産婦人科医かずこ先生の課外授業 12

丸橋 和子
東京民医連・立川相互病院産婦人科
ティーンズセクシャルヘルスプロジェクト・スタッフドクター


私の所属するティーンズセクシャルヘルスプロジェクトチームは、当初はその名の通り、10代の若者達の性の問題に対して作られたものでした。しかし、次第に人工妊娠中絶患者へのアンケートや講演活動や学習会を通じ、性の問題に取り組むべき対象者は幼児から大人まですべての年齢層にわたるのだと気付いてきました。思春期になってある日突然、性の問題が沸き起こり、それから解決する必要がでてくるのではないということです。幼い時から小さな疑問を解決しつつ、段階的に死ぬまで性の問題は疑問と解決の繰り返しが続くのです。そう、老人になってもです。

例えば、外見上の男女の違い。これはおそらくわが子の経験からも2~3歳ごろまでに疑問が湧いてくるようです。お父さんやお母さんのような大人での違い、お友達のような子どもでの違い。いろいろたくましく想像しています。私の同僚の3歳の娘さんは、パパが好きで、「自分にはいつになったらパパのようなおちんちんが生えてくるの?ママの小さいのじゃいや」と尋ねてきたそうです。

そして、自分やお友達に兄弟が出来るころ。今度は赤ちゃんはどこからどうやってやってくるのか疑問が湧いてきます。それは、自分がいかにしてこの世に誕生したのかというまったく基本的で科学的なまっとうな疑問、質問ですが、これを尋ねられた大人はなぜかドギマギし、「そのうちわかる」とか昔ながらの「コウノトリが連れてきた」などとはぐらかしたりするようです。出産のことは話せても、「どうして自分がこの世に存在したのか」という命の出会いの場面はどう説明していいかわからないという声もよく聞かれます。

私たちは、昨年から幼児とその保護者向けに「誕生のひみつ」と題した講座を設けています。第1部では助産師が「体のひみつ」「命の誕生」「つながる命」を子どもたちに、第2部で医師が保護者向けに、なぜ今の時期から伝える必要があるのか、保護者としての心構え、について話しています。

「体のひみつ」では、男の子と女の子のからだの違い、困ったときに伝えるためにお医者さんの使う正式な性器に関する名称、プライベートゾーンを守ることについて学びます。小学校就学前から低学年のうちに、身近な大人から体をさわられるなどの性被害を知らないうちにうけていることがあります。大きくなってその意味がわかった時に、大きな傷を抱えてしまうことも多く、幼くても自分のプライベートゾーンは大切、「みせて」と言われたり触られそうになったら断ってよく、そのことを親にちゃんと伝えることの必要性を子どもに直接伝えます。そして、プライベートゾーンに関することは大切なことなので、ふざけて話したりしない約束もします。

「命の誕生」では、受精卵から赤ちゃんが誕生するまでを学び、小さな点のような命の始まりから、お母さんの中で大切に守られて大きくなってきたこと、産まれるときには、お母さんもみんなもがんばってこの世に誕生したこと、そして、産まれた時のみんなの泣き声を聞いて、お父さんやお母さんはほっとして、そしてとてもうれしかったことを伝えます。

「つながる命」では自分たちの命は、両親、そのまた両親からずーっとつながっていて誰一人欠けてもみんなは存在しないこと、そして、一人一人かけがえのない大切な命であることを伝えています。

これらのことを、絵や模型、実際の誕生の時の赤ちゃんの声、本物の妊婦さんに胎児の心音を聞かせてもらうなどして40分間学びます。子ども達は、最初から最後まで真剣そのもの。子ども達の後ろで座っているお母さんのひざの上で見ていた子どもも、興味のある場面では最前列に乗り出してきたりします。命の誕生では、一部性行動を説明する場面があり、大人はドキマギしていますが、まっさらな頭の子ども達には、「こうやって自分が出来たんだ!」と、科学的な事実として疑問が解決し納得の顔です。その様子をみて、保護者の方々は、事後アンケートで、「これまで、身構えすぎていた。子どもが素直に受け入れている様子をみて、聞かれたことには普通に答えればよいと学んだ」と書いてくださっている保護者が多いです。

ところが、前回の講座では、お一人だけ、参加していたお父さんが、どうしても生殖に関して子どもに伝えるのは許せなかったらしく「こんなことは子どもにはまだ早い!!」と、嫌がるお子さんを連れて退席されました。子どもに「性、生」を伝えるとき、常に大人自身が、これまでどのように性に向かい合ってきたか、性に対してどのように捉えているかが問われます。自分の子どもに、いつ、どのような形で性の健康教育をするかは保護者の決めることと思いますが、「もっとみたいー!!」と言いながら、引きずられるように帰って行った男の子が、この経験をどのように捉えるのか気がかりです。

小さな疑問を解決する機会を失った子ども達はどうなるでしょうか?大人のついた嘘で自分なりに想像力をめぐらしファンタジーを作り上げることもあれば、この話題は決して親には聞いてはいけないのだと学んでしまう子どももいることでしょう。先の、お父さんに退席させられたお子さんが、「性」に関することに触れると大人を怒らせてしまう、と学んでしまい、性に関連した問題をどの大人にも相談できなくなる、といったことの無いように切に祈ります。

学校で生命や自分の誕生、いわゆる「性、生」について学び始めるのは、小学校中・高学年ごろと思います。しかし私達は、疑問が起こる時期に正しく、科学的に答える必要があると思っています。また、何より、自分のからだを知り、自分の身を守るという性的自己決定権を小さい頃から身につけ、性被害を未然に防いだり、もしも起こった場合も大人と相談でき、被害を最小限度に食いとどめる知識と技術を繰り返し伝えていく必要があるのではないかと思っています。


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