研修を考える 臺野 巧先生:後 編

前 編

講師:臺野 巧先生

今回は、総合診療医を目指す医学生が、
勤医協中央病院の総合診療センター長で研修指導にあたっておられる
臺野先生と2人の研修医に研修の気になることを聞いてみました。

2004年に新医師臨床研修制度が始まり、10年が経ちました。幅広い診療能力を身につけるという初期研修の考え方はかなり浸透してきたと言えます。
また、2017年からは新専門医制度がスタートしますが、その中身はまだまだ学生に知らされていません。

今回は、総合診療医を目指す医学生が、勤医協中央病院の総合診療センター長で研修指導にあたっておられる臺野先生と2人の研修医に研修の気になることを聞いてみました。
1回目の今回は初期研修についてお話をお聞きしました。

初期研修で何を学ぶのか

斎藤光里さん

斎藤 私は4月から6年生です。周囲の友達もそろそろ進路を考えはじめていています。私も友達とお互いに情報交換をしたり、先輩達の意見も参考にしながら初期や後期研修などの進路を考えている最中です。
私は将来、総合診療医を考えているのですが、初期研修の2年間でどのような科を選択して研修すれば将来に活きるでしょうか?

臺野 まず、厚生労働省が定めている初期研修のプログラムには内科や救急、地域研修などの必修科と、自分で自由に科を選んで研修できる選択必修があります。プログラムによって若干違いがあります。

ちなみに勤医協中央病院のプログラムは、かなり幅広くやることを基本にして、2年間でプライマリ・ケアについてしっかり経験できるようにしています。整形外科や精神科、小児科、産婦人科も必修科になっています。その分、自由選択科が少なくなっていますが、必修科を経験すればジェネラルに診られるようになるプログラムになっています。

また、初期研修では必ず経験しないといけない疾患もあります。A疾患とB疾患と言って、A疾患は入院で診る疾患、B疾患は外来で診る疾患のことです。A疾患とB疾患以外にも項目があり、全項目の70%以上をカバーしなければなりません。例えば統合失調症はA疾患なのですが、入院で診るとなると精神科を回らないと、ほとんど診ることが出来ない疾患です。そういうことを考えるとやっぱり精神科は必修にしたほうがいいだろうと思っていて、研修医が無理なく必修科を経験できるようなプログラムにしています。

斎藤 選択必修は1ヶ月の短いスパンで選択してたくさんの科で経験を積むのと、2〜3ヶ月の長いスパンでじっくり1つの科で研修するのと、どちらがよいのでしょうか。

臺野 いい質問ですね。それは、科によって違います。当院に関して言えば、内科の各科については、だいたい2ヶ月以上選択して研修してもらうようにしています。マイナー科は1ヶ月単位でも研修できる科が多いです。あと、科によって、「うちは1ヶ月でいいですよ」とか「2ヶ月以上回ってください」としている科もありますね。

初期研修の実際

斎藤 勤医協中央病院の研修の特徴と研修中の先生の生の声を聞かせて下さい。

小野 敦彦 医師

小野 当院の特徴は、診断能力が身につくところに重きを置いています。例えばERの場合、単純に救急患者さんを振り分けるだけではありません。腹痛で来院されたら消化器の先生に診察をお願いするのではなく、自分で診断をつけてから個別の対応を行うので診断能力は格段につくと感じています。

栃窪 臺野先生もおっしゃっていましたが、ジェネラルな考え方がとっても大事だなと思います。当院は規模が大きめで専門科もたくさんあるのですが、どの先生方も自分の専門以外の病気も普通に診ています。そういう先生の姿を見ていると、「自分の専門外だから診られません」というのは通用しないと感じています。幸い当院は、専門科同士や多職種の垣根を超えた連携ができていて、相談もしやすいです。

臺野 プログラム責任者なので初期研修医にどういう風に成長してほしいかという思いはそれなりに持っています。私たちは、小野先生も言ってくれたような診断能力はもちろん重視しています。多くの臨床研修病院では外来研修をあまりやっていません。

入院の患者さんは診るけど外来の患者さんは診ない研修病院が多いです。当院では救急車でERに運ばれてくる何も診断がついていない患者さんを研修医がファーストタッチで診断をつけていきます。歩いて来院される救急患者さんもいます。ちょっと熱が高いとか、お腹が痛いという、まだ病名がついていない患者さんを初期研修医が診ています。初期研修医には、どういうふうに診断をつけていくかということを指導医がつきっきりで教えます。

実は、教え方がすごく大事です。まず研修医の先生に考えさせて、診断名を発表させます。診断の根拠も大事にしていて、「なぜそういう風に考えたのか」ということも発表させています。答が正しくても思考過程が間違っていたら次の診察は間違ってしまうので、思考過程を大切にして診断能力を高めることを意識して指導しています。

生涯学習の能力を身につける

臺野 巧 医師

臺野 あともう少し大きな視点で見ると、今後、一人の医師として成長していくことを考え、生涯学習者として成長を積んでもらいたいと思っています。初期研修の2年間は幅広い経験を積めるようになりましたが主治医として責任を持って診療に当たるという経験まではできにくい場合もあります。医師は、2年間研修を積めば一人前かといえばそうではないです。

じゃあ10年医師をやれば一人前かといえばそれも違う。医師は常に成長し続けなければいけません。医学の知識を詰め込んで2年間色々経験したとしても、数年経てば古くなってしまいます。医師は経験年数が伸びれば伸びるほど臨床能力は落ちていくという衝撃的な論文がありそのことは証明されています。たくさんある生涯教育の論文を全部集めてメタアナリシス解析したら、そういうことが分かったんです。

そうなると生涯学習ができないといけません。では生涯学習者に成長するにどうしたらいいのかというと、自分の良いところが分かるのはもちろん、自分に足りないところをわからないといけません。自分を振り返って客観視できる能力が必要になってきます。次の自分の課題は何かということがわかり、自分で学習計画を立て、そこに向かっていける。自分がたどった道のりを振り返り、次に活かしてステップアップしていくことを自らできる研修医に育ってほしいという思いがあります。そこが研修医に伝わっているのかはわかりませんが、そういう思いで指導にあたっています。

2年目研修医になった時にminicx(臨床技能評価)というのを行います。後期研修医が模擬患者役をやり、救急外来に患者さんが来たという設定で、2年目研修医が実際に問診をとって、身体診察をして、検査のオーダーを出して、検査結果を診て、アセスメントとプランを指導医の前でプレゼンテーションするという試験です。

栃窪 すごく緊張しました。

臺野 minicx(臨床技能評価)は、まず自分の救急外来での診療能力をどう思うか客観視してもらいます。そして実際に試験をやって、評価を与えて、その後にこれから自分の課題に対してどのような学習計画をたてますかというところまでやってもらいます。それは自己主導的学習者=生涯学習者として成長していくために、支援するために行なった研修カリキュラムです。プログラム責任者としてそこまで考えています。 「きみは良い、きみはだめ」ということを言うためのものではなくて、自分の良いところも弱点も認識してもらい、克服するためにどのような学習を行うかということを自分で考えてもらうことが大事だと思って行なっています。

研修プログラムの選び方

斎藤 初期と後期研修先を市中病院で行うか、大学医局に入局するか友達同士でよく話をします。先生方はどのように考えておられますか?

小野 難しいですが、専門医は自分の武器として取得したいと思っています。専門医が取得できるのであれば、大学医局、市中病院どちらでも良いと考えています。

栃窪 藍 医師

栃窪 私も正直迷っています。当初は、大学に入局するつもりでしたが、入局しなくてもやっていけるという実状を知りました。いつかは、大学で勉強する機会は必要だとは思っていますが、ずっと腰を据えて大学にいるかは正直悩んでいます。

臺野 プログラムを選ぶときに大事なのは、そのプログラムはどんな医師を育てようとしているのかということを見極めることです。プログラムをつくる側は、「こういう医師を育てたいんだ」というコンセプトが明確になっているプログラムをつくるべきだと思います。そこが、プログラムをつくる上ですごく大切なところです。

プログラムというのは、どの科を何ヶ月回って、次にここの科を経験してということが、プログラムだと思っている方が多いのですが、実はそうではありません。プログラムをつくるとき「こういう医師を育てたい」ということが根っこにないとダメです。はじめに育てたい医師像があって、そのためのプログラムをつくることになります。

例えば、大学病院は高度専門病院になりますので、すごく難しい病気や珍しい病気の患者さんが集まってきます。そのような病気を治療する医師を育てたいのであればプログラムの中に大学病院での研修を入れないと上手くいかないですよね。

