産婦人科医かずこ先生の課外授業 08
丸橋 和子
東京民医連・立川相互病院産婦人科
ティーンズセクシャルヘルスプロジェクト・スタッフドクター
この連載を始めてから2年以上たちました。読者感想で楽しみにしているというお言葉を頂戴することもあり、ありがたい限りです。ところで、今さらですが、最初原稿依頼を受けた時の言葉を思い出しました。「医療の話だけではなく、病院の外での活動や家庭などいろいろな内容について書いてもらいたい」。どうやら医師としての私だけではなく、「○○に住んでいる丸橋さん」だったり「○○ちゃんのお母さん」としての私の姿も期待されていたのではないか、とようやく気付きました。遅すぎました??
女性医師が仕事以外のこと、特に家庭のことを書くとなると、いつも「いかに仕事と家庭の両立が大変か」という話を期待されます。私の場合、職場も家庭(夫というより夫の両親)も協力的ですので、仕事と家庭の両立は疲れますが困難ではありません。むしろ、妻と一緒に子育てしたいのに、「男性」というだけで職場の理解がえられず、子育てに参加困難な男性医師の話を聞きたくなるのは私だけでしょうか?民医連にも「イクメン医師を!!」で、今回私がお話しするのは、「我が家の男の子の性教育??」についてです。
我が家には思春期真っ只中の娘と思春期前夜の息子がいます。PTAに講演に伺うとお母さん方から「女の子のことは自分の経験があるからわかるけど、男の子の性教育ってどうすればいいの?」という疑問、心配をお聞きします。女の子の性教育を自分の経験だけで行うことは、実は弊害もいっぱいあると思っているのですが、その話はまたの機会にします。
「男の子の性教育」。皆さんなら、自分の子どもが男の子なら何を教えますか?男の子は男の子同士でいろいろ話するだろうから、放っておいても大丈夫?それとも、彼女が出来た頃に「妊娠だけは気をつけなさいよ」なんて言ってみます?
我が家の男の子への性教育もどきは1~2歳頃から始まりました。お姉ちゃんの時もそうでしたが、その頃どうやら「男の人(お父さん)と女の人(お母さん)は体のつくりがちょっと違う」と気づくようです。そこで、男の人にはペニスがあること、女の人にはペニスがないこと、そのかわり女の人にはだーい好きなおっぱいがあることを教えました。そのことを保育園の連絡帳に書いたところ、保母さん達が○○先生は女の人?男の人?と次々確認し、若くてきれいな先生はみんな女の人だったのに、担任の年配先生だけ“男の人"と言われた、と残念がっていました。
3歳ごろには、ペニスのことを教えたついでに、ペニスは清潔にしておかなくてはいけないことを教えようと思いました。世の中の少年・青年雑誌には「包茎の男は女にもてない!」と包茎手術の広告がたくさん載っています。私達女は、ペニスの大きさや形で相手を選んでいるわけではなく、その持ち主のハートの方が大切だと思っているのですから、将来そのような宣伝文句に踊らされないよう、“必要時にむける"ペニスになってもらおう。そのため、炎症を起こして包皮が癒着をおこさないよう、毎日お風呂でちょっとむいてきれいにする、ということを教えました。最初は私が“ちょっとむく"ということを不慣れながらやっていたのですが(もちろん私にとっても初めての体験)、ある日ちょっとむくつもりが、完全にむけてしまい包皮が戻らなくなってしまいました。相当痛かったらしく夫が帰宅して直してくれるまでパンツもはけないまま数時間を過ごしました。一歩間違えるとトラウマになってしまうところでしたが、幸い心に傷もつかず、決して人任せにせず(というより私には触らせず)自分で上手にペニスのお手入れが出来るようになりました。今はもう、一緒に入浴しませんから確認できませんが、今でもちゃんとお手入れ出来ていると思います。
お姉ちゃんが小学校中学年になったころ、『性の絵本』(大月書店)を買ってお姉ちゃんに説明している横で息子も一緒に聞いていました。5冊組の絵本で、自分で気になる本を読んでいるようでした。そこで、彼が小学生になってから、そろそろ自分の体の変化のことについて先に知っておいてもよいかなと思い、『ちんちんがやってきた』(学苑社)という本を買ってリビングにぽいっと置いておきました。この本は男の子を持ったお母さん向けの本ですが、漫画の挿絵もあったためこれまた勝手に自主勉強してくれました。彼は時々、自分で仕入れた知識を夜一緒に寝るときなどに、「朝、起きた時に大きくなってる時があるんだよ、これって勃起っていうんでしょ0!」と自慢げに披露してくれ、エサまき方式の性教育もありだな0と思いました。
私が夫のいびきから避難して子ども部屋で寝ることが多かったので、仕事や当直で不在にしている時間が長い割にゆっくり息子と話しする時間が多かったのかもしれません。何気なく発する性に関連する言葉を、アンテナをはって待ち構えていると、時々「その言葉、待ってました」というのが引っかかります。
「将来は胸の大きな女の子を彼女にする」(彼の名誉のため言っておくと、まだおっぱい好きの幼少期の話)…母「胸だけじゃなくて、心の優しい人を見つけてね」
「ここ(ペニス)をこすると気持ちいいんだよ」…母「気持ちいいことだけど、汚い手で触ったり、人前でしたり、人にしてもらうことじゃないんだよ。将来、女の人を自分が気持ちよくなるためだけに利用しようと思わないでね」
など、我が家の息子は少しユニークな発達特性をもっているので、一般的な母と息子の会話とは多少違うかもしれませんが、こんな感じで我が家の男の子の性教育(というか母と息子のじゃれあい)を行ってきました。これから、思春期に入ってもこんな感じでやっていけるのか、それともまた別の方式になるのかわかりませんが、コミニュケーションをなんとかとりつつ親が伝えたいことを発信していきたいなあと思っています。