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専門研修を終えて

― 鈴木 健太郎 ―

所属:松江生協病院 内科・循環器内科

1人前の医師になるのに10年かかる

「1人前の医師になるのに10年かかる」というのはその通りで、一昨年からの循環器・不整脈の専門研修を終えて、今やっと自分の専門性をピリッと効かしての診療ができている実感とやりがいをもって医師生活を送っております。両親が医師で最も身近な職種であったこと、また憧れもあったことが医師を目指したきっかけでありました。

親は特に「勉強しろ」「医者になれ」とは全く言わない放任主義で、4人兄弟の長男ということもあって、子どもながらに意識していたのだろうと今振り返ります。一般的に自身の職・生きる道を探し出すまでには経験や年月を重ね決断するのがよいのでしょうが、私たちの多くは18歳そこらで自らの進路を決め、大学の狭き門を目指しているのです。したがって医学部卒業後も医療の世界しか知らない若輩の自分が、時として患者さんの人生の岐路に関わるという、このギャップにはいつも悩まされています。

患者さんを支えているようで、実は自分も支えられている

大学卒業後、初期臨床研修を松江生協病院で2年間行いました。この2年間で医師として基本的な態度・技術を身につけ、子どもからお年寄りまでの一般的な疾患の対応あるいは救急初療法を身につけました。机上の知識から、いよいよ目の前の患者さんと向き合っての診療となり、医師の責務でお尻に火がついたように勉強やトレーニングに励みました(学生時代はあまり勉学に熱心ではなかった)。診察の裏で3分前に仕入れた知識を、患者さんにはさも医師の常識とばかりに解説してみたり、自転車操業な日々でした。

また慢性的な医師不足のために、医師は一人何役分も働いており、その分実労働時間が増え、最悪過労死という問題も生じています。そんな中で患者さんにお礼のハガキや手紙をいただくと、医者をやって良かったと感動します。医師として患者さんを支えているようで、実は自分も支えられているということに気づきました。医師2年目に内科、循環器内科を自分の専門として決意し、3年目以降は後期研修として内科全般の修練、つづいて循環器内科の研修へと移りました。

スペインのマドリッドで開催されたヨーロッパ不整脈学会で発表しました

循環器内科医をめざすなかで不整脈診療に興味を持ち、7年目からは専門施設での研修を行いました。その研修先の大阪市立大学附属病院は約900床で約30診療科を有し大阪市の天王寺駅前という好立地にありますが、大阪の光と影の狭間にある大学病院といっていいかもしれません。何故なら大学のすぐ裏手の地区は、生活保護世帯が大阪市平均4倍、全国平均11.4倍、結核罹患率が大阪市平均4.7倍、全国平均の12.5倍という地域事情を抱えるところです。

救急搬送や紹介されてくる患者さんに、経済的・社会的介入を要する方も少なくはありませんでした。病気だけでなく、患者さんの背景にまで目を向けるという民医連の理念を感じる大学でもありました。一方、大阪の患者さんは、いわゆる「大阪人」の、社交的で世話好き、時にせっかち、自己主張があったりと、島根人とは違う気質も感じました。

自分が島根からやってきて、大阪で学んだことを故郷にもって帰るのだと説明すると、「島根の先生」と愛称で、何かと応援をいただきました。そんな中で循環器症例、特に不整脈分野を数多く受け持ちました。重症心疾患に関連した致死的不整脈を多く経験し、カテーテル・アブレーション、ペースメーカ・植込型除細動器の植込術の第一執刀医を務め得るまで指導いただきました。研究分野ではブルガダ症候群(若年性の致死的不整脈をきたす疾患)を中心の研究テーマで、2回の国際学会の発表の機会にも恵まれました。

専門医のやりがいと自負をもって医師生活を送れています

専門研修を振り返って実感したことは、①同じ循環器、不整脈専門医を目指す同世代の若手医師らと仲間として研鑽できたこと②身近に第一線のエキスパートに接する機会に恵まれたこと③地域もシステムも異なる病院での診療経験④自分の生協病院で6年間培った医師経験や技量が一定評価されたことです。

これまで初期研修や後期研修でトレーニングしてきた総合内科医の点は、医師不足の地域病院だけでなく大学病院にも求められると感じています。専門研修を終えて、10年目の医師となり、専門家の自負とやりがいをもって医師生活を送れています。そして改めて医療生協の病院や民医連の良さを実感しています。

スタッフがより一丸となって支えてくれている点で働きやすさも感じます。内科医師として総合的な診療を、そしてサブスペシャリストとして循環器・不整脈診療は一味違う診療をもって健康問題の一助となるよう今後とも励んでいきます。ぜひこれから医師を目指す皆さんとも一緒に診療できたらと思います。

Message ― メッセージ ―

医学生のみなさん、総合性を担保した
質の高い専門医を目指してください。

― 鈴木 健太郎 ―

Profile

○所属:松江生協病院 内科・循環器内科
○経歴:2004年3月鳥取大学卒業、2004年4月松江生協病院 初期研修、2006年4月松江生協病院内科・循環器内科後期研修、2010年4月大阪市立大学医学部・附属病院循環器病態内科学 循環器・不整脈専門研修、2012年4月松江生協病院内科・循環器内科
○趣味・特技:音楽鑑賞、旅行