私たちが行なっている家庭医療後期研修プログラムは、一般的な家庭医として地域も巻き込みながら地域全体を良くしていく医師を育てようというコンセプトが根っこにあるプログラムです。そのような医師を育てるときに、高度専門化した大学病院の研修はあまり必要ないという話になりますので、私たちの家庭医療後期研修プログラムの中には、大学病院での研修は入っていません。繰り返しますが、どんな医師を育てるのか。そのためのプログラムになっているかということを良く見極めるのが大切だと思います。

後編「2017年から始まる新専門医制度について」

Profile

臺野 巧(だいの たくみ)
勤医協中央病院・総合診療センター長
初期研修プログラムディレクター
家庭医療後期研修プログラムディレクター
1993年札幌医科大学卒
趣味は、マラソン、旅行、音楽
研修医&医学生

小野敦彦(おの あつひこ)
勤医協中央病院1年目初期研修医
進路は悩み中
2014年秋田大学卒
趣味は、ボクシング、筋トレ、バンド
  

栃窪藍(とちくぼ あい)
勤医協中央病院2年目初期研修医
心臓外科志望
2013年山形大学卒
趣味はピアノ演奏

斎藤光里(さいとう ひかり)
札幌医科大学5年
総合医志望
趣味は、ダンス部、旅行(カナダ、イタリア、タイ、フィリピン、ドバイ)

医師研修を考える 臺野 巧先生:前 編

講師:臺野 巧先生

今回は、2017年から始まる新専門医制度のことや、
研修の中でどのような力をつける必要があるのかを聞いてみました。

1回目の対談では、初期研修の選び方から生涯学習の大切さまでお話を聞きました。
今回は、2017年から始まる新専門医制度のことや、研修の中でどのような力をつける必要があるのかを聞いてみました。

内科専門医と総合診療専門医の違い

斎藤 2017年から新専門医制度が始まりますが、そのことについてお聞きしたいと思います。内科と総合診療を選択するのはあまり違いがないように思えるのですが、いかがでしょうか?

臺野 すごく良い質問ですね。2017年から始まる、新内科専門医と総合診療専門医の違いについてですが、扱う病気に関しては似通っているかもしれませんね。新内科専門医と総合診療専門医のプログラムの細かいところについては、議論している最中なので、あまり明確に提示はされていないのですが、新内科専門医については、内科の疾患に関して、かなり幅広く診ることを求められます。

総合診療専門医については、今の家庭医療専門医を土台にして議論が進んでいますのでそれを前提に話をします(参考・「家庭医療専門医の認定に関する細則」)。家庭医療専門医は、ポートフォリオと呼ばれるレポートの提出が必要ですが、その項目を見ると、実は疾患に関する項目はそれほど多くありません。確かに幅広い疾患の知識も大事ですが、家庭医療専門医に求められる能力とは、「地域コミュニティをケアする能力」とか、「患者さんとラポールを形成する能力」、「EBMを用いて問題を解決する能力」や「生物心理社会モデルを用いて問題を解決する能力」施設外や他職種と連携をやったポートフォリオを出しなさいというような非常にユニークなところを専門的に求めています。地域医療をやる上でこれらの視点がないと上手く出来ないところです。

総合診療医の役割

斎藤 光里さん

斎藤 総合診療専門医は診断までを行うのでしょうか。それとも、治療もしっかり行うのでしょうか。

臺野 総合診療専門医は、セッティングによって仕事の内容が変わります。例えば、当院は450床あり、それなりに各専門科も揃っている病院ですが、総合診療医は振り分けだけをやっているわけではなくて、病床を持って診療にあたっています。症例も肺炎から尿路感染症、ショック状態の患者さんもおり、きちんと入院で治療を行なっています。それでは、呼吸器内科の先生は何をしているかというと肺がんや間質性肺炎など複雑な症例を診ています。一般の市中肺炎や高齢者の誤嚥性肺炎などは総合診療医が診ています。 振り分けだけやっているのは、大学病院など特殊な病院だけだと思います。

今の医療の問題点として、臓器別専門の先生が、専門に集中できていないということがあります。臓器別専門の先生が本来は、プライマリ・ケアレベルで治せるような病気まで抱え込んでいるために、その専門性を充分に発揮できていない問題があります。それは、ジェネラリストがあまりにも少ない、もしくは病院にいないという課題があります。もっと効率のよい日本の医療体系をつくるには、総合診療医がもっと増えて、多くの部分を総合診療の医師がカバーして臓器別専門の医師が専門に特化し、専門的技術を活かせる医療体制にしたほうが効率がよいと私たちは考えています。実際に、臓器別専門医でもそのことを言っている先生も結構います。

例えば土屋了介先生(外科医、元国立がんセンター中央病院長)は、外科医はそれなりにいるけど、外科医一人あたりの手術症例が少なくなってしまったり、外科以外の仕事に追われてしまったりしているとおっしゃっています。臓器別専門医と総合診療医が上手くコラボレーションできるといいと思います。そういう意味では勤医協中央病院は、それなりに総合診療医がいるので普通の病院よりは、上手くいっている方だと思います。しかし、まだ不十分で、各科の患者さんが肺炎や尿路感染症になっても普通に診てくれるので助かっています。そこは課題です。

臺野 逆に質問してもいいですか?総合診療に興味を持ってくれて嬉しいのですが、学生さんの総合診療や家庭医療に対してどのようなイメージをお持ちなのでしょうか?

斎藤 札幌医科大学は、総合診療に力を入れていて、それに関する授業も多いこともあり、総合診療や家庭医療の大切さを理解し、関心を持っている学生はいます。また、医師だから専門外のことも診られるようになりたいと思う学生も総合診療に興味を持っています。

逆に、総合診療を曖昧な捉え方をしている学生もいます。全部診るのは難しいと思っていたり、専門治療を突き詰めて行うことが出来ず、中途半端な科だと思い込んでいる方もいるようです。また、患者さんに向けても「特定の疾患の専門家」だと言えないイメージを持っている学生もまだまだいます。

昔に比べ総合診療に興味を持っている方は増えていると思いますが、まずは臓器別の専門性を身につけてから、将来的には、開業してから幅広く診たいという学生も多いようです。

臺野 ありがとうございます。勉強になりました。総合診療医がちょっとずつ浸透しているのは嬉しいです。新専門医制度では、19番目の専門領域として認められているので、学生の皆さんは胸を張って総合診療医を名乗ってもらえ、患者さんにも認知してもらえるように努力するのが私たちの役割だと改めて認識しました。

サブスペシャリティをとるには

斎藤 新専門医制度では、サブスペシャリティも取得できるようなのですが、例えば産婦人科の専門医を取得後、小児科をサブスペシャリティとして取得することもできるのでしょうか。

臺野 巧 医師

臺野 まず新専門医制度は基本となる領域(基本領域)とサブスペシャリティ領域があり、基本領域には19の専門科があります。小児科専門医も産婦人科専門医も基本領域になりますので両方の取得は難しいかもしれません。この基本領域を取得した後、サブスペシャリティ領域を取得することになりますが、それぞれ制限があります。

例えば、内視鏡のサブスペシャリティを取得したいとしたら、内科専門医からは取得できるかもしれませんが、耳鼻科専門医からは取得できないかもしれない。ただ、基本領域からサブスペシャリティを取得する条件の議論はこれからなのでまだ分かりません。

新制度への移行措置

斎藤 私の一つ上の世代から新専門医制度がスタートするのですが、すでに専門研修をされている世代の先生の皆さんはどうなるのでしょうか。

臺野 今までもっている資格について移行措置がとられると言われています。学会によっても異なると思いますが、例えば、内科専門医を持っている先生は、新内科専門医に移行できるとなっています。

今、内科認定医という資格があるのですが、認定医の資格は今後無くなります。認定医を持っている先生は移行措置の対象になっていて昨年から移行の対応が始まっています。

齋藤さんは初期研修を終えて、専門研修として基本領域のプログラムを選ぶことになります。総合診療医に関心があるようなので、ぜひ総合診療専門医のプログラムを選んでほしいなと思います。

栃窪先生と小野先生は現行の旧制度で専門医を取得できますので、現行制度できちんと専門資格をとっておけば移行は比較的容易にできると言われています。旧制度で資格をとらなければ新制度で専門医を取得することになります。

北海道民医連が目指す専門医とは

斎藤 北海道民医連ではどのような専門医を養成するのでしょうか?議論がされていたら教えて下さい。

臺野 まさに今、議論している最中です。今年度中に各科の研修カリキュラムの骨組みが提示されるので1年間かけてプログラムをつくることになります。北海道民医連では、日本のどの地域でも活躍できる医師を養成しようと総合診療医のプログラムの検討を進めています。例えば、僻地でも家庭医としてきちんと診療ができ、大きめの病院でも総合診療医としてやれるようなイメージです。

例えば、大きめの病院の場合、ただ患者さんを診ているだけではなく、科をまたがるような仕事をしないといけません。私たちの病院では褥瘡チームに総合診療医が入っています。このように診療はもちろんのこと褥瘡や感染対策などの院内の委員会、さらには医師研修にもきちんと貢献できる医師を育てています。その病院や診療所のセッティングに応じてフレキシブルに活躍できる医師を育てたいと思っています。

斎藤 栃窪先生は、心臓外科医を目指しているとのことですが、そのような連携や総合性を持った心臓外科医を目指されているのですね。

栃窪 藍 医師

栃窪 はい、それを目標に研修しています。初期研修を始めた時は2年を終えたら大学に戻って専門研修をしようと考えていました。ところが、初期研修の2年間で、ジェネラルな考え方がとても大事だと思うようになり、「専門外の病気は診られなくていいじゃん」とはならないと感じるようになりました。

臺野 来年の栃窪先生の後期研修プログラムを見ていると、腎臓内科や糖尿病の疾患について研修してから外科の研修に入る予定ですよね。たしかに当院の臓器別専門医の先生はかなり幅広く診られます。それは、昔からそのような教育をしていたという事もありますし、2002年から総合診療病棟を教育病棟して立ち上げて研修を行なってきていますので、総合診療病棟で育った先生方が各専門科で頑張っているということもあります。他の病院ではあまり見られない財産です。

斎藤 初期研修で診断能力も身に付けながら、地域を見る力や多職種と連携する能力を身につけるのは、患者さんの安心につながりますね。

臺野 どうしてそれが出来たかというと、私より先輩の北海道勤医協の先生は、専門研修に進む前に診療所での研修を経験していました。「ニコニコ路線」と言って、診療所で2年間の経験を積むので、日常診療で遭遇する頻度の高い疾患は基本的に経験していました。 専門研修では専門的な研修を行う一方で幅広い視点をどのように維持していくのかが課題になってくると思います。

今後は、北海道勤医協の研修到達目標の設定を明確に打ち出してしていきたいと思っていますし、アピールしていきたいと思っています。そのための議論を1年かけて行なっていきたいと思います。総合診療医のプログラムはもちろんのこと、内科の専門研修のプログラムづくりにも関わっていきますので、どんな内科専門医を育てていくのかも考えたいと思っています。内科学会は、内科専門医は内科疾患をジェネラルに診ると言っていますが、内科専門医にもある程度地域を見る目は必要だと私は思っています。

大きな病院だけで研修を積むのではなくて、1年間程度は地方の中規模病院で経験を積むことが必要だと思っています。その方が、疾患も地域も幅広く診られる内科専門医を育てることになると思います。他と同じプログラムを作ってもおもしろくないですしね。

学生時代にしかできない経験が大切

斎藤 「良い医師」をめざす全国の医学生に向けて、経験しておいた方がよいことや勉強した方がことなどメッセージはありますか?

小野 敦彦 医師

小野 最初は目標を持って医学部に入学したと思います。自分の中にある“ぶっとい芯”を心の中に持ち続けて、貫き通していくことが大事じゃないかと思います。ブレないように頑張って下さい。

栃窪 私は遊んだほうがよいと思っています。医学の世界は意外と閉鎖的な部分もありますので、旅行やアルバイトなどを通じて、医学とは全く違う世界の空気を吸う経験をした方がよいと思います。医学部は実学の学校なので社会に出てからの常識はあまり教えてくれません。色んな経験を積み、社会を学ぶという意味で遊んだほうがよいと思います。

斎藤 私自身は家庭教師や塾の講師のアルバイトだけではなくて、飲食店や体を使うような大変なアルバイトを経験したことは良かったと思っています。また、東日本大震災の支援ボランティアにも行き、貴重な経験を通じて多くのことを学びました。時間がたくさんある学生時代にしかできないことを経たくさん験できたらよいですよね。あと、部活も先輩や後輩など仲間との関係を通じて社会性を学ぶ場にもなりましたので部活に入ることもお勧めします。

臺野 学生生活はたくさん楽しんでほしいと思います。私もすごく楽しい学生生活を送ることが出来たのでよい思い出になっています。私は大学寮で6年間過ごして、寮長の仕事をしました。寮を新しく立て替える時期だったので、大学と交渉などもしました。あと、学生会もやっていました。もともと、学生会がなかったのですが、当時学生の意見を取りまとめて代弁する学生自治会とサークル協議会があったのですが、大学は自治会を認めていませんでした。

一方、サークル協議会はサークルに入っていない学生の意見を取りまとめて代弁することはできないという歪んだ状況でしたので、自治会とサークル協議会を統合して学生会という新しい組織を立ち上げる仕事をしていました。

また、4年生の時には大学祭実行委員長も経験しました。そういう事を通して色んな人と会って話したり、交渉したりしたことが、今になって活きています。どんどん、色んなことにチャレンジしたら良いと思います。

あと、学年が上がっていくと大学病院で臨床現場を体験する臨床実習を行うのですが、大学病院は一般の医療の中でも高度化した特殊な医療です。大学病院だけを経験して判断するより、色んな医療現場を経験すれば視野を広げられますのでぜひチャレンジしてみてほしいです。

斎藤 今日は本当にありがとうございました。

一同 ありがとうございました。

医師研修を考える山田 秀樹先生:後 編

講師:山田 秀樹先生

新専門医制度について考える
はじめに

新専門医制度の概要と問題点、民医連の後期研修についてお話ししたいと思います。私は医師になってから感染症科、小児科、呼吸器科、総合診療科、救急診療科、さらには診療所長兼務も経験し、さまざまな科や医療の現場を担当してきました。

果たして私の専門は何か?と問われたらなんと答えるべきでしょうか。診療所にいたから家庭医なのかと言われれば、専門的な治療も数多く経験しており、そうとも言えません。さらに、学会認定資格を取得したのは、医者になってから20年も経ってからです。

しかも、医者として必要だからではなく、病院にとって必要だから取ったまでのことです。この経歴だけを見れば私は一体どんな医師なのかと思うでしょう。

しかし、相当大きな病院でなければ多くの医師は私のような生き方をしているはずです。そしてどんな資格を持っているか患者に聞かれることはまずないでしょう。患者にとっては目の前の先生の人格が信頼できるかどうかが一番であり、それこそが初期研修でも求められる「人格の涵養」というものです。

医者を目指す人は何を専門にしよう、どういうキャリアデザインをしていこうと考えるかもしれません。しかし、そうではないと知っておいて欲しいのです。

私のボスであった医師は「医師免許さえあればいい」という考え方でした。資格=専門医制度ではなく、資格や専門より、プロとしてどう生きるかといったことの方が大事だというのは、私も同様であり、みなさんに考えていただきたいと思います。

新専門医制度の概要と課題

平成29年(2017年)4月から新専門医制度が始まります。これは国の制度である臨床研修制度とは異なり、学会が定めるものであって、法制化されたものではないのが特徴です。新臨床研修制度は36年かけて、より研修医に意味のあるものとして改正されましたがその一方、専門医制度は学会主導の資格でしかありません。そもそも専門医制度は評価の手段でしかないのですが、いつの間にか目的になってしまっている側面があります。

専門医とは「それぞれの診療領域における適切な教育を受けて十分な知識・経験を持ち、患者から信頼される標準的な医療を提供できる医師」であり、第三者機関「日本専門医機構」が専門医の認定とプログラムの評価・認定を行い、養成プログラムや研修施設基準の作成も行います。今後は学会ではなく、この第三者機関が専門医の認定を行っていきます。

病院群で研修を受けるのは初期研修と同じですが、異なる部分があります。例えば、指導医1人に対して専攻医(後期研修医の新しい名称)は3人までとなっています。地方についての考慮はありますが、大きな病院の方が多くの研修医を受け入れられる仕組みに変わります。さらに後期研修を行う基幹病院に関しても集約化が進み、現状の教育病院よりも減ることになります。

全国に初期研修のできる病医院は1100ほどありますが、後期研修の基幹病院は3000400程度。1/301/4程度に減っていくことになりそうです。今後は基幹病院とその提携病院に認定されなければ専門医を養成できなくなる仕組みなのです。定員が減る訳ですから、希望する病院に入れないかもしれませんし、研修の自由が犯される懸念があります。病院側としても中小の病院は今後どうなっていくのかという問題や、地域医療はどうなるのかといった疑問があります。

研修内容については初期研修2年+後期研修3~4年で基本領域専門医を学び、その後はサブスペシャリティ領域へと進む2階建て方式と言われるものに変わります。さらに基本領域からいずれかひとつの専門医取得が基本で、ふたつの資格は維持が困難なため、原則として認められないことになりました(ただし内科と総合診療科は例外)。

また、専門医の認定と更新は、経験症例数など活動実績が要件になります。外科医であれば、「この症例について何例執刀しました」というような実績が要ります。現行でも心臓外科医などは地方に出てしまうと症例が少なくなって実績不足で資格更新ができない場合がありますが、新制度ではそのハードルが上がり、もっと厳格になります。

私自身、年齢とともに目が悪くなってきましたし、若いころと同様の技術を維持して資格を更新でき続けることができるかどうかはわかりませんし、他のすべての医師もそうでしょう。それに、誰もが症例数を確保するために大病院で働き続けることができるかといえば、それもそうはならないでしょう。

新専門医制度に関して注意しておきたいポイント

ここまでのお話の中にもあったように、この新専門医制度にはさまざまな疑問があります。中でも3年目からいきなり専門研修に入れるほど、初期研修で実力がついているかどうかは問いたい部分です。3年目で今後一生続ける専門を決めることが可能なのか、変更したくなった場合はどうするのか等、今はまだはっきりしない部分もあります。

それに、専門医といってもAという科の医師とAという科の専門医はどう違うのか、と問われれば実は違いがないのが現状で、学会認定の肩書があるかないかといっただけに過ぎません。そうすると専門医の資格は必要ないものなのではと思われますが、これからの時代、専門医資格は取って当たり前のものになるので、取った方が良いのは確かです。

ただ、私のように取得する時期にこだわらなくても良いと思います。法制化されているものはなく、医師免許と初期研修修了証があれば必要な医療行為はできるため、実害がある訳ではありません。

そのほか定員制で進みたい診療科に行けなかったり、働き場所が限定されたりすることも考えられます。新専門医制度の掲げる専門医像は、「十分な知識・経験を持ち、患者から信頼される標準的な医療を提供できる医師」だったはずです。しかし、標準的な医師としての力を修得するのに必ずしも向いていないと思われる大学病院の意向が強く反映されており、当初の目的から変質している方向性は大いに問題があります。研修医の生活が不安定になり、働く場所を選ぶ権利が奪われる可能性も小さくありません。

研修の自由を掲げ、36年間医学生やその他多くの人が努力して獲得した初期臨床研修では「トリアス要求」、つまり身分や経済の保障、研修の教育の保障、研修の自由の保障といったことを得てきたのに、新専門医制度はそれを壊す側面があります。

医学生のみなさんはもっと怒り、意見を言うべきであると思います。基幹施設の要件変更については、外科以外はまだまだ不透明ではありますが、専門医集約化で中小病院の教育機能と診療機能の喪失が懸念されていることも知っておいて欲しいと思います。特に地域枠学生が専門医資格を取得できなくなるのではとの懸念が出されています。

制度の詳しい内容は平成28年(2016年)の夏以降に固まってくるかとは思いますが、今わかっていることから内容が変わってくる可能性も大いにあります。大前提としては、新専門医制度は法に則った制度ではないので罰則はなく、3年目から必ずしもそのレールに乗る必要はありません。ただ、取るように迫られる状態にはなるでしょう。

手段が目的になってきていると先ほど言いましたが、専門医はあくまでも資格であり、医師像そのものではありません。国が医療改革推進のために進める制度であり、医師のキャリアを応援するためのものではないのです。

国は医療改革として病院を減らして医療費を削減し(上流改革)、地域包括ケアシステムにとって地域で患者をたくさん診るために(下流改革)、総合診療医を大量に養成して地域を支えることを考えています。これは国の勝手な考えです。

とある学会のシンポジウムでは「専門医=ガイドライン医作りに過ぎず、総合力の喪失が地域医療の崩壊に繋がる懸念がある。評価は国民が幸せになるか否かである」という某大学教授の言葉もあります。しかし、医療の現場ではガイドラインなど通用しません。ガイドラインをどう個別の人に当てはめ、治療に役立てるかが重要なのです。

研修医のみなさんは肩書も重要ですが、資格にがんじがらめにされた外的なキャリアではなく、後期研修をどう過ごすのかを真剣に考えて欲しいと思います。「誰のため、何のためにどんな医師になるか」「医師として生きていく上で、何を大切にするか」といった、働きがいや価値観の積み重ねのできる、内的キャリアを意識した医師を目指して欲しいと思います。

後期研修とはどのような学びが必要な時期なのか

専門医への最短の道は果たして最善の道なのでしょうか?後期研修は専門医資格を取るためだけの期間であり、専門医資格を持たない医師は「負け組」なのでしょうか?

初期研修2年間ではまだまだ経験不足で、3年目からいきなり専門の研修をするのは難しいのではないかと、新制度に対してさまざまな医師が危惧しています。たとえ専門研修に入っても初期研修では不十分な一般内科研修を行うことで、学びを深めるというのは一般的な認識です。それに、日本では中小の病院が圧倒的に多いので、専門医としての診療ばかりで済むわけではありません。また、人格の涵養、患者中心の医療がこれで可能かといった問題もあります。

専門医資格を取り、専門医医療を行えば医師も患者も幸せでしょうか?大学病院以外の病院なら専門外の病気であっても関わり、主治医になることもあります。そうすると専門にとらわれず場によって自分を変化させられないと、医師も患者も不幸です。

3年目からいきなり専門研修に入ることは、そうした不幸を往々にして引き起こす懸念があります。3年目から専門の勉強をすることが必ずしも大事とは言えないようです。

民医連の先輩医師の声を聞いてみると。外科に進んだものの内科もやりたいと3年目は内科、4年目に外科研修を選んだ者は、「3年目に内科をやって本当に良かった」と、後期研修における内科の学びは必要なことだったと言っていました。

また、初期研修を終えただけでは「一人で何もできない」と、後期は各科のローテートをしている者もいます。このように後期研修といえども、まだまだ幅広く学ばないといけない時期なのだと知って欲しいと思います。

民医連の後期研修

後期研修の3年間は幅広く土台を作る時期にするべきです。チームワークも重要で、後期研修になるとチームの中で役割を担い、チームを運営し、初期研修医の面倒も見なければなりません。民医連はチーム医療と多職種の協働を大事にしています。

民医連の川崎協同病院の和田医師はチーム医療と多職種協働を熱心に進めていますが、我々民医連が目指しているのは中心が「患者」ではなく、「解決すべき問題」に置くことです。患者家族ともチームを組み、価値観や生活観を共有し、問題内容によってリーダーをその分野の専門職が担います。こうした手法を採っているのは民医連だけです。

多くの病院でもチーム医療をやっていると言いますが、民医連の内容こそがチーム医療と言えます。民医連はチームのまとまりが強く、時代を見据えた豊かな学びを創造しようとしています。より専門性を深めるための外部研修制度もあり、柔軟性もあります。皆に支えられていい医者になれる、それが民医連における研修です。

また、民医連の後期研修では無差別平等の地域包括ケアの時代を担う医師養成を目指し、地域のニーズに対して自らを柔軟に変化させられるよう、医師の「多様性」と「総合性」を身につけることを大事にしています。

国は地域包括ケアを行うのは総合診療医、専門医療は急性期病院でやるべきだと分ける方向ですが、民医連ではそうした区別はありません。専門に関わらず、すべての医師が無差別平等で弱者に寄り添う地域包括ケアを行います。それによって医師の多様性と総合性を育て、地域住民の人権や尊厳を守り、街づくり、地域づくりに対する協働的姿勢を育てます。

民医連の後期研修は時代を見据えた豊かな学びを創造することを念頭に、安心して学び、真に実力のつく研修をして資格を取ることを推進しています。さらに、より専門性を深める外部研修も用意しています。「地域とそこに暮らす人々の命と健康を守りたい」民医連にはそうした熱い思いを持つ指導医がたくさんいます。ぜひ民医連の研修に安心して飛び込んできて欲しいと思います。

前編「初期研修制度について深める」

Profile
山田 秀樹(やまだ ひでき)
立川相互病院 副院長
全日本民医連 医師部副部長

医師研修を考える山田 秀樹先生:前編

前 編

講師:山田 秀樹先生

初期研修制度について深める
初期研修制度の成り立ちと概要

わが国における医師の歴史は、教育・研修制度は昭和21年(1946年)のインターン制度に始まり、昭和43年(1968年)には旧医師臨床研修制度が施行されます。

しかしこの制度にはさまざまな問題がありました。2年間の初期研修は努力規定であり、研修プログラムも不明確なものでした。研修する施設間格差が激しかったり、指導体制も不十分、研修医の身分や処遇もアルバイト扱いで不安定だったりしたのです。

これについては国も問題を認め、平成12年に医師法、医療法が改正されて臨床研修の義務化が決まり、平成16年(2004年)に新医師臨床研修制度がスタートします。この改正で2年間の臨床研修への専念や臨床研修終了後の医籍登録、病院や診療所の管理が臨床研修修了者に限定されるといった内容が制定されました。さらに修了者でなければ保険診療をすることもできないといったことも制度として決まったのです。

なぜこうした改正がなされたかという背景ですが、この制度ができる前には医療事故が相次いでいました。平成11年(1999年)は医療安全元年と言われていますが、この前後に全国の病院で患者の取り違え、薬剤の取り違い、薬剤の誤注入といった医療事故が多発し、さらに関西医大では研修医の過労死について裁判が行われます。

こうした医療にまつわるトラブルが何故起こるのかといえば、研修の不十分さが原因であると指摘され、制度の見直しについて世論が高まってゆくのです。また、制度ができてから36年が経過し、時代にあわなくなってきていたことも改正の引き金になりました。いくつかの要素が絡み合い、変化を求める声は大きくなり、制度とともに研修医の待遇改善も進んでいきます。

新しい医師臨床研修制度の確立に向けた戦い

制度改正に至るまでには多くの人たちの活動がありました。医学部・医科大学の学生自治会の連合会である医学連が平成13年(2001年)にアンケート調査やシンポジウムを行い、平成15年(2003年)には「医師の卒後臨床研修に対する国の十分な予算措置を求める緊急請願署名」が衆議院厚生労働委員会にて採択され、予算を大幅に増やすことができました。

医学連は学生の組織ですが、当事者たちが「学びをより良いものにしよう」という声を上げることが最も効果的な方法であり、結果を出すことができた例です。

また、研修医の待遇改善についてですが、平成11年に関西医大で研修医が過労死します。現在の研修医には報酬が支払われていますが、当時はそうではありませんでした。この研修医は最低賃金に及ばない月6万円の「奨学金」で週に114時間もの過酷な労働を強いられていました。

この裁判の判決は平成14年(2002年)に最高裁で出ますが、ここで研修医が労働者であると初めて認められ、賃金支払を命じられます。当初、関西医科大学の態度は「研修は教育だから研修医は労働者ではない」「研修医の身分は大学院生に近いもので、労働者ではない」というものでした。

しかし、判決では「研修医と被告病院の間には、教育的側面があることを加味しても、労働契約と同様な指揮命令関係を認めることができる」という司法判断が下されたのです。この件を担当した弁護士はこの判決の意義について、過労死された研修医個別の権利の救済にとどまらず、「研修医全体の労働条件の向上に大きく資するもの」だと言及します。

研修医の待遇改善が結果的に医療事故を防ぎ、国民が安全な医療を受けることができる、国民医療の改善につながるのだと評価します。また、国会でも民医連出身の小池晃参議院議員が当時の厚生労働大臣に対し参議院厚生労働委員会で質問し、大臣も「彼の死を無駄にしない」「研修医も生活できる体制にしなければならない」と答弁しています。

研修医の給与保障や身分保障は、多くの人が運動し、戦い、その中で生まれた社会的財産です。そして新医師臨床研修制度は医学生や国民、医師、医学教育学者らの長年の運動で作られ、国民の医療改善の願いが形になったものです。医師を目指す者は個人のスキルアップや自分自身の生活を充実させるためだけに医師になるのではないということを理解して欲しいと思います。みなさんはこうした活動や思いに応える必要があります。

初期研修で学ぶべきこと

さまざまな人たちの活動があって形になった現行の臨床研修制度ですが、簡単に概要を話すと、まず病院群、基幹型病院とその周りの協力型の病院、さらにその下の診療所や保健所などの協力施設も含め、基幹病院がプログラムを組んで行います。

基幹型病院では8カ月、研修協力施設で3カ月の研修を行うシステムで、国が行動目標と経験目標を定め、それをクリアできるように研修を行っていきます。研修プログラムは5年ごとに見直され、2010年(平成22年)からは選択必修を減らすプログラム選択も可能になりましたが、従来の病院ではまだ必修の多いスーパーローテート方式が採用されています。2年間の研修が終了すると終了認定されて「修了証」が発行され、医籍登録されます。

新医師臨床研修制度では、厚生労働省によって基本理念も定められました。医学・医療の社会的役割を認識すべきとしており、医師として「人格の涵養(かんよう=水が土に染みこむように、ゆっくり養い育てること)」を求め、将来専門とする分野にかかわらず、医学及び医療の果たす社会的役割を認識し、知識・技術・態度を備えた基本的診療能力を養成しなければならないことになっています。

医学生からすると初期研修とは将来の専門科を見つけたり、技術を身に付けたりするのが一番重要だと考えがちですが、そうではありません。初期研修の段階は医師としてふさわしい人格を2年かけて育てていく涵養の時期であり、同時に基本的診療能力を養成すべき時期です。

研修先を選ぶ際には、どういった科があり、どんな研修ができるかということに目が行きがちですが、その前に医者として医学・医療の社会的役割を認識し、人格を磨いてくれる環境やプログラムがあるかどうかを確認してください。その方がきっと自分の能力を伸ばすことができるでしょう。

キャリアパスを考える上でも、「やりたいこと」ではなく「やるべきこと」が何かを考える、利他主義であることも人格の涵養であると言えます。

医師として求められる人格の涵養とは

ではどうやって「人格の涵養」を現場で身につけていくのかということですが、人格の涵養ができているとはすなわち、プロであることです。医師としてのプロフェッショナリズムがひとつのキーワードになります。

世界の医学界でもプロフェッショナリズムとは何かが言われていますが、2002年(平成14年)に米国内科学会、米国内科専門医会、欧州内科学会が合同で発表した「新ミレニアムにおける医のプロフェッショナリズム」が有名です。これは大きく3つの要素があり、利他主義、患者の自律性、社会正義を実践することこそ医師のプロフェッショナリズムだと謳っています。

米国卒後臨床研修機構でもプロフェッショナリズムについての項目があります。しかし医師はプロであるべきですが、そこに「人としての生き方」がなければ意味がありません。それだけに「どのような関係性の中で」研修をするかということが問われているとも言えます。

面倒なことを避け、災害や貧困を他人事として捉えるのではなく、人の悲しみや喜びを想像し、共感し、手を差し伸べられるかどうかといったことが人を作り、人格の涵養であることを忘れてはならないのです。

東京民医連の研修医のグループワークで、人格の涵養について必要なものをディスカッションしてみると、「多職種の違う視点を取り入れる度量の広さ」「異なる価値観の受け入れ」「患者の想いを地道に忍耐強く聞き出す力」「患者と同じ目線、謙虚な態度」といった言葉が出てきました。

こうしたことは人から話を聞いても学べることではありません。学生のうちに多くの人と交わり、実際に臨床の現場で患者や社会運動に関わり、一緒に学んでいくべきことです。しかしそれは時に大変苦しいことでもあります。中には話が通じず人柄的にも苦手と思うような患者もいます。しかしそれを切り捨てないのが医師です。

人としては疲れるし、嫌だなと思うことはあるでしょう。しかしそれは個人の感情です。医師としてその人に寄り添い、相手が納得する答えを出してあげなければ医療は成立しないのです。自分の中に違和感や拒絶があっても、自分の意見が本当に正しいのか考え、自分を構成し直す作業、「省察的実践家モデル」が、ここでは必要な作業になってきます。これは自分を消耗してしまう作業で。しかしチームや仲間を作ってディスカッションし、自分の考え方もときには変えながらやっていくことで実践することができます。

「社会正義」を意識して働き、社会貢献し、利己主義ではなく利他主義であるということがプロフェッショナルです。現場で与えられた役割の中で逃げずに立ち向かい、成長していく。しかしそこには困難も伴うため、仲間と助け合うことで人格の涵養がなされていくのです。そして民医連の綱領にもそうしたことが謳われています。

この綱領の実践こそが民医連職員としての使命です。民医連は他の病院では引き受けてくれないような困難な人にも手を差し伸べます。人権を大切にし、困っている人に手を差し伸べ、人がより良く生きるための必要な援助を行います。そのためにチームは協動し、目の前の現実から目をそらさず、人として豊かに生きられる社会実現のための姿勢を実践しようと医療を続けています。

民医連の研修とは

では初期研修をする際、どこで学ぶのが良いでしょうか。研修先としては大学病院とそれ以外のいわゆる市中病院があります。しかし、近年大学病院を選ぶ医学生は減っています。大学病院は特殊な場所であり、難易度の高い症例を見ることができます。

しかし初期研修が基本的な臨床能力を身につけるところだとすると、大学病院よりは市中病院の方が研修目標を満たせるところだというのが、市中病院が選ばれている理由でしょう。初期研修制度は5年ごとに見直して改善をはかっていますが、市中病院と大学病院の研修医を比べると、市中病院の方が基本的な臨床能力が高いという評価もあります。

大学病院で珍しい症例を見ておくことが大事と考える人はいるかもしれませんが、一般的な症例を数多く見るからこそ、難しく特殊な症例に気づくことができます。それが市中病院では可能ですし、厚生労働省の言う基本理念、基本的診療能力の養成といった意味でも、市中病院での研修は基礎を身につけるのに良いところだと思います。

ただ、市中病院もさまざまで、他院から当院に後期研修を希望した研修医に聞くと「救急では後片付けを手伝うのみ」「治療方針が決まるまで患者には手を触れない決まり」「書類の処理ばかりしていた」といった、およそ実践的ではない声が聞かれました。

現在の病院は確かに書類作成などの雑務も増えていますが、これでは基礎的能力を身につけられているとは言えません。実態を知らずに研修先を選んだマッチングの失敗とも言えるでしょう。

5年ごとの見直しは、中小規模の病院は不利になりつつある部分もありますが、平成22年に厚生労働科学研究の研究報告書「初期臨床研修制度の評価のあり方に関する研究」を見てみると、中小病院の良さが評価されています。入院患者年間3000人未満の中小の6病院における調査において、「きめ細かい指導を受けているため臨床能力が高い」「臨床研修の目標を達成しており、むしろ標準以上」という評価が出ています。なお、調査を受けた6病院のうち、3つが民医連の病院でした。

第三者機関からも評価の高い民医連の初期研修

民医連の病院は卒後臨床研修評価機構(JCEP)による第三者評価では、全国平均に比べてもポイントが高く、研修内容や環境が評価されています。全国平均より10ポイント以上上回っている項目は以下の5項目です。

しっかり到達目標を経験できるフィールドがあり、かつプログラムを改善するための評価を行っている
問題対応能力からインフォームド・コンセントまで主治医としての力が身につく研修である
一般外来研修を行うことができ、在宅とあわせて入院前後の患者さんの生活に触れることができる
医師以外にも看護師や技術系など数多くの職種が評価・指導にあたり、360度評価を実践
指導医・上級医による指導体制が明確で、研修医の医療行為がきちんとチェックされる研修環境がある

このように第三者機関から見ても民医連の研修は研修目的の修得に適しており、十分力をつけ、安全に研修できる環境であることがわかります。

良い病院や名の知れた大病院に研修に行ったから、いい医者になれる訳ではありません。行った先でどれだけ頑張れるかがいい学びができるかどうかを分けます。

例えばある有名な国立大学病院よりも評価された民医連の病院があります。そこは環境の良さや指導医が熱心というだけではありません。研修医がその環境の中で一生懸命勉強していることが高い評価を得ました。研修を作るのは研修医自身です。「誰のために何をするのか」という問いかけを忘れずに研修先を選んで欲しいと思います。

医師像のない受け身の研修ではどこに行っても良い医師にはなれません。知識や技術だけでも不十分です。社会的役割を認識し、人格の涵養ある、プロフェッショナルに徹した医師になるための、より良い研修先を選んで欲しいと思います。

後編「新専門医制度について考える」

Profile
山田 秀樹(やまだ ひでき)
立川相互病院 副院長
全日本民医連 医師部副部長

医師研修を考える 下 正宗先生

講師:下 正宗先生

外来研修のあり方についての研究会

2016年2月5日(金)のNPO法人卒後臨床研修評価機構(JCEP)における「実務者コース講習会」で、同会の会員でありサーベイヤーでもある東葛病院長の下正宗医師がおこなった報告です。この報告は「外来研修のあり方に関する研究会」での共同研究の成果です。

医師研修を考える 大谷 寛先生

講師:大谷 寛先生

民医連の研修では人や社会を見る力が養われる

初期研修、後期研修ともに立川相互病院で行った大谷医師。研修医時代、教わるだけではなく教える立場も経験し、現在は研修委員長として研修に関わり続けている。本人にとって立川相互病院での研修は一体どのようなものだったのだろうか。

―大谷先生ご自身が初期研修を行った時の、立川相互病院の印象について教えてください。

大谷:私が初期研修で一番印象に残っているのは、ここでは病院に来た患者さんを治療するというより、患者の生活の中に医療が入り込んでいるということです。医師は病気を治療するのが仕事ですが、立川相互病院にいらっしゃる患者さんからは病気以外のこともよく見えました。

入院して退院していくまでのプロセスの中に、家族や生活のさまざまな事情があり、そこから社会背景までも透けてくる。患者さんを通して社会がよく見えることが驚きであり、面白いなと感じましたね。医学としてではなく医療寄りの考えで、人や社会を見る視点がなければやっていけないな、と思うようになりました。

―研修プログラムについてはどう思われましたか?

大谷:私が研修医の頃、研修自体は責任性と自由度がバランスよく保たれていました。研修病院の中には安全性を重視して研修医にあまり任せず、見学が増えがちな病院もあります。しかし当院では研修医が主治医という自覚を持って患者さんを診て、指導医も研修医の意見を聞いてくれて「君が考えることをやってみたら?」と言ってくれました。責任感を持って患者さんの治療に当たることで、自分自身が大きく成長できたと思います。

後期研修に入ると今度は初期研修医の指導も任されるようになりました。自分自身も学びつつ、さらに教えながら医療に当たることで、より知識や技術が深まったと思います。今でもそのバランスを重視しています。

現在は研修委員長として研修を運営する立場にあるが、初期研修では特に人を育てることを重視しているという。立川相互病院が目指す医師像は「ゼネラリティのある専門家」だ。そこには「人を見る目」が大事だと言う。

―現在は研修委員長という立場に就かれています。どのような人材育成を目指しておられますか?

大谷:研修委員長の主な仕事はシステム運営と仕組みの調整をしながら、プログラムを動かすことです。我々のコンセプトはずばり“ゼネラリティのある専門家の育成”です。民医連の病院では専門医だから専門分野だけ診るという状況にはなりません。

例えば循環器の専門医になっても、半分以上循環器とは関係のない患者さんの治療に当たっているのが現状です。大学病院であれば領域違いの疾患は診ないのが普通ですが、ここではそうではありません。だから何らかの専門医を希望していたとしても、どんな疾患に対してもゼネラルに対応できる医師の育成が大事になってきます。立川相互病院は民医連の中では専門家が多い病院なので、特にそうした育成が可能になると思います。

―何の専門医だったとしても診療に当たるというのは、民医連ならではなのですね。

大谷:そうですね、もちろん民医連外でもそのようなマインドをもった素晴らしい医師はたくさんいますが。民医連で育った多くの医師は、自分の専門とは関係のない疾患でもまずは診療します。消化器とか循環器といった臓器別専門科とは学問の都合であって、患者さんの都合ではないからです。

例えば、どこの科でも理由が分からないような胃痛や腹痛があったとします。専門しか診ないという病院なら、行った先の科で診る部分だけ診て終わってしまうでしょう。その他は「うちの科ではない」と言って。しかし、患者さんの都合を優先するならば、科にとらわれずゼネラルな視点で原因を追求・治療にあたろうと思うはずです。

これはまったく難しいことではありません。実際、総合診療科には専門で原因が分からず、最後に回ってくるという例は少なくありません。民医連ではそこからさらに人を見て、専門の枠にとらわれず患者さんの訴えを聞いて診断・治療を施していくのです。

―人を見るとは具体的にどのようなことでしょうか。

大谷:ある例ですが、体の不調を訴えて夜の救急外来に来た患者さんがおられました。あとで担当医にどんな人か聞いてみると、トラックの運転手だと言います。そこで『どんなトラックだか聞いてみた?』と問うと、『聞いていません』と言う答えでした。しかし実はここが重要なのです。

この患者さんが昼間の運送業務なのか、深夜の長距離トラックなのかで全然情報の持つ意味が違ってきます。なぜこの人が夜の外来に来たのか、なぜこの時間にしか来られなかったのか、といった想像を働かせ、人を見る。患者さんの生活や経済状況、背景を考えた上で治療に当たっていく。その力を養うことこそ、民医連では重視しています。

ある大学から実習生が来たとき、「患者を見る方法が大学とは全く違う」と言われたことがあります。大学病院にいると学問としての医学寄りになり、こうした患者さんの生活部分には鈍感にならざるを得ません。しかし、我々は人に、地域に密着し、寄り添う医療を行っていくのが使命なのです。

認識して欲しいのは教える仕事の重要さ

医師研修を行っていく中で、大谷医師が重視するのは「教える仕事」だ。研修は教わるだけでは成立しない。教えて伝えていくことで全体が良くなり、その地域の医療レベルが上がっていくと考えている。そう考えるようになったきっかけは、プライベートでの気づきだった。

―大谷先生はずっと研修に携わって来られましたが、研修において重要視していることは何ですか?

大谷:まず、人を育てること。そして研修医自身にも教えることを大事にしてもらいたいですね。それが自身の成長につながっていくからです。立川相互病院では後期研修に入ると初期研修医を指導してもらいます。この『教える』という作業はとても重要です。

私はあるとき、気分転換も兼ねてプロ野球のキャンプを見に行ったんです。昔は先輩というものは総じて厳しかったし、技術は見て学ぶということが、どんなジャンルでも多かったですよね。野球もそうだったはずです。しかし、今のプロ野球は下の者が怒られながら必死に技術を盗んで修得するというより、褒めて育てることも増えたようですし、練習や実践でのコツを教授してくれます。そうした状況に、キャンプを見てハッと気づいたんです。

MLBのイチロー選手なんかでも、自分の技術のさまざまなことを後輩に教えています。こうして別け隔てなく教えることで下の選手がそれをどんどん取り入れて、現在の日本の野球界全体のレベルが上がったと言われています。

―それが医師研修にも当てはまると。

大谷:そうです。例えば自力で10年かかって覚えたことを下に教え、教えられた方がもっと短期間で修得し、それをさらに下に教えていくことを続ければ、学習効率が良くなり、知識が濃縮していきますよね。何回かそれを繰り返すことで、最終的には最初に教えた医師より優秀な医師を同じ時間で複数誕生させることができるかもしれません。

つまり、自分が得たものを研修医がさらに広げてくれれば、地域の医療のレベルが上がるのも早くなるだろうし、医師自身の成長も絶対的に早くなります。それは社会的なニーズでもあると思います。

中には「教科書を読んでおけ」なんて言う先生もいますが、そうではなく、地域の医療、医師のレベルを上げるためには教えることこそを重視すべきだし、臨床研修病院である以上、教えることを『仕事』だと考えていかないといけません。伝えていくことを大事にしないと、積み上げてきたものは威力を発揮できないのです。

―教えることも重要であると、どの医師も感じているのでしょうか?

大谷:確かに、日々の診療を優先して後回しにしてしまう場合はあるかもしれません。また、後期研修医の中には初期研修医の指導をやりたがらない者も少なくありませんが、その理由の多くは『自信がない』からです。しかし、診療の知識や技術があるから指導するのだと私は考えていません。

というのも、当院で指導する後期研修医について初期研修医にアンケートをとったところ、評価が高いのは必ずしも知識や技術のあるいわゆる「優秀な人」とは限らなかったからです。どういうことかというと、自分の知識や技術に絶対的な自信がない者の方が、指導する場合は指導される側と共に考え、一緒に勉強する姿勢が強まります。そうして指導する側もされる側も一緒に成長していくことでメリットのほうが大きくなるのです。

後期研修医は、指導に当たることで半分は下を育て、半分は自分自身が育つという重要性を、教える経験から掴んで欲しいと思っています。そうした中で私は、指導をする医師にどういう教え方をすればいいのか、そういう部分を伝えていきたいと思っています。

新専門医制度になっても民医連の強みを生かしていく

2017年にスタートする予定だった新専門医制度は一旦導入が見送られた。しかしたとえ制度の変化があっても、方向性は変わらず、民医連らしい医師を育てていくだけだろう。

―新専門医制度の一斉スタートは見送りとなりましたが、今後の医師研修はどうなっていくと思われますか?

大谷:新制度では市中病院に不利な部分が多く、まだまだ是正が必要な部分もあると感じていました。新専門医制度がスタートした場合、立川相互病院では総合診療、内科、病理の基幹型病院、そしてその他の科についても協力型病院として対応していく予定です。とはいえ、初期研修については大きく何かが変わることはありません。

今度、立川駅の北口に新病棟ができますが、そこで6か月間の導入期研修を一斉スタートするのが特徴といえば特徴になります。また、新制度の元では良くも悪くも全国的に研修が標準化されると思います。「◯◯の専門医」という肩書は、あくまで資格でしかないということも頭に入れておきたいことです。

民医連としては総合診療専門医の育成については、これまでの蓄積を活かせる得意分野です。実質的に専門性の高い医師を育てるプログラムを運営していく必要があると思っています。

―今後、注目すべき医療の分野はどういうものになってくると思われますか?

大谷:高齢者や在宅ケアでしょうね。民医連ではこの分野を元々やってきていますが、長年培ってきた訪問医療のノウハウと多職種、つまり訪問看護ステーションやヘルパーステーション、住民組織のネットワークとの連携ができるのが強みになります。訪問医療は患者さんのお宅に伺い、患者さんのみならず家族も含めたケアを行いますが、マニュアルがあればできることではありません。この分野で文章化できない知識というものは想像するよりも多いのです。しかし民医連のような病院だからこそ、患者さんたちとそのご家族に寄り添った医療を第一に考えるし、それができる医師を育成していけます。

―最後に行き着くのはやはり「人」をいかに育てるかですね。

大谷:ここは民医連の病院ですから、究極的な言い方ですが、例えば『お金がないから入院できない』というようなことは、患者さんには絶対言わせたくないのです。そういうことは各部門の連携や制度といったものを利用すれば、どうにかすることができる。我々が重視するのはどんな立場にある患者さんに対しても『そこはなんとかなる』と言えるような感覚、それこそを育てていきたいですね。

Profile
大谷 寛(おおたに ひろし)
立川相互病院 総合診療科 科長、医師研修委員長
総合内科専門医、プライマリ・ケア学会認定医・指導医、リウマチ専門医
2003年浜松医科大学卒。立川相互病院にて初期・後期研修を行う。後期研修中より研修委員となり、現在は研修委員長として医師研修に関わっている。

医師研修を考える 今村祐子先生

講師:今村 祐子先生

研修医第1号として、上戸町病院の研修プログラム作りにも貢献

上戸町病院が臨床研修病院となった2009年、その一期生となった今村医師。指導を受ける身ではありながら、同時にどういう研修をすれば必要な知識や技術が身につくのか、自分がなりたい医師にどうやったら近づけるのか、指導医とともに一緒に考え、意見を出しながら上戸町病院の研修を作りあげてきた存在でもある。

―まず、今村先生はどのような理由で医師を目指し、上戸町病院での初期研修を選ばれたのでしょうか?

今村:なぜ医師を目指したのかははっきり覚えていませんが、小学生の時に父に「医師を目指したらどうか」と言われたことがきっかけだったかもしれません。なんとなく社会の役に立つ職業につこうと思っていて「ああ、確かにいいかも」と思った程度でした。その後、親族の死なども経験して医学部を目指しました。

高校生のときに考えていた医師のイメージは町医者やかかりつけ医で、高度先端医療を行う医師になりたいとは思っていませんでした。大学入学後に上戸町病院の見学をして、プライマリ・ケアの現場を見たときに、直感的にこんなところで働きたいと思いました。それに「差額ベッドを取らない無差別平等の医療」というものに感動したのを覚えています。

―今村先生はこの上戸町病院の研修医第1号ということですが。

今村:上戸町病院自体は、1982年の開院当初から卒後研修を受け入れて、医師養成を行ってきました。2009年に基幹型臨床研修病院の指定を受け、そこに私ともう一人の医師が最初の研修医としてやってきたのです。ですから、第1号ではありましたが、医師を育てる環境はあったと思います。ただし、プログラムなどは私の世代が最初ですから、すべて手探りで研修をしながら作られていきましたね。

―当時のご苦労などはありますか?

今村:当院のプログラムは「たすきがけ研修」という、九州沖縄地協の協力病院をローテイトし、研修する方法を取っています。中小病院はすべての診療科が揃っているわけではないので、中小の民医連の病院では同様のスタイルのところが多いのではないかと思います。

私の場合は鹿児島生協病院に半年、その他の協力施設も合わせると1年ほどは外部研修でした。外部研修中には「医師をやめたい、こんな仕事続けられない」と思う時期があったり、自分の力量が目標まで到達しているのかと悩むこともありました。引っ越しも多く、新たな環境に慣れるのに大変で、ストレスも抱えていました。

振り返ると当時は外部研修に出たら出っぱなしで、当院の指導医と定期的に面談をしているわけではありませんでした。研修医がどのように成長しているか、困っていることや悩みはないかといったことを把握する体制が、十分にあるとは言い切れなかったと思います。現在はそれを見直し、協力病院で研修を行っている期間も面談などをしっかり行うようになりました。

―家庭医療の道はすんなり選ばれたのでしょうか?

今村:実のところ、最初にイメージしていた“かかりつけ医”になるには、どういうことを学べばいいのか、学生時代も、初期研修に入ってもよくわかっていなかったんです。3年目に入って、家庭医療の分野こそ目指してきたかかりつけ医そのものだと気づき、自分が何を学べば家庭医療専門医になれるのかを考え、専門研修プログラムを作ってもらいました。

もう一人の研修医とともに「こういう領域を学べたらいいのでは」などと、積極的に意見を出してプログラムに反映してもらったんです。また、当時の上戸町病院には家庭医療を教える指導医がいなかったので、藤沼康樹先生(生協浮間診療所)をお招きして、講演やケースカンファレンスをやっていただきました。そのカンファレンスのときの藤沼先生のフィードバックが非常に面白く、後期研修医だけでなく上級医も家庭医療に目覚めたのが印象的でした。

―どういうことを学べたのでしょうか?

診療をする上で、疾患以外にも家族や地域にもさまざまな問題があります。患者の希望は何か、家族はどうしたいのか、経済的なことはどうするのかといった、疾患以外のことで私たちが悩んでいることはたくさんあります。

家庭医療とは、そのような問題を把握し、患者さんの希望を反映しながら、より良い医療を提供する方法を教えてくれる学問なんだとういことに気づけたんです。それに、これまで民医連が実践してきた医療内容に非常に近いとも感じました。このことが病院全体でも家庭医、(総合診療医)を育てていこうという転機になったと思います。

総合診療の基本的なスキルは初期研修医の指導にも活かせると考えていて、今では家庭医療を学びにいった指導医が持ち帰ったカンファレンスやビデオレビューなどさまざまな教育手法を使って、初期研修医と後期研修医の指導を行っています。

総合診療と小さい病院の良さを活かした研修がメリット

上戸町病院における研修の基本方針は、小病院の特性を活かし、病院をあげて総合的な力を持った研修医を育てるというもの。今村医師も加わって決めたこの理念と基本方針には、どのような思いが込められているのだろうか。

―上戸町病院の研修の基本方針が印象的ですね。病院全体で研修医を育てようという内容が謳われています。

今村:研修の理念と方針はこれ以前にもあったのですが、どこにでもあるというか、あまり上戸町病院らしくない内容だったんです。そこで、2年前に研修委員会でワークショップを行ってアイデアを出しあい、改訂しました。これで何のために研修医を育てるのか、どういう研修医を育てたいのかという、目指すところがはっきりしたと思います。

―こうした理念の元、どういう人材を育てていくのが理想でしょうか?

今村:やはり地域の患者さんやその家族のさまざまな困ったことに対応できる医師ですね。介護の問題や経済的な問題など、患者さんにかかわる困り事はたくさんありますが、その人の幸せな暮らしのために働ける医師を育てたいのです。そのために必要な「人を総合的にみる力」を初期研修のうちに身につけて欲しいと思っています。将来何科の医師になっても、活かせるものだとも考えています。

―指導ではどのようなことを心がけていますか?例えば人をみる方法などについては。

今村:患者さんについては指導医が主治医、研修医が担当医になり、入院患者については毎日カルテチェックをして指導をします。病気の診断や治療についてディスカッションするのは当然ですが、時には本人の病い体験(本人の病いに対する解釈・期待・感情・影響)、仕事や経済状況、家族の状況、家族の考えはどうなのかということも方針を決定する上で重要になってきますので、それらを研修医が把握できているかなどもチェックします。

また問題解決する力を身につけることも重要だと思っています。研修医には「先生は答えを教えてくれない」と言われますが、すぐに答えを教えていては自分で調べる力が身につきませんし頭に残りませんから。質問されたら「ここを調べてみれば」とヒントだけを与えて、自力で解決できるように方向づけします。医学的な情報は日々変わるので、生涯学習する力も身につけてほしいと思っています。

―上戸町病院は大きな病院ではありませんが、小さい病院だからこその良さはありますか?

今村:当院は104床と規模は小さい病院ですが、小さいからこそのメリットがあります。スタッフが少ないので研修医の顔をすぐ覚えてくれますし、ちゃんと名前を呼んで接してくれます。そして医師が医師を育てるだけではなく、他の職種のスタッフも教育に関わってくれるのは小病院ならでは。

初期研修の最初は他部門研修を行いますが、例えば看護師はどうやって体位交換していてそれがどれほど大変なのか、薬剤師の業務とはどんなものか、医師から教わるより実際にやっている看護師や薬剤師から学ぶ方が良いし、医師がどう指示すればスタッフが働きやすいのかを知ることができます。

検査技師からグラム染色やエコーを直接教えていただいたり、地域連携室では退院した患者さんの家を訪問したりして、患者さんの自宅での生活状況を知るような機会も持たせています。研修は基本的には指導医が責任を負いますが、現場で働くさまざまな人たちも研修医を教えるチームの一員なのです。

また、研修医の人数が多くないので、一人に対して十分に指導の時間を確保できることも良いところですね。研修医一人ひとりの個別性を尊重し、本人の考えを聞きながら指導するよう心がけています。

上戸町病院の研修理念と基本方針
【研修理念】

患者さんとその家族の幸せなくらしのために、将来の専門にかかわらず患者さんに責任をもち、学び続ける姿勢と総合診療の基本的な能力をあわせもった医師を、小病院の特性を生かして育成します。

【基本方針】
わたしたちは病院をあげて、職員全員で研修医を育てます
わたしたちは研修医の主体性を重視します
わたしたちは研修の場としてさまざまなフィールドを提供します
わたしたちは教育の質の向上と、教育のための時間の確保に努めます
総合診療をもっと広く認知させていくことが今後の課題

新専門医制度で新たに加わる総合診療医は、家庭医療専門医とほぼ同一の位置づけとなり、今後この分野をいかに広めていくかが課題とも言える。専門性が高い割にまだ認知度が低いという総合診療医について、広く伝えていくことにも意欲的だ。

―総合診療の分野は今後ますます重要になっていくはずですが、医師の数もまだ少ないですね。

今村:総合診療医は何でもできるけれど何もできない、と言われたりしますが、総合診療医の専門性を、医療従事者や地域住民に伝えていかなければならないと思いますね。

例えば高齢者は複数の疾患を抱え、疾患ごとに病院や診療所にかかり、薬をもらっていたりします。でも、誰かが全体をみていないと、ある疾患の治療が別の疾患には悪い影響を与えていたり、薬が重複したりしているかもしれません。さらに「この症状は何科の先生に相談すべきなのか?」「認知症が進んできて介護の問題が出てきたけど、誰に相談したらいいのか?」と、本人も家族もどの医師に相談すればいいのか困ってしまうでしょう。そういう場合は、誰かが複数の疾患や生活のことまで全体をマネジメントするとうまくいくことが多く、それが総合診療医の役割だと思います。

地域や家族など、病気の周辺の問題も複雑化してきていて、総合診療医の専門性は以前よりも求められています。しかし、患者を丸ごとみることに、専門性が求められるということはまだまだ認識されていません。そこをもっと広めていきたいですね。いろんな病院にかかっていた患者さんを、かかりつけの主治医として総合的にみていくと、「これで安心できる」「最後までみて欲しい」と言われることがあり良かったなと感じます。どうすれば患者さんが幸せに暮らしていけるのかを考え、お手伝いするのは一番のやりがいですし、それを多くの医師にも感じてもらえたらと思いますね。

総合診療医紹介ビデオ/日本プライマリ・ケア連合学会

Profile
今村 祐子(いまむら ゆうこ)
上戸町病院 総合診療科
九州・沖縄地協 医学生委員会責任者
2009年長崎大学卒。上戸町病院が臨床研修病院となった年の研修医一期生。研修プログラムを作りにも積極的に関わってきた。初期・後期研修を経て、現在は総合診療科の医師として地域医療に当たりつつ、研修医の指導も行っている。

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